病原体から身を守る重要な役割を担う「喉」は、40代ごろから老化が始まり唾液量が減っていくといいます。「むせる」「せき込む」「喉に食べ物が詰まる」といった違和感を覚えたら、老化のサイン。放っておくとインフルエンザや肺炎などの感染症にかかりやすく、誤嚥(ごえん)による呼吸器トラブルのリスクが高まるとされています。
今年は例年よりも早くインフルエンザが国内で広がり始めました。茨城県、東京都、福岡県、山形県などの小学校では学級閉鎖が報告されています。インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原とする気道感染症で、おおむね口や鼻から侵入していきます。そこで今回は、いつまでも病気知らずの健康体で過ごすために、喉の老化を防ぐケアを紹介します。『長生きしたければのどを鍛えなさい』の著者であり、池袋大谷クリニック院長、呼吸器内科専門医の大谷義夫先生に話を伺いました。
喉を老けさせる生活習慣と老化のサイン
「風邪をひくと喉が痛くなるのは、喉が生来弱いからということではなく、体内に侵入した病原菌や、体内で発生するがん細胞などから身を守る免疫システムが活発に働いている証し。感染症を予防できるかどうかは、喉の状態にかかっていると言っても過言ではない」と大谷先生は言います。喉の老化を助長する生活習慣を放っておくと免疫力も低下させてしまうと指摘します。
<喉を老けさせる生活習慣>
□ タバコを吸う
□ 脂っこい食べ物が好き
□ アルコールを毎日たくさん飲む
□ いびきや無呼吸がある
□ 野菜が好きではない(あまり食べない)
□ 血圧が高い
□ 胸焼けがある(胃酸の逆流)
□ 会話する頻度が少ない
また、次のような違和感は喉の老化サインだそうです。
<喉の老化サイン>
□ 食事中や食後にムセることがある
□ せき払いが増えた
□ 朝声が出にくい
□ 声がかすれる
□ 喉が詰まっている感じがする
□ 液体のほうが飲み込みにくい
これらのうち1つでも当てはまるものがある場合は、次にご紹介する大谷先生考案のトレーニングで、喉の老化対策を行ってみてください。
喉の老化を予防・改善する喉トレーニング…
喉の老化を防ぎ免疫力を高めるポイントは、「喉を潤す」「飲み込む力を強化する」の2つ。どちらも食生活の工夫やちょっとしたトレーニングで実践できると大谷先生は言います。
(1)喉を潤す唾液腺マッサージ
喉を潤す「唾液」は、異物を攻撃する成分や、細胞を修復したり成長させたりする因子を含む天然の消毒薬なのです。例えば、歯の表面や間についた歯垢や食べカスを洗い流して口の中を清潔に保ったり、喉の免疫力を支える線毛の動きをスムーズにしたりする役割を担っています。つまり、喉を守るためには唾液の分泌を促すことが欠かせません。そこで役立つのが、唾液腺マッサージというわけです。
唾液腺マッサージ
唾液腺は、耳下腺(じかせん)、顎下腺(がくかせん)、舌下腺(ぜつかせん)の3カ所にあり、これらに刺激を与えて唾液腺をマッサージします。
[1] 耳下腺を刺激するマッサージ
指数本を耳の下に当て、鼻に向かって指全体で優しく10回ほどなでる
[2]顎下腺を刺激するマッサージ
親指を顎に当て、あごの下から耳の下まで3~4箇所に分けて順に押していく
[3]舌下腺を刺激するマッサージ
両手の親指をそろえて顎下に当て、10回ほど上方向にゆっくり押し上げる
食事にヨーグルトをプラス
この他、食べるものでも唾液の分泌を促すことができます。食事で喉を潤すには、味噌汁などの水分が多い料理から食べたほうがいいと思われがちですが、「水分は誤嚥しやすいため最初のひと口には向いていない」と大谷先生は言います。
ひと口目に適しているのは実は“粘りのある食べ物”で、とりわけヨーグルトがオススメだと解説します。特に粘り気の強いヨーグルトは、喉を勢いよく流れる汁物料理よりも喉をゆっくりムラなく通過するため誤嚥を防ぐことができ、より喉の環境に優しいとのこと。また、粘るヨーグルトは他の食材によくからみ、口内でそしゃくすることで唾液が出しやすくなります。さらに、腸内環境を整える効果が期待できる上に無理なくたんぱく質を取れるので、大谷家ではヨーグルトをフルーツや野菜にかけて、ひと口目の食材として家族全員で食べているそうです。
(2)飲み込む力を強化する体操
誤嚥予防だけでなく、おいしく食事するために重要な飲み込む力は、加齢による筋肉量の減少に伴い衰えていきます。「顎持ち上げ&イィー体操」と「舌出し体操」で飲み込むための筋力を維持・増強しましょう。
顎持ち上げ&イィー体操
[1] 顎の下(舌下腺のあたり)に両手の親指を当て、下向きに顎を引く。このとき、親指は顎を押し戻すように上方向に力を入れる
[2] できるだけ口を横に大きく開き、歯を食いしばるように力を入れ、「イィーーーーー」と10秒ほど、長めに声を出す
舌出し体操
[1] 口を大きく開いて、舌を出したり引っ込めたりする動きを2〜3回繰り返す
[2] 舌先を左右に大きく動かす
※舌をできるだけ大きく動かしましょう
喉トレーニングで喉の働きを強化することで、外界から侵入した病原菌を跳ね返す「せき反射」がスムーズになると大谷先生は言います。年を重ねてもおいしく食事を楽しむために、また感染症対策として、喉の老化を防ぐケアを今日からでも始めてください。
【取材協力】
大谷義夫(おおたに・よしお)医師/池袋大谷クリニック院長
1963 年生まれ。群馬大学医学部卒業。東京医科歯科大学呼吸器内科医局長、同大学呼吸器内科兼任睡眠制御学講座准教授、米ミシガン大学留学などを経て、2009 年より現職。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医であり、日本アレルギー学会専門医・指導医。著書に「長引くセキはカゼではない」(KADOKAWA)、「肺炎にならないためののどの鍛え方」(扶桑社)「長生きしたければのどを鍛えなさい」(SB新書)などがある。