エンタープライズICTの最新動向を体感できるイベント「ITpro EXPO 2016」(主催:日経BP社)が2016年10月19日~21日に東京ビッグサイトで開催された。300社を超えるエンタープライズICTソリューションの展示や100以上の講演・セミナーから、ビジネス拡大やイノベーションにテクノロジーが寄与するためのヒントを得られるイベントとなった。
幅広いジャンルの展示が立ち並ぶ中で、今回のITpro EXPOではIoT(Internet of Things)、ファクトリー、デジタルヘルスといったジャンルの勢いが目に付いた。特にIoTは、現実の世界とコンピューターなどのサイバーな世界との橋渡しをするソリューションとして、多くのジャンルで地に足の着いた内容の展示が見られた。
今回、最も時代のトレンドを感じさせられたのが、IoTの展示の広がり。それも、今後の可能性として、「このようなことができるようになります」という展示ではなく、「実際にこのように使われています」という活用事例や実証実験例を伴う展示が非常に目立った。
自動車を使ったIoTソリューションでは、手軽に利用できる車両位置情報ソリューションのデモがあった。大掛かりな装置やドライバーのスマートフォンを利用するのではなく、手のひらサイズの小型の車載デバイスを自動車のコネクターに挿すだけで、位置情報を活用できるというものだ。
リアルタイムでの運行情報の活用や、到着時刻の予測、安全運転のための日報・月報による管理や危険運転状況の検知など、コネクテッドカーとしての自動車活用が可能になる。同じように自動車を使ったIoTソリューションでも、ゴミ収集車にPM2.5センサーを取り付けて、地域の汚染状況を確認する自治体のトライアルを紹介するデモもあった。
人間の行動をモニターする取り組みもあった。自治体が実証実験を行っているIoT動線解析ソリューションの展示では、商店街にカメラなどを備えたセンサーユニットを取り付け、商店街内の人の通行量や動線をデータとして取得。これらを基に、都市計画への利用や、災害時の避難経路の整備検討などにつなげることをもくろむ。
一次産業でも、IoTの活用によりICT化が業務を変革していく動きが顕著になっている。例えば畜産業では、乳牛のIoTソリューションのデモがあった。乳牛に行動を検知するセンサーを取り付け、日常の行動や健康状態をモニターするほか、データ分析から発情期を割り出し確実な種付けにつなげる効果をアピールする。
農業では、農地の温度や湿度などを管理するシステムや、農作物の被害を抑制するモニタリングシステム、食材産地を科学的に分析するシステムなど多様なソリューションが展示されていた。ICT化が難しかった一次産業だが、IoTがICT化を後押ししている様子が見て取れた。
ファクトリー分野や医療分野のICT化を実感
産業分野では特に工場などのファクトリー系のソリューションが目に付いた。IoTやAIの技術の進展が、ファクトリー分野でもICT化を推進していることを体感できた。工場などの機器から稼働状況などのデータを収集し、これらを活用して効率化や予知保全につなげるIoTソリューションは、会場内の各所で展示が見られた。
収集したデータの分析には機械学習に代表されるAIを利用するソリューションが目立つ。機器の故障などに対する予知保全や、不良品の製造の検出など、これまで活用しきれていたとはいえなかったデータをAIの視点から分析することで、新しい知見が得られることを示していた。
また、活気があった出展としてデジタルヘルス関連の企業や団体も挙げられる。ICTを活用して、健康管理や医療、介護などの質を向上させようという取り組みだ。スマートフォンやタブレットを利用した遠隔診療サービス、ベッドに装着した非接触センサーで被介護者を見守る福祉用見守りシステム、ショッピングセンター内でウオーキングすることで運動支援を行う実験、高齢者の会話データを分析して適切な対話をサポートするサービス、スマートフォンで処方箋を読み込むことで薬の宅配を受けられるサービスをはじめとして、多様なソリューションや実験が紹介されていた。
エンタープライズICTというと、オフィスのIT化、コンピューター化という固定観念にとらわれがちだ。しかし、ITpro EXPOでは、一次産業から工場などの二次産業、健康維持管理といった医療・福祉まで含めてICTやIoTが業務を変えていく可能性を示した。ICTの適用範囲の着実な広がりを、リアルに体感できるイベントだったといえる。