ライフスタイルアクセント 山田敏夫社長
――“日本の工場から、世界一流のブランドを作る”という目標を掲げ、熊本発のベンチャー企業ライフスタイルアクセントが立ち上げた日本初のファクトリーブランド専門ECサイト「ファクトリエ」。そこで販売されている製品は日本各地の工場で作られている。レディースニットを手掛けるのは新潟県のフォルツ、シャツは熊本県のHITOYOSHIなど、今全国14の工場と提携している。連載3回目は山田敏夫社長に地方の工場との向き合い方を語ってもらった。(聞き手はトーマツベンチャーサポート事業統括本部長、斎藤祐馬氏)
斎藤:工場探しの中で、地方企業であることを意識していたのでしょうか?
山田:東京だから、地方だから、という意識で工場を探しているわけではありません。日本のいいものを世に伝えたい。だから本当にいいものを作る工場を探して、結果的に日本全国の工場とおつきあいさせていただくようになりました。
斎藤:お客さんはどうやって集まっているのですか。
山田:一番大きいのはやはりクチコミですね。宣伝広告は一切していませんので。
斎藤:宣伝広告費はまったくのゼロ?
山田:ゼロですね。その予算があるのなら、新しい工場を探すための交通費に使っています。ただ、個人的に感じているのは、お客さんは本当にいいものはリピートしてくださいますし、周囲にも紹介してくださる。どれだけそのいいものを広めていけるかが大切だと思っています。
例えばファッション雑誌でファクトリエの服を外国人モデルが着ていてもあまり売れないでしょう。日本の工場が減ってものづくりが衰退していく中で、それをどうにかしたいという思いがある。私たちの場合は、世界のトップブランドに負けないメード・イン・ジャパンを工場から直接安く買える仕組みをつくって、という文脈ありきで理解してもらったほうがいい。だから、口コミとかリピートが圧倒的に多い。
斎藤:なるほど。ところで、いま商品としてはどんなアイテムがあるのですか。
山田:シャツをはじめ、カジュアルシャツやポロシャツなどメンズで10カテゴリーぐらい、レディースで5カテゴリーくらいです。このトレンチコートは英国の有名ブランドのものを作っている工場製なんですが、普通に買うと30万円ぐらいするものです。
それを9万円で販売したところ、1週間で100着が完売しました。個人的にも10万円近いコートを試着なしで、インターネットで売れるのか半信半疑でしたけど、お客さんたちはファクトリエがやっているんだったら、と信頼してくださった。実際に交換依頼とかもゼロです。
斎藤:それはすごい。今はファクトリエにはどれくらいの数のお客さんがいるのでしょうか。
山田:現在、会員数は1万人くらいです。昨年12月に銀座にショールームをオープンしました。ここも販売はしていなくて、商品に触れてみたいとか、サイズだけは実際に合わせたいという要望にお応えしたものでフィッティングスペースとしての役割を持っています。今だいたい1日10人、月に400人くらいの方がいらっしゃいます。また、最近では伊勢丹に期間限定でコーナーを作ってもらうようになりました。
これからはリアルにお客さんとつながる場も用意していきたいと思っています。ファクトリエはもともと「日本のアパレル工場と一般の消費者をつなぐ会社」と言ってきたのですが、いま実際にそうした取り組みも行っています。
工場ツアーでお客さんの喜びを実感してもらう…
斎藤:それは具体的にいうと?
