企業活動をする上で避けることができない問題の一つに、税金問題があります。自社では完璧な内容のつもりで申告を行っても、誤りがあれば税務署は是正を求めてきます。これが「税務調査」というものです。
この税務調査について、不安に思っている人も多いでしょう。関係ないことまで勝手に調べられてしまうのでは? 税金を通常よりも多く払わなければいけないのでは? そんな不安を払拭するためにも、企業としては税務調査を正しく理解し、対応する必要があります。
今回は税務調査について、そこまで怖がらなくて済む方法を考えてみましょう。
そもそも、税務調査って何?
税務調査とは、税務調査官が納税者の申告内容が正しいかどうかを確認するために行う調査のことをいいます。そもそもなぜこのような調査が認められているかというと、事実とは異なる申告により納税者間で不公平が生まれないようにするためです。
たとえば所得税や法人税は、納税者自身が所得などの申告をし、それに従い税額を納付するという「申告納税制度」となっています。そのため、申告には間違いや虚偽の内容が含まれる可能性もあります。事実とは異なる申告内容であれば、当然、本来とは異なる額の税金を納めていることになりますので、正しく納税している納税者との間で不公平な結果となってしまいます。
そのようなことが起きないよう、国税局や税務署の調査官が納税者の事務所等を訪問し、申告内容が正しいかどうかを質問や帳簿により確認し、場合によってはその申告内容を是正させる必要がります。そのために税務調査という制度が認められているのです。
このような「申告書の内容が正しいかどうかを確認し、申告内容に誤りが認められた場合や申告する義務がありながら申告をしていなかったことが判明した場合には是正を求める」までの一連の手続きを、税務調査と呼んでいます。具体的な内容については、平成23年度の税制改正において、国税通則法第7章の2に定められました。
つまり、税務調査は「申告書の内容を確認するための調査」であるため、税務調査が来たこと自体は、脱税が疑われていることや税金を追加で支払う必要があるということにはなりません。無駄に恐れる必要はありません。
税務調査イコール「脱税」ではない
税務調査では、具体的にどのようなことが行われるのでしょうか。基本的には、税務署からの「質問」と、それに対する「回答」が主体となります。
税務調査では「質問検査権」というものが国税庁等の職員に認められています。その内容は、所得税、法人税等に関する調査について必要があるとき一定の者に質問し、又は一定の帳簿書類等につき検査、提示、提出を求めることができる(国税通則法74条の2等参照)というものです。調査において、調査官の質問に答えない場合や帳簿の提出等を拒否した場合など一定の場合には、罰則の定めもあります。そのため、税務調査では、主にこの質問検査権を行使して、申告書の内容に誤りがないかどうかを確認していくことになります。
この手続きと混同されやすい手続きとして「犯則調査」というものがあります。…
犯則調査とは、脱税などの犯罪行為がおこなわれていないかどうかを調査し、犯罪があると判断された場合には、捜査機関に対し告発等を行う手続きのことです。この手続きの目的は、申告内容が正しいかどうかではなく、「脱税などの犯罪をしているかどうか」です。そのため、犯罪を調査するために必要があるときは、裁判所の許可を得て、帳簿等を差し押さえることなども認められます。しかし、この犯則調査は、具体的な脱税の容疑がある場合にのみ行われる限定的なものです。
税務調査がなんとなく恐いイメージがあるのは、映画などによる犯則調査のイメージと税務調査のイメージとが混同しているからかもしれません。しかし、ここでの最大のポイントは、税務調査はイコール犯則調査ではないということです。税務調査でも、納税義務者等に対し質問や帳簿書類等を提出させることができますが、それはあくまで納税者が任意で協力をすることが前提なのです。
いきなり税務調査が会社にやってくる?
それでは、実際の税務調査の流れを確認してみましょう。
税務調査と聞くと、いきなり税務署の調査官がやってくるというイメージを持っている方もいるかもしれません。しかし実際は、納税者に対して調査の日時・対象等を事前に通知することが原則であり、現実にも多くの調査で事前の通知がなされています。
その後、事務所などの現地において調査官から質問や帳簿等(通帳、請求書、領収書、契約書、議事録、給与台帳など)の内容の確認がなされます。質問調査内容は、会社の概要、売上までの流れ、人件費、報酬等の内容の確認、その他の経費などについてなされることが多いようです。
このときに調査官からの疑問等が出されれば、それを説明したり、反論したりします。その結果、場合によっては取引先などに裏付けのための調査が行われることもありますので、虚偽の内容とならないように注意が必要です。
調査官が現地で調査する期間は、数日であることが多いです。調査によって誤り等がなければ、その旨の通知がなされます。誤りが判明した場合には、その調査結果が説明され、修正申告を勧められるなどし、その結果に納得できる場合には納税者は修正申告をします。修正申告をしない場合には、税務署長から更正または決定の処分がなされます。
税務調査で会社の書類がすべてチェックされるわけではない
それでは、税務調査にはどのように対応をするのがよいでしょうか。
まず税務調査を受けるに当たっては、自らが提出した申告書の内容を正確に理解している必要があります。しかし、申告をしたのは過去のことなので、すぐに思い出せるとも限りませんし、申告書の基礎資料がすぐに取り出せないかもしれません。また調査には一定の時間がかかりますので、業務に影響が出る恐れもあります。そのため、事前通知の有無にかかわらず、まずは税務調査の日時の調整を試みるべきでしょう。
現地での調査では、無用な誤解をさけるために、何について聞いているのか、なんのために聞いているのかを理解しながら、聞かれたことについて最低限の回答をします。精神的な焦りなどからあやふやな回答をしないことが重要です。もし明確に回答できない場合は、「後日回答をする」と伝えたほうが得策です。
では、現地の調査で調査官から要求された資料は、すべて見せないといけないのでしょうか。答えは、ノーです。また、すべての質問に答える必要もありません。
ポイントとなるのが、先ほどふれた税務調査の目的です。繰り返しとなりますが、税務調査とは犯罪の捜査ではなく、あくまでも「申告書の内容が正しいかどうかを判断するための任意の調査」です。そのため、税務調査を行う調査官の質問調査権も無制限に認められているわけではなく「調査について必要があるとき」と限定されています。
そのため、たとえば同意も得ずに勝手に棚から任意の書類を選び調査をすることなども当然許されませんし、調査対象となっている課税期間とはまったく無関係の帳簿類、契約書等も見せる必要はありません。
税務調査においては、これらの点を十分に意識し、不適切な調査がなされないようにすることが、トラブル予防の観点から非常に重要です。
税務調査には専門家の立ち合いを!
税務調査をスムーズに行ううえでの一番のポイントは、税理士と弁護士といった専門家が立ち合うことです。
なぜなら税務調査を行う税務署の調査官は、その道のプロです。税務の素人が対応するのは現実的ではありません。また、税務調査の手続きで調査する側に不適切な点があったとしても、その場で指摘し、調査を防止できなければ、後日、争っても結論に影響しないこともあります。そのようなことを避けるためにも、税理士と弁護士を立ち会わせるべきです。
この場合、税理士と弁護士を共に同席させるのが良いでしょう。なぜなら、税理士は税務について専門ですが、交渉や法解釈、事実認定を得意とする人は少ないと思われるからです。弁護士にもその反対のことがいえます。
より良い手段としては、税務調査の時だけでなく、普段の企業活動から専門家のサポートを受けておくことでしょう。普段から申告時に説明できるような資料(契約書など)を作成しておけば、税務調査の段階であわてることはより一層少なくなります。このような観点からも、弁護士などの専門家の活用を検討してはいかがでしょうか。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2014年1月23日)のものです。