4月に入ってまもなく、総務省が「インターネットトラブル事例集で注意喚起」というニュースが流れた。インターネットで起こるトラブルに関しては、この連載でもしばしば話題にしてきた。デジタルの世界では、迷惑行為や問題発言などの投稿があっという間に拡散し、個人や住所などが特定され、誹謗(ひぼう)中傷の的になったりする。スマホで簡単に発言や画像、動画などがSNSに投稿できてしまう昨今、騒ぎはわりと頻繁に起こる。
「デジタルタトゥー」といわれるように、インターネット上に拡散されてしまった発言や、画像、動画などは、完全に消すことが難しくいつまでも残る傾向にある。そして、その人の人生や家族、所属先などに大きく影を落としかねない。こうしたトラブルは、正しい知識のもと、未然に防ぎたいものだ。しかし、先を行くものが子どもや若い世代に細かく指導できるかというと、日進月歩の世の中に、大人さえもついていってないのが現状だろう。
具体的な内容を見てみよう。例えば「良かれと思って拡散した情報がデマだった?!」を見てみると、良かれと思って拡散した情報が間違いだったケースがマンガで描かれ、次にかわいいハトのキャラが「ショッキングな情報は特に信じ込みやすいので、情報源をしっかり確認しよう」「知り合いからの情報でも安易に信じ込んで発信してしまうと自分も迷惑をかける側になる」と解説、「一度深呼吸をして冷静に対処しよう」とアドバイスする
続く「考えてみよう」では「災害時、ウワサやデマなど偽・誤情報に振り回されて失敗しないためには、どうしたらいいでしょう?」という問いかけのもと、3つの対処法を解説。「もっと詳しく」では、「情報の再投稿やシェアの前には必ず以下の確認を!」として、生成AIで作られるフェイク動画などに注意を促している。そして、「情報源はある?」「その分野の専門家?信頼できる人?」「他ではどう言われている?」「生成AIのある時代、その画像は本物?」という4つのチェックポイントを挙げて正しい情報の見分け方を解説し、「併せて読みたいトラブル事例」で、関連事例の理解を促す。
こうして見ていくと、マンガを交えたフリガナつきの「子ども向け」をうたう教材とはいえ、かなり高度な情報であることがわかる。仮に自分が家族にこれらの内容を伝えて理解させ、リテラシーを身に付けさせるのは、かなりの労力を要するだろう。
一般的に「子ども向け」とされる読み物や教材は、大人にとっても初心に返って基礎から理解できて、なかなか「目からウロコ」となることはよくある話だ。読み聞かせたり教えたりしていて、いろいろ気づかされることも多々ある。企業にとっては、社員一人ひとりに、この事例集を家族と一緒に学ぶよう勧めてみるもの1つの手だ。さらに特に必要と思われる事例をピックアップし、社員それぞれが学んだり、みんなで勉強会を開いたりなどの利用価値は大いにあるだろう。
大人も使える。家族・企業で活用するとメリット大。同サイトの他コンテンツも
ところで、企業は「法人」と呼ばれるように「ひとりの人」「ひとつの人格」ともいえるゆえ、一人のユーザーと同様にトラブル事例が適用されるのはもちろんだ。例えば、先のケースでいけば、もし気づかず公式アカウントで「嘘情報」やデマを拡散してしまったら、などと思うと、人ごとでは済ませられない。企業であれば、一人の人間より責任が重大なのはもちろんだ。下手をすれば今まで築き上げた信用や実績を失いかねない。
もちろん、メールやチャット、Webページ、オフィスソフトなど、普段のビジネスにもITは欠かせないこの時代、社員一人ひとりがIT機器やネットなどを始終利用することを思えば、社員全員が正しい知識とリテラシー、判断力を持つことは不可欠ともいえる。
「インターネットトラブル事例集」が置かれている「上手にネットと付き合おう!~安心・安全なインターネット利用ガイド~」には、他にも役立つコンテンツがたくさんあり、社員の啓発やリテラシー向上などに活用できる。特におすすめは「特集ページ」。ここには「生成AIはじめの一歩~生成AIの入門的な使い方と注意点~」「SNS等での誹謗中傷」「インターネットとの向き合い方~ニセ・誤情報に騙されないために~」など、現在のIT事情に即した特集が置かれている。これらはPDFやPPTX(パワーポイント)形式で提供されており、勉強会に利用しやすい。
「動画コンテンツ集」もおすすめだ。ビデオ教材は、基本的にみんなで見るだけで(誰かが解説を行わなくて)よいので、自主的な方向で利用できるのがメリット。みんなで視聴したあと質疑応答の時間を設けたり、感想を言い合ったりする形式もいいだろう。
ITスキルに不安のある社員向けには、例えば、シニア向けの「スマートフォン・タブレットなどインターネットを安全に利用するために~トラブル対策ブック」がおすすめだ。読んでみると、機能別に具体的な「トラブル回避策」が書かれていて、なかなか役立つ。該当する社員にURLを送り、自主学習を促すのも手だろう。
さらなる情報が欲しい場合は「リンク集」からさまざまな機関が提供する情報を参照しよう。政府広報オンライン「インターネット上の偽情報や誤情報にご注意!」や、文化庁「著作権侵害対策情報ポータルサイト」、Instagram「安全な使い方を楽しく学ぼう!みんなのInstagramガイド」、Google「個人で実践 安心・安全なインターネット利用のためにできること」、キャリア各社の「スマホ教室」「スマホ安全教室」など、各社が公式に提供するオリジナル情報を使って学ぶことができる。教材を元に自主的に、個人で、家庭で、会社で、部署で、ITスキルやリテラシーを身につける機会を持つとよいだろう。
今後どうなる、傾向と対策
インターネットでのトラブルや炎上を防ぐには、まずは個人個人の正しい知識、理解と判断が必要だ。ただし、ビジネスにおいては、例えば、標的型攻撃メールなど、個人が気を付けるに越したことはないが、多忙な業務において万全を期すことはできづらい。さらに、前回の記事にも書いたとおり、相手は国際的な組織が日本語に詳しい構成員やAIなどの最新技術を駆使して、大企業はもちろん中小企業や町病院までをターゲットにしてくる。とても一筋縄では勝てそうにない。こうした脅威に対抗できるサイバーセキュリティ対策には、ソフト、ハードおよびシステムをトータルで捉えた対応が必要だ。さらに、365日24時間監視のもと異常を早期発見、早急に対応、被害を最小限に抑えられる設備も不可欠だろう。建物のセキュリティを警備会社に頼むような具合で専門家に頼みたい。
セキュリティは気になるが、IT人材の不足もあって何から対策したらいいかわからない、リモートやテレワークでも安全を確保したい、昨今のサイバー攻撃に備えたい、データの安全を確保したい、など、企業は山ほど疑問や問題を抱えながらも日々に追われ、なかなか対策は難しい。だからといって、被害に遭って後悔はしたくないのは誰しも同じだ。今、セキュリティ対策のソリューションはたくさんある。セキュリティに関する悩みは専門家に相談するのがよいだろう。例えば、公的な機関ならIPA「情報セキュリティ安心相談窓口」や「サイバーセキュリティお助け隊サービス制度」などがおすすめだ。
「インターネットトラブル事例集」などによる社員の意識向上とスキル・リテラシーアップに加え、企業のITシステム全体におけるセキュリティ対策という「二元」対策で、迫りくる脅威に対抗しよう。国際的な組織が大小かまわず企業や各種機関を狙い撃ちしてくる昨今、両者への一刻も早い行動がおすすめだ。
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