「膝の痛みというと、激しい運動時のケガや老化によって起こるものと思われているかもしれません。ですが最近は、運動不足の解消に始めた軽い運動などが原因で膝のトラブルを抱える人が増えています。しかも20代にしてです!」
そう語るのは、スポーツドクターであり整形外科医の佐藤 務(さとう つとむ)先生です。今回は、若い世代や最近運動をし始めた人こそ気を付けたい「膝痛」の原因と対策を伺いました。
20~30代に起こり得る膝の不調
ピップが20~59歳の女性4961人に行った調査(2018年11月)によると、40~50代の約35%が膝の痛みを感じており、若年層に当たる20~30代は、約29%の人たちが何らかの膝トラブルを抱えていることが分かりました。
さらに、ピップと佐藤先生が、ヨガやダンスなど軽い運動を行っている20~30代女性を対象に行った調査※では、膝に痛みや違和感を抱えている人のうち、約58%が日常生活に支障を来していると答えています。
※「ピップ 若い女性のひざの痛みに関する実態調査」2018年11月(n=206)
佐藤先生はこう指摘します。
「若年層における膝の痛みや違和感は、加齢を原因とするものではありません。その多くの原因は、もともと足の動かし方が悪かったり、そもそも足の筋肉が不足していたりすることなどが考えられます。このほか、運動不足や健康のためにと始めた運動が引き金になることもありますので注意が必要です」
膝痛になりやすい動作や体形…
ヨガやダンスなどの軽い運動でも起こる膝痛は、以下のような動作や体形が影響していると考えられています。
| (1)膝の靭帯に負担をかける動かし方 反復横跳びなど、横移動や跳躍を伴う動きは膝に大きな負荷がかかります。四つん這いからの片足上げなど、角度とバランスが悪いと膝に全体重がかかるポーズや運動も注意が必要です。 |
| (2)膝の動かし過ぎ 筋力トレーニングやストレッチでも、やり過ぎは禁物。インターバルがなく長時間行っていると、気付かないうちに膝への負担が増えて疲労をため込んでしまいます。 |
| (3)筋力不足 特に、膝を伸ばすときに必要な大腿四頭筋(前太ももを構成する4つの筋肉)の筋力が低下してくると、歩く、走る、椅子から立ち上がる、階段を上り下りするなどの日常生活にも支障が出ます。 |
| (4)足の形 O脚やX脚といった足のゆがみは膝に体重の負担がかかりやすくなります。O脚では内側の軟骨、X脚では外側の軟骨が摩耗し、その程度がひどくなると、加齢に伴い痛みも増していきます。 |
膝が痛くなるから運動をしない、というのではますます運動不足になるばかり。運動慣れしていない人は女性に限らず、男性も注意が必要です。膝に過度の負荷をかけない、膝回りの筋肉を強化するなどの対策をしながら運動を続けられるようにしましょう。
膝痛を重症化させないための対策
膝に違和感を抱いたら、早めのケアで重症化を予防しましょう。
「重症化予防のポイントは3つ。食事、運動、サポーターなど膝を保護する装具の着用が効果的です。手軽に取り組める方法ですので、痛みが改善した後でも継続しましょう」と佐藤先生。次のように、詳しく教えていただきました。
| (A)食事 骨や筋肉の基礎をつくるたんぱく質を積極的に摂取しましょう。5大たんぱく源である肉・魚・卵・乳製品・大豆製品のうち毎食2種類以上を摂取するよう心がけてください。 |
| (B)運動 運動する上で大腿四頭筋の筋力アップは欠かせません。膝回りに必要な筋肉を鍛えることで、膝痛の重症化を予防しやすくなります。まずは、自宅で簡単にできることから始めましょう(下記コラムを参照)。 |
| (C)装具 足を正しく動かす補助となるのが、ドラッグストアなどで購入できる膝関節のサポーターです。不安定な膝関節をサポーターで安定させることで、負担の軽減や痛みのコントロールに役立ちます。また、膝の保温効果が期待できるでしょう。膝を温めることで、血液の循環が促されて筋肉の緊張が和らぎ、疲れにくくなります。運動時だけでなく日常生活でも着用するものなので、ずれ落ちにくく動きやすい、サポート力の強いものを選びましょう。 |
膝痛の重症化を予防する運動例
【膝の上げ下ろし運動】
椅子に座り、ゆっくり片足ずつ各10回、曲げ伸ばしを繰り返します。その後、片足を持ち上げ、膝を伸ばしたまま30秒キープ。もう片方の足も同様に行います。慣れてきたら、浅めに腰掛けるようにして徐々に運動負荷を上げてください。
【直立屈伸運動】
椅子に腰掛けた状態から同じ速度で10回、ゆっくりと屈伸運動をします。膝に痛みを感じる場合は高めの椅子を使うとよいです。負荷を上げる場合は、低めの椅子を使いましょう。
【前傾肘付き屈伸運動】
テーブルに肘を突き、太ももの後ろの筋肉を意識しながら、同じ速度で膝を10回、ゆっくりと伸ばします。直立屈伸運動と同じく、負荷を上げる場合は、椅子を低めにしましょう。
毎日を快適に過ごすために、膝のケアはとても重要です。食事や筋力強化、サポーターなどで膝を痛みから守り、健康維持のための運動も、安全に楽しく続けられるようにしましょう。
【取材協力】佐藤 務先生
稲毛病院 整形外科・リハビリテーション科/健康支援科部長 産業医。専門は整形外科だが、予防から在宅医療まで総合医療を展開。栄養学を基本とするダイエットやサプリメントの研究を行い、その知識と指導力は各界で支持されている。昭和大学医学部統合医学科講師。健康スポーツ医。日本医師会認定産業医。