弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第114回)災害時における中小企業の労働法対応(後編)

法・制度対応

公開日:2024.03.21

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 前編では、災害の影響により事業主が従業員を休業させる場合に休業手当を支払う必要があるのかについて、いくつかのケースを挙げて検討しました。後編では、事業主が災害を理由に従業員を解雇する場合の法律上の問題点について、前編同様、厚生労働省「令和6年能登半島地震に伴う労働基準法や労働契約法等に関するQ&A」(以下:Q&A)を参考に検討します。

災害を理由とする解雇について

 災害の影響により会社が厳しい経営環境に置かれている場合、事業主は従業員を解雇できるかについては、労働法の規定に従って判断する必要があります。労働契約法は、解雇について「…客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています(第16条)。

 これは、解雇権濫用法理という判例法理を明文化したもので、解雇が有効となるためには、①解雇に客観的な合理的理由があり、②従業員を解雇することが社会通念上相当であるという2つの要件を満たす必要があるとするものです。

 一般的に、災害により事業場が被害を受け、操業不能に陥ったため従業員を解雇することは経営上の必要性に基づくものであり、解雇の客観的な合理的理由となり得ます。ただし、従業員の責めに帰すべき事由による解雇ではなく、事業主が会社を存続させるために行う人員削減であり、いわゆる「整理解雇」に該当します。

 整理解雇は裁判実務において、解雇の有効性が厳格に判断されます。具体的には、①人員削減の必要性、②解雇回避に向けた努力、③被解雇者選定の妥当性、④手続きの妥当性(従業員の納得を得るための説明など)の4つの要素に関する諸事情を総合的に考慮して、その有効性を判断します。

 例えば、災害によって事業場が被害を受け操業不能に陥ったとしても、操業再開の見込みがあるような場合には、そもそも人員削減の必要性(①)がないと判断される可能性があります。また、前編で紹介した雇用保険制度の特例措置や雇用調整助成金など、災害時における国の支援策を活用した雇用の維持を検討せず、いきなり従業員を解雇すれば、解雇回避に向けた努力(②)を尽くしていないと判断される可能性があります。これらの場合、結論として解雇は無効とされる可能性があります。

 さらに、パートタイム労働者、派遣労働者、契約社員などに多く見られる期間の定めのある労働契約(有期労働契約)については、労働契約法第17条第1項において、「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」と規定されています。

 正社員よりパートタイム労働者、派遣労働者のほうが解雇しやすいと考える方もいるでしょう。しかし、有期労働契約は契約期間中の雇用を保障するという観点から、無期労働契約よりも解雇は無効とされる可能性が高いと考えられます。

 結局のところ、災害の影響により会社が厳しい経営環境に置かれている場合であっても、事業主は安易に従業員を解雇せず、災害時における国の支援策を活用するなどして、できる限り雇用の安定に配慮することが望まれます。

解雇予告または解雇予告手当の支払い…

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執筆=上野 真裕

中野通り法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)・中小企業診断士。平成15年弁護士登録。小宮法律事務所(平成15年~平成19年)を経て、現在に至る。令和2年中小企業診断士登録。主な著作として、「退職金の減額・廃止をめぐって」「年金の減額・廃止をめぐって」(「判例にみる労務トラブル解決の方法と文例(第2版)」)(中央経済社)などがある。

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