取引先との間でトラブルが生じることはできるだけ避けたいところですが、まったく無くすことは難しいでしょう。トラブルが発生した場合には、まずは担当者レベルの口頭による交渉で円満な解決を図ることになります。しかし、それが決裂した場合には、会社として書面でクレームを送り、対策を求めるという流れになります。
クレーム書面は、一方的に要求を書いて送ればいいというわけではありません。状況や要求によって効果的な書き方、送り方があることを知っておくと、いざというときに役立ちます。
クレーム書面を送ることと、裁判訴訟を起こし、勝つことは別問題です。訴訟で勝てる見込みがなくても、クレーム書面を送ることは構いません。それは法律に抵触したことに起因するトラブルでなくても、業界のモラルや慣行に反するという観点などから、相手に是正を求める場合に、クレーム書面が有効だからです。
クレーム書面を作成する際は、法的に勝算があるかをまず考えましょう。法的に勝算があるのなら要求を押し通せる可能性が高いので、文面も強い調子でも構いません。
逆に法的な勝算が少ないにもかかわらず威圧的な文面で送ると、まったく取り合ってもらえない可能性が高くなります。法的な勝算がなく、業界のモラルや慣行に反することなどによるトラブルの場合は、先方の都合にも配慮し、一定の猶予期間を設けるなど、穏当な文面でまとめましょう。
クレーム書面の送付先は、担当者もしくは代表者・担当役員という2通りが考えられます。そもそもクレーム書面を送付するのは、担当者レベルの協議が決裂した場合が多いでしょう。その段階でクレーム書面を出す目的は、交渉窓口をよりレベルの高い役職の人に変えて、解決の道を探ることにありますから、その宛先を担当者にしたのでは交渉は進みません。解決をめざすのなら、宛先は会社の代表者・担当役員ということになります。
もちろん、会社の代表者・担当役員宛てに送ったからといって、必ず本人の目に留まるとは限りません。ある程度の規模の会社になれば秘書や総務担当者が内容を確認し、法的なクレーム書面と判明すると、法務の担当者に回されるのが一般的です。しかし、基本的には法務担当者だけで、対応することは難しいので担当役員など上席に伝わります。
トラブルが発生したのに、先方の担当者が上席にそれを報告せず、交渉経緯などの情報が共有されていないこともあります。そうした場合、クレーム書面の宛先を代表者や担当役員にすれば、交渉窓口をレベルの高い立場の人に変えるという目的は達成できます。
一方の送り主の名前については、すでに担当者レベルで解決は難しくなっているという前提ですから、担当者という選択肢は基本的にはありません。自社の代表者・担当役員、もしくは代理人としての弁護士名義という2つから選ぶことになります。
2つのうち、弁護士名義を送り主にする最大のメリットは、先方にプレッシャーを与えることができるということです。その半面、弁護士名義で送る場合、解決するまで法律論の応酬となるケースが少なくありません。先方も弁護士を代理人に立てる可能性が高くなります。
ですから、法的に勝算が高くない事案に関して、弁護士名義でクレームを送付することは逆効果になる可能性が高いでしょう。送付しても先方の弁護士から法的な強い反論を返され、それに対する再反論に法的根拠が弱ければ、要求を退けられてしまうからです。したがって、弁護士名義の送付は、法的に勝算が高く、それまでの交渉態度が不誠実、先方が悪質と思われる条件がそろっている場合などで選択すべきです。
また、互いに弁護士を立てるという状態は、交渉が決裂して紛争に発展してしまったという印象が強くなります。できれば取引先とそのような関係になることは避けたいという場合や、法的には勝算は高くないが、少しでも先方に損害の埋め合わせなどを要望したい場合には、代表者・担当役員名義で送付して、解決案を導き出しましょう。
書面の送付方法も吟味すべき
クレーム書面の送り方としては、通常の郵便、配達証明付きの書留郵便、内容証明郵便の3通りが考えられます。通常の郵便と異なり、配達証明付きの書留郵便や内容証明郵便は先方に配達された事実と、その日付を郵便局が証明してくれます。さらに内容証明郵便の場合は、配達された書面の内容まで証明してくれます。
配達証明付きの書留郵便や内容証明郵便で送れば、相手に開封前から仰々しい文書が送られてきたというプレッシャーを与えることができます。この2つの送付方法は、最初からプレッシャーをかけたい場合に選択するものです。もし法的な勝算が高くない場合や、また先方がそれほど悪質性ではない場合などには、避けたほうがよいでしょう。そのような場合は、通常郵便で送るのが妥当です。
当事者同士で解決できなかったトラブルを、代表者・担当役員などのレベルで解決させる第一段階がクレーム書面です。たとえトラブルの発生を上席に報告していたとしても、クレーム書面が届けば、取引先の担当者は自分のレベルでは解決できなかったと判断され、社内での立場が悪くなったり、評価が下がったりすることもあります。
こうしたことにより、クレーム書面を出せば、担当者も含めて取引先との関係が変わる可能性があります。その会社との他の取引なども考えて、クレーム書面の活用は慎重に考える必要があります。しかし、担当者同士でいくら交渉しても、進展がないトラブルもあります。その早期解決の第一ステップとしては必要な手段といえるでしょう。