3月ごろまで油断がならないインフルエンザ。各地で猛威を振るっているようですが、体調管理はいかがでしょうか。湿度が下がり乾燥した季節は感染症を起こしやすく、特に注意をしなければなりません。職場や家庭に感染が広がらないように、1人ひとりが対策を心がけたいものです。
今回は、インフルエンザが大流行する時期の過ごし方について、「長生きしたければのどを鍛えなさい」の著者であり、池袋大谷クリニック院長の大谷義夫先生(呼吸器内科専門医)に話を伺いました。
1日数回のうがいより、10分に1回の緑茶補給
「インフルエンザウイルスは気道に入ると比較的短時間で感染します。湿度が低く乾燥する冬は、口の中が乾燥しやすく感染症にかかりやすい状態だといえるでしょう。本来、のどは潤っていることで、ウイルスの侵入を防ぐ機能が正常に働きます」と大谷先生。そのため、1日数回の水うがいでは、インフルエンザに対する予防効果が期待しにくいと指摘します。
大谷先生が実践するインフルエンザ対策は、7~10分おきに緑茶を1口飲むことです。口内の乾燥を防ぎつつ、緑茶に含まれるカテキンによる抗ウイルス効果が期待できるといいます。
歯磨きの頻度を高めることもインフルエンザ予防の近道
こまめな水分補給以外について、大谷先生は次のように話します。
「私は1日3回の食事の後と、朝起きた後と寝る前の1日5回、歯磨きをしています。口の中の細菌からは「プロテアーゼ」「ノイラミニダーゼ」という酵素が産生されますが、これらの酵素が必要以上に増えると、インフルエンザウイルスの気道への侵入・増殖を許してしまいがち。そのため、歯磨きなどで口腔(こうくう)内をケアして、ウイルスが増えにくくすることもインフルエンザ予防の1つなのです」
外出先で歯磨きができない場合は、口腔内洗浄液も役立つとのこと。
身近にできる対策例として食事も工夫しよう…
大谷先生に感染を防ぐ食生活の工夫を伺ったところ、次のようにアドバイスをいただきました。
「インフルエンザウイルスに対抗するためのオススメ食材は、きのこです。理由は、インフルエンザなどに感染するリスクを軽減する『ビタミンD』が豊富に含まれているから。舞茸は、きのこ類の中でもビタミンDの含有量がトップクラスなので、積極的に食べるといいでしょう」
「ビタミンDは風邪をひくリスクも軽減できます。また、風邪の予防に限れば、ビタミンCが有効であるという研究結果(※)が出ています。特に重労働下の厳しい環境で睡眠不足や疲労が蓄積された状態の場合は、意識的にビタミンCを多く含むレモンを取り入れることをオススメ。カテキン入り緑茶だけでなく、レモン水での水分補給を取り入れるのもいいですね」とのこと。
※出典:上気道感染症を科学する「ビタミンCとかぜとの関連」(『日本胸部臨床』75巻 9号/2016年)
過去の連載、第26回ではメタボ対策食材として舞茸を、第42回では健康長寿の食材としてレモンを紹介しました。レモンと舞茸を入れた冬の鍋は、体を温めるだけでなく、感染予防や健康維持にも効果が期待できそうです。
食生活以外に普段からできる予防対策としては、室内の温度・湿度調整やマスクの着用などが挙げられます。こちらについては第21回の記事を参考にしてください。
万一、感染してもつらい不調を長引かせないために
インフルエンザが疑われる不調を感じた場合は、自身の回復のため、周囲への感染を拡大させないためにも、早めの対処が大切です。次のような症状が見られる場合は直ちに医療機関を受診しましょう。
インフルエンザへの感染が疑われる症状例
<大人の場合>
●呼吸困難または息切れがある
●胸の痛みが続いている
●3日以上熱が続いている
●脱水の可能性がある(下痢・おうとなどで水分が取れないなど)
<小児の場合>
●けいれん
●反応が鈍い(呼びかけに答えないなど)
●落ち着きがない、暴れる、意味不明の言動が見られる
●呼吸が速い、息苦しそうにしている
●顔色が悪い(土気色、青白いなど)、唇が紫色
●脱水の症状が見られる(下痢・おうとなどで水分が取れない・尿量が少ない・泣いている乳児の涙が出ないなど)
※出典:東京都感染症情報センター「インフルエンザ対策のポイント」から該当する症状を引用
冬の乾いた気候だけでなく、疲労や睡眠不足も免疫力を低下させる原因です。生活リズムや睡眠の質を整えて感染症に負けない体を維持しましょう。のどの潤いを維持したり、口腔内を洗浄したり、食事を工夫したりするなど、感染を予防するための取り組みを、今日からでも取り入れてください。
【取材協力】
大谷義夫(おおたに・よしお)医師/池袋大谷クリニック院長
1963年生まれ。群馬大学医学部卒業。東京医科歯科大学呼吸器内科医局長、同大学呼吸器内科兼任睡眠制御学講座准教授、米ミシガン大学留学などを経て、2009年より現職。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医であり、日本アレルギー学会専門医・指導医。著書に「長引くセキはカゼではない」(KADOKAWA)、「肺炎にならないためののどの鍛え方」(扶桑社)「長生きしたければのどを鍛えなさい」(SB新書)などがある。