ゴルフは体のケアに注意を払えば、健康の維持もしくは増進に効果的な素晴らしいスポーツです。しかし、ケアを怠ると筋肉に偏りが生じ、体のバランス、つまり「姿勢」が崩れやすいスポーツでもあります。なぜなら、ゴルフはプレー中の多くの運動が一方通行の動作だからです。「ゴルフとバランス」について考えるシリーズ。前回に続き、今回は「姿勢」にフォーカスして考えてみたいと思います。
ゴルフと姿勢の関係性について語る前に、人間にとって正しい姿勢とはどういうものかを説明しましょう。正しい姿勢とは、直立した状態で横から見たとき、耳、肩、腰、膝、踝(くるぶし)が同一線上に並んだ状態をいいます。また、正面から見たときに、両肩の高さ、両腰骨の高さ、両膝の高さに左右差がない姿勢です。横から見たときの「腰」とは、大転子という大腿骨の足の付け根あたりにある出っ張り部分を指します。
現代人は、この理想的な姿勢をキープすることができず、ゆがみがちです。例えば、背中が丸まったり、頭が前に出ていたり、左右どちらかの肩が上がったり下がったりしているケースが少なくありません。ゆがんだ姿勢は見た目の印象を悪くするだけでなく、想像以上に体に負担をかけ、身体機能に悪影響を与えます。ひどくなると、日常生活において痛みを感じたり、ケガのリスクを高めたりします。腰痛、肩痛、膝痛などはそれが自覚できる分かりやすいサインともいえます。一方、理想的な姿勢を維持すれば、身体機能を最も効率的に活動させ、最高のパフォーマンスを発揮できます。ゴルフのプレーも例外ではありません。
具体例で説明しましょう。右打ちゴルファーの姿勢は右肩が下がり気味になります。これは、右打ちの構えが、左手より右手の方がゴルフクラブの低い位置(ヘッドに近い位置)を握っているからです。右手が左手よりクラブヘッドに近い所を握ることで、ヘッドを右から左方向へ動かしやすくなり、力も出しやすくなるからです。
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競技上の特性で、右打ちのゴルファーならクラブを構えたら右肩が少し下がる[/caption]
これは野球のバッティングも、テニスで両手打ちのストロークをする場合も同じです。ただ、それらは空中のある程度の高さにあるボールを打つのですが、ゴルフは、クラブヘッドを地面に降ろした状態で構え、地面に止まっているボールを打ちます。必然的にボールインパクトの瞬間も、左肩よりも右肩が低い所に位置するようになります。ゴルフのプレーヤーは、このような構えや打ち方を長く何度も行うことから、普段から右肩が下がった姿勢になりがちです。だからこそ、日常的な正しい姿勢に戻すため、練習後やラウンド後にしっかりケアをする必要があるのです。
ここで断っておきますが、ミスショットの原因となる、ダウンスイングからインパクトにかけて「右肩が下がる(突っ込む)」と表現されるスイングがあります。これは球筋に影響が出るため矯正する必要がありますが、今述べている「姿勢のゆがみが引き起こす悪影響」とは論点が異なります。この対処法などはまた別の機会に説明します。
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正しいインパクトのフォーム。いわゆるミスショットの「右肩が下がる」状態とは異なる[/caption]
話を戻しましょう。日常的に右肩が下がった姿勢は、解剖学的に見ると、右の広背筋群や小胸筋が緊張し、右肩を引き下げている、あるいは左の僧帽筋上部や菱形(ひしがた)筋、肩甲挙筋が緊張し左肩を上げている、のいずれかの状態が考えられます。
姿勢がゆがんでいるゴルファーは、前者の場合、右腕を前方に伸ばす動きに問題が生じ、インパクトで腕が伸びず、飛距離不足やボールのつかまりが悪く、スライスが出やすくなります。
後者は、肩甲骨の動きに問題が生じ、フォロースルーの振り抜きが悪くなります。そうなると、やはりボールはつかまらず、右打ちの人は右にボールが出やすくなります。フォロースルーですくい上げるようなスイングにもなり、トップやダフリも出やすくなります。
日常的に左右の肩の高さにゆがみが生じると、首や背骨にも影響が出てしまいます。常に右肩が下がっていると、頸椎を含む背骨全体が右に側弯(そくわん)しやすくなります。正しい姿勢は冒頭で示した通り、横から背骨を見るとS字にカーブし、正面から見ると真っすぐです。
側弯は、正面から見て背骨が横方向に湾曲している状態のこと。側弯は程度にもよりますが、ひどくなるとゴルフに必要な体の回旋運動に支障を来すだけでなく、肺や心臓を保護している胸郭が変形するため、心肺機能にも影響を与えます。脊柱の中を通っている脊髄にも影響するため、神経障害を引き起こすこともあります。
右打ちのゴルファーであれば「右肩が下がるのは仕方がない」と気にしない人もいます。確かに、プロゴルファーのフォームを見ても、アドレスやインパクトの際、若干右肩が下がっています。ただし、日常生活でも常に右肩が下がった状態になっているのは問題です。健康の維持という面では右肩下がりはマイナスでしかありません。練習やプレーをした後にストレッチやトレーニングを行い、しっかりケアしておきましょう。
双方向のバランス感覚が大事
私が主管するゴルフスクールで取り入れている「ゴルフフィットネス」の運動の1つ、パワーバランス運動は、ゴムホースのような運動補助器具を左右均等に振ります。その際、ゴルフを長くされている方は、無意識のうちにボールを飛ばしたい方向にのみ強く振ってしまう傾向にあるようです。そんなとき、私は必ず左右均等に振るよう指導します。ビューンという音が左右同じ大きさになるようにです。普段振らない方向にすごく強く振る感覚でちょうどよく、それで左右均等になるという方もいらっしゃいます。
ゴルフの練習やラウンド前に、ゴルフフィットネスで準備運動とコンディショニングを施すことは必須ですが、プレー後も運動で偏ったカラダをリセットすることを心掛けましょう。
ゴルファーの肩の高さに左右差が生まれやすいのは、ゴルフが一方通行の動作を繰り返していることが大きな原因です。「一方通行」によって「偏り」が生じて、問題が生じることが少なくありません。これはビジネスにおいても同じではないでしょうか?
前の第39回でお伝えしたように、会社組織には、お互いの利害が二律背反の関係になる部門があります。営業部門と技術部門、設計部門と製造部門、お客さまとじかに接する店舗と管理部門などもそうでしょう。それぞれがお互いに自分の立場だけを一方的に主張していては、物事はうまく回りません。管理者としてキャリアを積む人ほど、自分の主張はしっかり行いつつ、相手の立場に立って物事を考え、物事を動かしていかなければなりません。「双方向」を意識して、バランスを取る感覚が、ビジネスには不可欠のように思います。
次回は、骨盤や股関節など、下肢にフォーカスします。