山田:工場ツアーなんですよ。きっかけは工場で働く若いスタッフのためでした。今ファクトリエが提携する14の工場のうち、約半数が去年の4月に2人以上の新卒を採用できました。これってすごいことで、10年ぶり、20年ぶりという話なんです。
斎藤:確かにこれまで多くの工場は人員を減らす一方だったんでしょうね。
山田:そうなんです。だから課題もあって、1世代上がすでに40代なんですね。高卒で入社した新入社員たちはまだ10代ですからコミュニケーションが親と子みたいな関係になる。職人の世界でもありますから、教わるんじゃなくて見て盗めとか言うわけです。もう若い新入社員はきょとんとしている。
だいたい工場なんて夏はめちゃくちゃ暑くて、みんな汗だくです。すると自分たちが“ブランドを作っているんだ”という魔法が解けていく。それで辞めたりするケースも出てくる。
現場に行って話を聞くわけです。どうしてほしいのか、何が一番気になっているのか。そうすると最終的に彼らは、自分たちの作ったものが売れているのか、喜ばれているのか、そういうことを聞いてきます。
それで、彼らは“ありがとう”が欲しいんだなと気づいた。販売員の人たちは店でその言葉をもらえるけれど、作り手の彼らにはそういう機会がありません。
斎藤:なるほど。お客さんたちが喜んでくれている実感がほしいと。
山田:それならおやすいご用だと。私たちはお客さんと直接つながっている。だからお客さんを工場に連れていけばいいと思ったんです。それで去年から工場ツアーを始めました。お客さまのためというよりは、工場の人たちにありがとうを伝えることが目的なので、現地集合、現地解散というかなり荒っぽい企画なんですけど(笑)。
それでも例えば岩手の工場では30人の枠に対して、3~4倍の応募が来た。早朝に東京駅を出なければ間に合わないような集合時間なんですけど、ドタキャンもゼロ。移動のバスは北上市役所が協力してくれて、商業観光部と産業振興部の人たちがわざわざ出迎えて観光案内もしてくれた。我々はベンチャーなので単体でできることは多くないですけど、そうやって地方行政と工場とそしてお客さんを掛け合わせることはできるんです。
ツアーの最後に用意した色紙にお客さんたちに製品や今回の体験の感想を寄せ書きしてもらって、それを工場にプレゼントしたんです。そうしたら、工場のみんながめちゃくちゃ喜んでくれた。
斎藤:それはうれしいでしょう。
山田:結婚式の前日に父に独身最後のプレゼントとしてマフラーを送りましたとか、遠距離恋愛の彼に送りましたとか書いてあるわけです。自分たちの作っているものが、誰かの人生の役に立つ。すごく大切なギフトになっているんだと実感できる。
自分が想像していた以上のありがとうだったり、ストーリーがあったりしたわけです。あとで聞いたら、その色紙を工場の一番目立つ場所に飾って、つらいときやしんどいときはそれを見ているって言うんです。そんなこともあって、今は月1回のペースで全国各地で工場ツアーをやっています。
斎藤:月1回? よくそんな頻繁にできますね。
山田:正直に言うと、うちも毎回持ち出しです。年間で数百万円の赤字になってしまう。でも、やっぱり工場のための必要経費であり、維持費だと思っているんです。ちゃんと工場がもうかって、人が採用できて定着して初めてブランドができる。工場ツアーの先には、ワークショップをやるとか、3カ月に1度はお客さんと直接会えるとか、そういうサイクルをきちんとつくっていかないと、本当の意味で工場を維持していけない。
斎藤:確かに、職人さんたちの高齢化は深刻でしょうし、後進の育成という課題もありますね。
山田:そうなんです。もはや成長産業ではなく、職人さんの平均年齢だって60歳くらいで、どうやって若い世代に引き継いでいくか。本物の“ブランド”になるには100年ぐらいはかかる。エルメスは200年だし、グッチも150年続いている。100年を超えて、初めて認知されていく。30年後か40年後、私が誰かにバトンを託して、またその次に引き継がれていってほしい。
ファクトリエが100年続けられたとしても、そのときに工場も一緒に引き継がれていなければ意味がない。だから今の若い新入社員たちが誇りに思えることを一緒になって一つひとつやっていきたい。
斎藤:今、地方には強い会社が少なくなっているように感じます。補助金頼みで何かを始めても、予算がなくなった後に続かない事業じゃ意味がない。ファクトリエの取り組みは地道だけど、本当に強い会社というのは、そうやって作っていくものなんでしょうね。
日経トップリーダー/藤野太一
※掲載している情報は、記事執筆時点(2015年5月)のものです