突然ですが、アイアンを振るタイミングに迷ったことはありませんか。男性のアベレージゴルファーであれば、ミドルホールのセカンドショットやロングホールのサードショット、そしてショートホールのティーショットでアイアンを使うケースが想像できるでしょう。
アイアンは番手ごとにロフト角が4度前後異なり、それにつれて、およそフルスイングの飛距離が8~15ヤードずつ変わります。そう、アイアンは、グリーンを狙うためのクラブと思ってほぼ間違いありません。クラブ選びのポイントの第三弾。今回はアイアンについてお話したいと思います。
最近のアイアンセットは、男性用では5番以下となっているセットがほとんどで、3~4番のいわゆるロングアイアンは影を潜めました。女性用では7番以下です。UT(ユーティリティー)の登場と進化によって、アイアンの役割をUTで対処するプレーヤーが増えてきているからです。ロングアイアンの役割は、すでにUTに変わられたといっていいでしょう。
少しでも飛ばしたいドライバーと比べて、アイアンに求められるのは正確性です。アイアン自身の性能とそれを振るプレーヤーの技術が伴わなければ、グリーンまでの距離に適したクラブ選択はできません。かつては、曲げる・止めるといったテクニックもアイアンを操る上で欠かせないスキルでしたが、そうしたシーンでも、より扱いやすいUTを選ぶプレーヤーが増えているのは仕方のないことかもしれません。
逆をいえば、技術があれば、それに応えてくれるのがアイアンの良さです。アイアンの性能を引き出すのはプレーヤーの腕次第、となれば、ゴルフをやり込む楽しみも増えるでしょう。
まずはアイアンのヘッド形状から説明しましょう。ヘッド形状には、弾道を高く打ちやすいものから大きく分けて「キャビティバック」「中空」「マッスルバック」の3つのタイプがあります。それぞれの特徴をまとめると次の通りです。
●キャビティバック
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バックフェースがえぐれているキャビティバック(ホンマ・BeZEAL525)[/caption]
バックフェース(ボール接触面の裏側)がくりぬかれたようにえぐれている形状のアイアンです。このことでヘッドを大きくし、ボールを反発させるスウィートエリアが広くなります。また後ろのくりぬいた分の重量をソール(クラブの底の部分)に配分できるため、ヘッドが低重心になりボールが上がりやすくなります。初心者も扱いやすく幅広い層に適したタイプといえるでしょう。
●中空
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ヘッドが空洞になっている中空アイアン(タイトリスト・T-MB718)[/caption]
ウッドのように、ヘッドの後方に適度なボリュームを持たせたもので、クラブの中は空洞になっています。UTに近いアイアンといえるでしょう。重心深度と呼ばれるヘッドの重心とフェースとの距離が長く(深く)なり、打球の方向性が良くなります。弾道の高さはキャビティバックより低く、次に説明するマッスルバックよりは高めです。クラブに厚みがあるので操作性には難があるタイプといえます。
●マッスルバック
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形状がすっきりしているマッスルバック(ホンマ・TOUR WORLD BM)[/caption]
別名「フラットバック」(またはコンベンショナル)ともいわれ、その名の通り、バックフェースの形状が平たいアイアンです。このタイプはスウィートエリアが狭く、芯に当てにくいことから使いこなすのが難しいクラブです。その一方、操作性に優れているという長所があり、球筋を自由に操りたい上級者にはお勧めです。打感が良いのも特徴で、これも玄人に好まれる理由の1つでしょう。
ヘッド形状が異なる3つのタイプを紹介しましたが、スイング軌道が安定していない初心者は、マッスルバックは避けた方がいいでしょう。
アイアンはプレーヤー自身のスイング技術を磨く道しるべ
ソールの広さもアイアン選びには重要です。ソールが広いと、多少クラブがダフり気味に入っても、芝生の上をソールが滑ってくれるのでミスしにくくなります。またキャビディバックのように、ソールが大きいと低重心になり、ボールが上がりやすくなります。
一方、ソールが狭いアイアンはボールコントロールがしやすく、ボールを右に曲げたり左に曲げたりと、弾道の打ち分けがしやすくなります。それだけに、ソールが広いアイアンは初心者向け、狭いアイアンはボールをコントロールしてコースを攻めたい上級者向けとなります。
