税務署から突然、税務調査の連絡が来ました。なぜ、私の会社(私)が対象となったのか理由があるのでしょうか?
では、ご質問についてお答えしたいと思います。
それは税務署・国税局が保有している納税者に関する資料情報(データ)を基に税務調査を実施しているからです。
税務署・国税局においては、資料データを分析し、誤った申告をしている、または疑わしいと思える法人・個人を探し出し、調査を実施しています。現在では、すべての業務に関してデジタル・トランスフォーメーション(DX)化を図っており、国税庁の基幹システム「KSKシステム(国税総合管理システム)」を中心とした次世代の税務行政を進めています。
各国税局が保有している各種資料についてもDXによってしっかりと整理されていますが、資料には法定資料と法定外資料があります。法定資料は各税法に定められた、納税者が提出しなければならない資料です。代表的なものとしては「給与所得者の源泉徴収票」です。
では法定外資料とはどういった資料でしょうか。
それは、納税者の協力によって提出していただく資料です。どのようなものがあるかというと「一般取引資料せん」と総称されるいろいろな取引内容を記載した資料情報です。
このような資料情報を納税者の皆さんから進んで提出していただけるかというと、なかなか難しいところです。税務調査時に売上金額の確認などの際に丁寧に説明し、情報提供をしていただきます。情報提供者が特定されないように配意して、職員には資料情報の存在が活用先に察知されないよう特段の配慮をするように研修を実施しているのが現状です。
この取引内容を記載した任意提出の資料情報ですが、税務当局側の収集目的としては、現在重点取組事項としている以下の項目の内容に関して取引内容を確認するために、提出をお願いしています。
①富裕層への取組を実施するための資料情報
②大口課税・不正見込事案への取組を実施するための資料情報
③高額な追徴税額が見込まれる事案への取組を実施するための資料情報
④国際化事案への取組を実施するための資料情報
⑤無申告事案への取組を実施するための資料情報
⑥調査パフォーマンス向上への取組を実施するための資料情報
決して忖度(そんたく)していただくようなお願いはしていませんが、国税当局としては望ましい結果になる場合もあります。
国際的な脱税や租税回避に対処…
現在、日本は世界中の国々と租税条約を締結し、各国と情報交換の協力関係を結んでいます。また、「共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)」に基づいて自動的情報交換にも加盟しています。外国の金融機関などを利用した国際的な脱税および租税回避に対処するため、経済協力開発機構(OECD)において非居住者にかかる金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準を作成して「共通報告基準」として公表し、日本を含む各国がその国際基準に基づく情報提供の実施を約束しました。
この基準に基づき、各国の税務当局は、自国に所在する金融機関などから非居住者(外国人など)が保有する金融機関の口座情報の報告を受け、租税条約等の情報交換規定に基づき、その非居住者の居住地国の税務当局に対しその情報の提供を実施しています。
現在はこのような制度がありますが、過去に話題となった「タックスヘイブン」と「パナマ文書」に目を向けてみたいと思います。
「タックスヘイブン」とは自国の租税の税率を低く設定し、低い租税負担とすることによって、「節税」を目的とした世界各国の企業や富裕層の資産を誘致し、外国資本を獲得している国や地域のことを指します。
「タックスヘイブン」に資産を移した大企業や富裕層は、本来の税金が課税されなくなるため節税となり、「タックスヘイブン」に資産を移転された国とすると、税収の減少や産業流出といった大きな損失が生じることとなります。
「タックスヘイブン」を利用した企業としてはアップル、アマゾン、グーグル、スターバックス、マイクロソフトといった多国籍企業があったため、大きな注目を集めました。
また、パナマの法律事務所によって作成された「租税回避行為」に関する機密文書「パナマ文書」の存在が2016年明らかになり、ここで「タックスヘイブン」への注目度が高まりました。この「パナマ文書」は1970年代から作成され、記載されていた機密情報は1150万件に上るとされています。この「パナマ文書」には世界中の大企業や富裕層が「タックスヘイブン」を介在させて税逃れをしていたという証拠が記載されており、これが漏えいしたため世界中が混乱しました。
この「パナマ文書」関連の資料情報も国税当局はしっかりと管理しているとお考えいただいてよいと思います。
このように国税当局はいろいろな取引資料の収集を積み重ねて税務調査に臨んでいます。取引資料の収集先は皆さんの想像している会社以外にも数多く含まれます。それに関しては知らないほうがいいかもしれません。
執筆=石塚 剛
石塚剛税理士事務所 所長
東京局課税第一部資料調査課(主査)、同部機動課(主査)、世田谷税務署・甲府税務署の副署長(個人・資産課税担当)、東京上野税務署、千葉東税務署(開発調査担当の特別国税調査官)。山梨・鰍沢税務署長、荒川税務署長を経て、2022年7月退職。同8月税理士登録。(一社)租税調査研究会主任研究員。相続・贈与税の相談員を担当。
監修=宮口貴志
株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、TAXジャーナリスト、会計事務所ウオッチャーとして活動。一般社団法人租税調査研究会常務理事。元税金専門紙・税理士業界紙の編集長。