最近よく聞く「スマートストア」という言葉だが、「セルフレジ、スマートフォン、スマートカメラ、電子タグ、AIなどのIT技術を活用して、人手不足解消、業務効率化、顧客データの収集などをはかる店舗のこと」をいう。
買い物でムダ、イライラする、と思うのが、レジ待ちの時間とレジ処理の時間だろう。混んでいるスーパーなどの買い物は、レジ周辺だけで数十分近くかかることもあり、「この時間がなかったら」といつも思う。自分で買い物かごの商品のバーコードを読み込む「セルフレジ」なども普及し、便利になってきた。店舗貸し出し用スマホやアプリを入れた自身のスマホを使い、買い物しながら商品のコードをスキャンして専用レジで支払いを行うイオンのスマートストアシステム(例「どこでもレジ レジゴー」)も全国的に使えるようになってきた。
ただ、筆者自身の経験でもあるのだが、こうしたイマドキの買い物方法に関しては、レジ素人である自分の操作がおぼつかないなど筆者同様操作に慣れない顧客も多くセルフレジがなかなか空かないなどで、思ったほどははかどらないこともある(購買点数が少なく、レジががら空きという条件ならいいのだが…)。また、前述のレジゴーの使い方動画を見るにつけ、「スマホの操作が速やかに行えるか」とか、「バーコードのない商品は?」「個数の多い商品の場合は?」など覚えることも多そうで、慣れるまでに回数を重ねる必要がありそうだ。
一般的に「スマートストア」=「無人店舗」ともいえるわけで、人件費をなるべくかけずに運営する目的のため「省人化店舗」ともいわれ、こうした店舗形態には3種類あるとされる。以前この連載の「最近増えつつある無人店舗。その意図と使い勝手は?」でも紹介している。1つ目には、自動販売機を置く「自動販売機型」、2つ目は顧客が自分で商品を選びセルフレジで決済する「セルフレジ型」、そして3つ目には顧客がゲートから入場し、店内で商品を選んだ後、レジを通らず店を出ることができる「ウォークスルー型」だ。
筆者の利用するセルフレジ店舗や、イオンのレジゴーは「セルフレジ」型に入る。ただし無人店舗の形態のうち、最も「スマート」に感じるのは「ウォークスルー型」だと思う。電車の時間が迫るときなど、ウォークスルー型店舗で飲み物などを調達できたらいいなと思うことは多いが、まだそれほどは普及していない。
ただし、ウォークスルー型店舗は、顧客が買ったものを自動判別するためのAIやカメラシステム、専用のスマホアプリ、認証機能付きゲートシステムなど、最新のテクノロジーと設備にコストがかかるのがデメリットとされてきた。顧客にとってかなりありがたい一方、店側は(コスト問題などで)実現や維持が難しいとされる。そんな折、「ウォークスルー型」店舗の実証実験が行われているというニュースが話題を集めた。プレスリリースには「手に取った商品をそのまま持ち帰ることのできる」とある。これが実現すれば、かなり助かりそうだ。
まずはウォークスルー型の店舗が、どのようなシステムかを見ていこう。先ほどの「手に取った商品をそのまま持ち帰ることのできる」を実現するためには、各種のシステムと設備が必要なのは言うまでもない。
ウォークスルー型の店舗では、流れで入店から買い物、決済までがシームレスに行われる。一般的には「スマホアプリを起動して入店ゲートのQRコードをスキャン」→「ゲートが自動でオープンし入店」→「購入したい商品を手に取り買い物する」→「ゲートを出ると自動で決済完了」といった具合だ(ちなみに、実証実験のリリースには、「専用アプリをダウンロード、クレジットカード等の必要項目を登録」→「店舗入り口でQRコードをかざす」→「そのまま退店。アプリに決済情報が届く」とある)。
ウォークスルーでは、登録や認証ができない顧客の入店は原則的に難しいとされる。具体的にはユーザー認証と決済システムのできるスマホアプリ、クレジットカードなどで、認証されたユーザーだけが入れるシステムが必要だ。そして、ゲート前に掲げられたQRコードなどをスマホで読み取ることで認証し、ゲートが開き顧客が入店する。顔認証や指紋認証などの生体認証を取り入れることも可能だ。世界初のウォークスルー店舗とされる米アマゾンの「Amazon Go」(2018年に開始)は、手のひらをかざす生体認証を採用した。
入店したら、顧客が店内を歩き回って買う商品を選び、そのまま退出ゲートなどから退出する。それが「ウォークスルー(歩いて通り抜ける)」という意味にもつながる。その際、「どんなユーザー」が「何を買うか」をカメラや電子タグ、重量センサーなどが自動で認識・把握する必要がある。このため、セルフレジ型でのスマホでバーコードスキャンやセルフレジでのスキャン部分を自動で賄うシステムが必要だ。買う商品を認識したら、次は決済だ。こちらは、顧客がゲートから退出したときや退出時のQRコード読み込みなどのタイミングで決済されるものが多いとされる。これら一連の流れを自動処理することの大変さは、誰しも想像がつくだろう。どんなテクノロジーを利用して、どんな機器を組み合わせ、どんなシステムを作り、どう確実に動かすか、間違いやトラブル、犯罪への対処は、など想像に余りある。
しかし、どこにどんなテクノロジーが使われているのか、考えるだけでワクワクしてしまう読者も多いのではないだろうか。ちなみに、ウォークスルー型店舗利用のレビュー記事によれば「商品を手に取って通り抜けるだけのウォークスルーはなかなか癖になる」という。
「スマートストア」構想はあれどなかなか実現しない現状。課題は?
