景気回復局面。どこの業種を見渡しても人手が足りていないようだ。社員の高齢化はどんどん進む。日本自体も高度な少子高齢化が進行中で、待っていても人手不足は解消されないだろう。この問題を解決するには、すでに働いている人材の生産性を上げると同時に、これまで働いていなかった人材の活用がキモになる。その両方に効くのが、“働く場所の拡大”である。
すでに働いている人材の労働時間を増やして人手不足に対応するのは、安倍内閣の推進する働き方改革に逆行する。ただでさえ世界的に長いといわれる日本人の労働時間を、これ以上延ばすのは不可能だ。しかし、時間を効率的に使うように促すなら手立てはある。
例えば、移動時間の無駄を省けば、実労働時間は増やせる。朝夕の取引先への訪問は、直行直帰が原則。会社には無理に出社せずともよい。会社への報告はインターネットを通して行う。いったん出社しなくてはというストレスもかからず、就業時間を有効に利用できる。オフィスに縛られず、最適なルートで仕事と向き合わせるのがポイントだ。
こうした働き方を実現するために必要なのは、ノートパソコンのようなモバイル端末と、それを使って情報をやり取りするためのネットワークだろう。この2つがあれば、外出先でもオフィス同様の仕事が実現するケースは多いはずだ。
どこでも仕事ができるようになれば働き手は増える…
すでにモバイル端末は普及し、Wi-Fiの整備も進みつつある。誰もが利用できるフリーなWi-Fi環境を整えた公共施設や飲食店も増えた。あとは、企業が働き方の変革を認めるだけだ。すでにカフェでノートパソコンを開いて仕事をしている姿は、日常的な景色になりつつある。この流れに乗り遅れれば、競争力は落ちてしまうところまで来ている。
オフィスに縛られない働き方を認めることは、これまで十分ではなかった女性や高齢者などの人材活用拡大にも効果的だ。子育てや介護で家庭を離れるのが難しくても、自宅ならば働けるケースもあるだろう。高齢者も、通勤がなく自宅で短時間働くだけなら、できる仕事の選択肢は増えるだろう。
オフィスの外でも仕事ができるようにすることは、企業変革の切り札だ。多様な働き方に対応し、通勤・移動の無駄が減る。弊害があって働けなかった有能な人材を確保できるようになるのだ。
情報セキュリティーの確保とマネジメントが新たな課題
働く場所をオフィスに限定しないのは、良いことずくめのように見えるが落とし穴もある。社内では基本的に自分の机があり、そこで仕事をする。デスクの上には自分用のパソコンが置かれ、ネットワークケーブルでつながれている。パソコンは社有資産として管理され、社内のネットワークはセキュリティーを考慮したものだ。
社外で働く場合はどうか。持ち歩いているノートパソコンは盗難や紛失のリスクがある。公衆無線LAN環境で社内のシステムにアクセスすると、IDやパスワードが盗まれるなど、情報漏えいの危険にもさらされる。
働く場所を拡大するなら、こうしたリスクへの対応が不可欠だ。社外で使うパソコンを管理し、セキュリティーを強化する必要がある。これまでも企業は社内のパソコンを管理してきた。しかし、社外のパソコンはそれと同じ手法では管理しきれない。利用場所を選ばないことを前提とした、新しい資産管理の手法が必要になるだろう。すでに多くの企業が、こうした流れに合わせたツールを用意している。
オフィス以外で働く従業員が増えれば、労務管理や評価システムを見直す必要も出てくる。直行直帰が当たり前になれば、労働時間の把握は難しくなる。自宅で働く場合には、プライベートな時間と勤務時間を明確に分けることが難しくなる。場所を選ばず多様な働き方をする社員それぞれに対して、公平な管理と評価を実施する仕組みが必要になる。
情報セキュリティーの強化、労務管理、評価システムの見直しなど、働く場所を選ばない仕事の仕方を導入するハードルは低くはない。だが、企業の生き残りには避けて通れない道だ。本格的に取り組まなければならない時期に、もう来ている。