最後にロフト角です。前回の記事でも説明しましたが、番手ごとのロフト角に規定や統一された規格はなく、基準はメーカーモデルでも異なります。あるモデルの7番アイアンのロフト角は、別のモデルの6番や5番と同じだったということが結構ありますから、番手だけを見て気移りするのは避けましょう。
ショートホールのティーショットで、ライバルより小さい番手(数字の大きいクラブ)で打ちたいという心理から、飛ぶモデル、いわゆるロフト角の立っているモデルを選びがちです。しかし、ヘッドスピードの速い人がそのようなモデルを選ぶと短い距離を打つクラブがなく、ウェッジの本数を増やしたり、コントロールして打ったりしなければなりません。
一方、ヘッドスピードの遅い人がロフト角の立っているモデルを選んでしまうと、ボールの弾道が低くなり、グリーン上でボールが止まりにくくなります。見事グリーンを捕らえても、あれよあれよとボールが転がり、奥のバンカーに入ってしまったというケースが増えてしまいます。
ポイントは、アイアンは決して飛ばすクラブではないと心得えること。7番なら140ヤード、6番なら150ヤードなど、プレーヤー自身の距離を番手ごとにきちんと打ち分けられることが大切です。クラブを購入する際は必ず試打をし、目的の距離が出せているかをチェックしてください。
おおまかにアイアンの選び方として、「ヘッド形状」「ソールの広さ」「ロフト角」を上げました。こうした要素を踏まえた上で、実は大切なのが「構えたときの安心感」です。ゴルフはメンタルのスポーツです。少しでも正確に打つためには、プレーヤー自身のスイング技術にプラスして気持ちのコントロールが必要です。特にグリーンを狙うアイアンは、気持ちで負けていたらナイスショットは難しいでしょう。
例えば、以下のようにクラブを構えたときの印象は人によってさまざまです。
・クラブヘッドが大きいと、ボールに当てやすそうで自信を持って振れる
・中空のように分厚いヘッドだと、強いボールが打てそうな気がする
・薄いヘッドだと、切れ味鋭くスパッとシャープに振れそうな感じがする
プレーヤーの感性に従って「構えたときの安心感」が得られるものを選ぶ、というのがスコアアップ、スイング技術の向上に欠かせません。
役割を見極め、勝負の決めどころに存在感を発揮する
冒頭で、ロングアイアンのポジションがUTに奪われていることに触れました。これはクラブが進化し、UTのほか、7番ウッドや9番ウッドなどのショートウッドが登場したためです。ボールの進化も影響しています。比較的楽に高弾道のボールが打てるようになったため、ウッドやUTでも十分グリーンを狙えるようになりました。ミートさせるのが難しく、かつ高い弾道のボールを打つのにテクニックを要するロングアイアンが淘汰されたのです。
とはいえ、これまで述べてきたようにアイアンの存在価値が失われたわけではありません。150ヤードを切ってからピンをデッドに狙う(決め打ちする)ときこそ、アイアンの真骨頂が発揮されます。「やさしく飛ばす」はUTに任せ、「ピンデッド」をめざしてアイアンに磨きをかけましょう。
クラブやボールの進化はゴルフのスタイルをも一変させました。ボールを左右に曲げたり、スピンをかけて止めたり戻したりと、テクニックを駆使してボールをコントロールしなければならなかった時代から、シンプルにボールを飛ばしていくスタイルに様変わりしたのです。
これはプロやトップアマでも同じです。石川遼選手が18歳で賞金王に輝いたり、松山英樹選手が20代半ばで世界のメジャー大会で活躍したりしているのは、ゴルフがシンプルになったからといえます。テクニックが求められていた時代は、ある程度の経験を積んだ「ベテラン」でなければ勝てませんでした。しかし、ゴルフがシンプルになった今は、経験よりも体力に勝る若い選手が活躍できるようになったのです。日本におけるトップアマの試合では、今や上位に来る選手のほとんどが学生だと聞きます。
若手の活躍といえば、読者のみなさまの職場ではいかがですか。SNSをビジネスに活用したり、スマホのアプリを駆使したりと、イマドキのやり方でビジネスに向かう若手社員は少なくないのではないでしょうか。時代の変化と共に新しいモノがどんどん生まれ、仕事のやり方が劇的に変化しています。そんな中、ベテランの方たちは「分からない……」「付いて行けない……」と嘆いていませんか。
若手が新しいやり方でどんなに活躍しようとも、長年培ってきた経験や、リアルなコミュニケーションで構築してきた顧客との厚い信頼関係など、ベテランにはベテランにしかできないことがあるはずです。どんなにショートウッドやUTが台頭しようとも、まだまだアイアンはキャディバックの中でその存在感を放っています。ベテランも、自分にできるコト、自分にしかできないコトに磨きをかけ、ピンデッド(決め打ち)よろしく、会社や社会において活躍の場を広げていただきたいと思います。
撮影協力:ヴィクトリアゴルフ藤沢川名店