先ほど紹介した実証実験のプレスリリースによれば、ウォークスルー店舗のメリットとして「特定商品を素早く購入したいリピート顧客が多いコンビニ店舗」や「レジ待ちによる混雑が発生しがちなコンサート会場やスタジアムの物販シーン」などに有益だという。
また、商品登録などが簡易にできるよう設計されており、作業時間やコストカットが見込まれ、運営の効率化が可能とある。さらに、レジが不要なため、その分のスペースにも商品が陳列できるなど、店舗空間の効率的な利用もできるという。そしてこのシステムの特徴は、一般的なウォークスルー型店舗で使われる重量センサーを使用せず、カメラによる映像取得のみで購買の検知を行うため、既存の棚などの設備をそのまま転用できる。これは大きなメリットだ。
ただし、諸外国のウォークスルー型を中心とする無人店舗は、必ずしも成功していない。先ほども触れた「Amazon Go」は、「レジに並ばずレジ会計のない新種のストアです。商品を手に取り、出ていくだけ!」という画期的な店舗形態で話題となったが、その後、戦略転換によって一部店舗の閉鎖を進めたことでも話題を呼んだ。今ではジャンルや場所、顧客層を絞るなどで、戦略的な運営を行っている。同じ頃に話題を集めた中国の「無人コンビニ」をはじめとする多くの無人店舗も、一時は拡大したものの、閉鎖や戦略替えを余儀なくされているという。
こうしたウォークスルー型などで無人・省人化をめざす店舗形態は、セルフレジや入店・退店ゲートなどの設備をはじめ、自動識別のための設備やAI、ビッグデータを使うシステムなど、高額な初期投資と基礎知識が必要なうえ、知識のあるスタッフの採用、間違い・トラブル対応要員の常備、機器やソフトのアップデートなど、開業後の維持コストも大きい。やはり「Amazon Go」同様、ジャンルや顧客層、場所や期間を絞るなどで、利益を上げ維持していく知恵や戦略も必要だろう。
今後どうなる?傾向と対策
ここまで見てきたように、身近なところでセルフレジやウォークスルーなどで省人化をめざす店舗が増えてきている。一方でこれらの店舗は、高額な初期投資や運用における技術的知識、定期的なシステムの保守と更新、カメラ利用におけるプライバシーの侵害問題、顧客の間違い、トラブルや犯罪への対応、顧客のITリテラシーなど、課題は山積みともいえる。
今回のウォークスルーの実証実験は、これまで述べたようにこれまで一般的に必要だった重量センサーが不要で従来の陳列棚のまま運営できるのが特徴で、重量センサー搭載の陳列棚の購入や保守のコストが省けるのは大きいだろう。日々進化するIT先進技術により、無人・省人化店舗システムも今後、進化していきそうだ。
なお、ウォークスルー店舗に使われている先進的なAIカメラシステムは、あらゆる業務に活用できる。顧客が手に取った商品を自動識別し、決済まで行う「自動化」も、あらゆる業務に応用がきく。もちろん無人・省人化店舗を企画するなら専用のソリューションを「ウォークスルー店舗 ソリューション」など、AIカメラに関するシステムなら「AIカメラシステム ソリューション」、業務の自動化なら「RPA ソリューション」などでWeb検索して、自社の業務改善に役立つものを探すとよい。
業務ツールの導入や活用、現存システムの改善などにおいては、最寄りのベンダーに声を掛ける、相談するのもおすすめだ。場合によっては、中小企業庁「IT経営サポートセンター」の相談窓口なども頼りになるかもしれない。
ほしい商品を選んで通るだけで買い物ができる「ウォークスルー店舗」。利用した人は口々に「新しい体験」と言う。こうした未来を描いた映画のような買い物形態は、急ぐとき、そして時間がないときなどにもかなりありがたい。こうした便利さもIT技術の発展で得られるもの。自社の業務にもIT技術をうまく取り入れて、明るい未来を作っていこう。
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