「ゴルフは人生の縮図」といわれています。人生同様、ゴルフコースにはさまざまなトラブルの種があり、事あるごとに逆境に陥ります。この逆境を克服する力がゴルファーとしての力量です。そしてそのトラブルは、ゴール(ピン)に近づけば近づくほど多くなります。深いバンカー、足首まで伸びるラフ、簡単には上げられない谷など……これらの障害物を避け確実にピンに寄せるためのクラブ、また、トラブルから挽回を図るクラブ、それが「ウェッジ」です。クラブ選びに焦点を当てたエッセーの第4弾、今回はウェッジについてお話しします。
ゴルフが上手な人とはどのような人でしょうか?飛距離が出る人、真っすぐのボールが打てる人、あるいはアプローチが上手な人、パッティングが上手な人……色々挙げられると思いますが、私は「逆境に強い人」がゴルフの上手な人だと思っています。
具体的には、たとえ目が覚めるようなナイスショットが出なくても、ピンチを脱し、スコアをまとめられる人。バンカーに入れたり谷に落としたりと、さまざまなトラブルに見舞われながらもうまくリカバリーし、大たたきをしない人。これらがゴルフのうまい人だと思います。そして、ゴルフのうまい人は、ウェッジの使い方も優れています。
ウェッジは、9番アイアンでフルショットした距離よりも短い距離を打つためのクラブです。一般的には、ピッチングウェッジ(以下PW)、アプローチウェッジ(以下AW)、サンドウェッジ(以下SW)の3本をチョイスします。PW→AW→SWの順でロフト角が大きくなり、ボールが上がりやすくなります。PWのロフト角は44度前後、AWで50度前後、SWで56度ぐらいが目安になるでしょうか。
PWとSWは、ほとんどのモデルでこの名称が付いていますが、AWはモデルによって、ピッチングサンド(PS)、ロブウェッジ(LW)、フェアウェイウェッジ(FW)、あるいはギャップウェッジ(GW)など、さまざまな名称が付いているケースがあります。
また、AWやSWと呼ばずに、ロフト角で表記しているモデルも少なくありません。メーカーによっては、50度から60度まで2度刻みでラインアップされていて、プレーヤーが好みの角度をチョイスできるモデルもあります。
SWは主にバンカーから脱する際に使用します。最もボールを高く上げられるクラブなので、ラフからのショットや谷に落とした際の脱出などに重宝します。ただし、弾道の高いボールを打ちたいからといって60度ぐらいのウェッジを選ぶと、クラブがボールの下をくぐるミス(俗にいうダルマ落とし)が出やすくなります。よほどの上級者でない限り、56度ぐらいが打ちやすいでしょう。
ロフト角に関しては、本コラムのドライバー編やアイアン編でもお話ししたので分かると思いますが、ウェッジにはバウンス角という少々聞き慣れないスペックがあります。ウェッジはそのバウンス角によって性能が大きく変わってきます。
アイアンやウェッジのソール(クラブの底)は、地面方向に少々出っ張っています。分かりやすくいうと、バウンス角は、この出っ張り度合いを表します。数字が大きいほど、ソールがたくさん出っ張っていることになります。シャフトの中心線とフェース面とでできる角度がロフト角なのに対し、バウンス角は、シャフトを地面に対して垂直にセットしたときに、水平面とクラブソールとでできる角度をいいます。
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ウェッジにおけるロフト角とバウンス角の関係[/caption]
ソールの「出っ張り」が何のためにあるのかといいますと、地面に突き刺さりにくくするためです。少々ダフっても出っ張りのおかげでクラブが地面を滑り“ザックリ”を防いでくれます。バンカーからリカバリーするためのSWは、出っ張りが大きくなっています。このため、クラブのリーディングエッジ(クラブの下の刃部分)が砂に深く入り込まず、砂の表面を削り取るように抜けてくれるので、ボールが出しやすくなります。ただし、芝生の薄い所やベアグラウンド(芝生が生えていない地面がむき出しの所)では、この出っ張りが災いします。クラブが地面に接地した際、出っ張ったソールが地面に先に当たってしまい、トップしやすくなるからです。これから冬にかけては芝生が薄くなり、ベアグラウンドに近い状況が多くなるので要注意です。
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状況に応じて最適とされるバウンス角の例[/caption] [caption id="attachment_18017" align="aligncenter" width="420"]
メーカーやモデルによってバウンス角の設定は異なる。写真は、8、10、14度(ほかに12度もある)のバウンス角がラインアップされている「VOKEY SM6(タイトリスト)」[/caption]
ソール形状にも着目しましょう
ソールの形状には大きく分けて2種類あります。「幅広ソール」と「多面ソール」です。幅広ソールは文字通り、ソールの幅が広く設計されているモデルです。ソールが広いのでダフリのミスを軽減してくれますし、バンカーからも打ちやすくなります。バンカーが苦手の人は幅広でバウンス角の大きいSWを選ぶとよいでしょう。
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独特なソール形状で初心者でもダフリにくいと話題の「ドルフィンウェッジ(キャスコ)」[/caption]
一方、多面ソールとは、ソールが多面的に削られたソールです。多面ソールは、弾道の高低を打ち分けたり、スピンのかけ具合を調整したりする上級者に好まれます。なぜなら、ソールが多面であるが故、フェースをかぶせて打っても開いて打っても、クラブの抜けが悪くならないからです。よって、ウェッジ初心者には扱いやすい幅広ソールを、色々な打ち方にチャレンジしたい上級者は多面ソールを選ぶとよいでしょう。
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打感と抜けの良さでプロからも信頼される「スリクソンZシリーズ(写真はZ765・ダンロップ)」[/caption]
ウェッジの性能を生かす「プラス思考」
「ゴルフは人生の縮図」と冒頭で述べました。ゴルフにも人生にも「逆境」は付きものです。その逆境を克服するにはウェッジのようなツールはとても有効です。しかしながら、このようなツールを生かすには「心のあり方」がとても重要になります。
心のあり方で求められるのは「プラス思考」です。「バンカーは嫌だなぁ……」「ホームランしたらどうしよう……」といったマイナス思考では、本来持っている能力を発揮できません。せっかくのウェッジも、その性能を発揮できずに終わるでしょう。
大切なのはプラスイメージです。(能力と実力が伴っていれば)頭で強くイメージしたことはおおむねその通りになる、とさまざまなジャンルのプロアスリートが語っています。ウェッジを振るうとき、バンカーショットであればボールがバンカーから見事に脱出し、狙った落とし所に落ち、ピンに寄っていくシーンを強くイメージします。ウェッジの性能は、そのとき、存分にイメージに応えてくれるでしょう。
ゴルフに限らず、仕事や生活のあらゆるシーンにおいて、逆境に陥ったときほど、「楽しいこと」「うれしいこと」「好きなこと」をイメージしましょう。「吐く」という字は、口にプラス・マイナスと書きます。つまりプラスのこともマイナスのことも口にするということです。ここからマイナスを取り除いたらどうなるでしょうか?そうです「叶える」です。マイナス思考ではなくプラス思考で望みは“叶う”のです。ピンチに陥ったとき、自分が信じられるものを強く持ち、プラス思考で逆境を乗り越えましょう。
撮影協力:ヴィクトリアゴルフ藤沢川名店