仕事や勉強でやる気が出なかったり、ずるずると先延ばしにしてしまうような時は、自分を叱咤激励するだけではうまくいかないこともあります。まずは「やる気の出し方」そのものが間違っていないか、振り返ってみましょう。
やる気の源はどこにある?
今、「やらなければいけない」と思っている仕事や勉強。「なぜ、やらなければいけないのか?」を考えたことはありますか?
たとえば、やらなければ職場での信頼を失う、昇給が危ぶまれる、同僚は資格を取得したのに自分はまだだから、この仕事をやり遂げたら出世の道がひらける、資格を取れば資格手当がもらえる……、このような理由ではありませんか?
それとも、就きたかった仕事に就くことができ、楽しくて仕方ないから続けていたい、興味のある分野の本だからいつまでも読んでいたい、ということが理由でしょうか?
心理学の世界では、人や動物に行動を起こさせ、その行動を目標に向かって維持・調整する過程・機能のことを「動機づけ(英: motivation、モチベーション)」と呼びます。
「仕事をしなければ職場での信頼を失う」と思ったり、「仕事が楽しくて仕方ない」と思うことは、人が仕事をするための「動機づけ」となりうる理由です。しかし、この2つの理由には、大きな違いがあります。
内発的動機づけと外発的動機づけの違いとは
動機づけには「外発的動機づけ」「内発的動機づけ」の2つの種類があります。
それが義務である場合や、する・しないによって賞罰を受ける場合、または他人からの強制によってもたらされる場合など、こうしたことを理由とした動機づけを「外発的動機づけ」と呼びます。
たとえば、「やらなければ職場での信頼を失う」という思いを抱えている場合、…
仕事をすることは「信頼を失わないための手段」となります。「資格を取ることで資格手当を受け取ることができる」場合も、「資格手当を受け取り、金銭的に潤うための手段」が動機となっているわけです。外発的動機づけにもとづく行動とは、つまり「手段」でしかないため、仕事や勉強そのものを楽しんで行っているとは限りません。
逆に、自分自身の達成感、充実感などによってもたらされる動機づけを「内発的動機づけ」と呼びます。「仕事や勉強そのものが楽しくて仕方なく、いつまでも続けたい」というとき、私たちは内発的動機づけに突き動かされているのです。この状態を、心理学者のミハイ・チクセントミハイは「フロー」と名付けています。
内発的動機づけと外発的動機づけは、相反するものではなく、両立することもあります。たとえば「好きでたまらない仕事に就いて、報酬をもらうことができる」という場合は、内発的動機づけと外発的動機づけが同じ方を向いていますので、仕事に対するやる気を継続しやすい状態になっているのです。
「ご褒美=外発的動機づけ」のメリット・デメリット
「これをやり遂げたら、自分にご褒美を与えよう」と決めて、勉強や資格取得に取り組む人がいます。これは、子どもに「成績が上がったらご褒美をあげる」という方法で勉強をさせることに似ています。
「勉強は本人のために役立つものだから、お金や物で釣るような方法は良くない」といった議論は昔からあります。ただ、それまで「全く勉強をしなかった子どもを、勉強に向かわせることができる」という意味では、ご褒美という外発的動機づけは効果を上げる場合があります。
しかしながら、子どもが勉強の面白さに目覚めることなく、ご褒美目当ての勉強だけを続けている場合、やがては「ご褒美がないと、勉強しない」という姿勢に変わってしまいます。外発的動機づけだけに頼って、子ども・部下をコントロールしようとすることの弊害を、心理学者のエドワード・L・デシは著書『人を伸ばす力-内発と自律のすすめ』で取り上げています。
デシは、ご褒美(報酬)を与えるという方法は、一度始めると簡単に止めることができず、またご褒美を得るために仕事や勉強の手抜きルートを選ばせるようにもなる、として注意を喚起しています。
内発的動機を高めるには?
私たちがやる気を出し、継続し続けるためには、内発的動機づけが大きく関わってきます。逆に、報酬や賞罰などの外発的動機づけにもとづく行動は「報酬・賞罰がなければやる気もなくなる」ということにつながります。
デシによれば、人間は生まれつき「有能感」と「自己決定感」への欲求を持っており、内発的に動機づけられた行動は、これらの欲求を満たしてくれるとされています。有能感とは「自分にはできる」という感覚のことで、「自己決定感)」とは他者から強制されるのではなく、自分で選んだのだという感覚です。さらに、他の人との温かい交流を持ち、他の人から信頼してもらえたり応援してもらえることも、内発的動機づけを高めるとデシは述べています。
「やる気が出ない」と悩んでいる人は、これまでに「自分ができること」がどのくらい増えたのかを振り返ることで、有能感を取り戻しましょう。そして、「この仕事・勉強をするということは、自分が決めたのだ」と、決意したときの気持ちに立ちかえりましょう。さらに、仕事仲間・勉強仲間などと温かい交流を持ち、励まし合って進めていくことを視野に入れるのも、良い方法です。
今回は自分の内側にある「やりたい」や「自分にはできる」という気持ちを育てることが、やる気を出し、そしてそれを維持するために大切だということをご紹介しました。次回は「やる気が出ない」「できない」理由に着目したいと思います。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2015年2月12日)のものです。