「ソリューション営業」というビジネスワードをご存じでしょうか。ソリューション(solution)とは「問題を解決する・解答を出す」という意味で、商品ありきでセールスを行うのではなく、顧客のニーズを満たすために自社の商品・サービスを紹介し、購入してもらうという営業スタンスです。
銀行員はとりわけ、ソリューション営業の重要性を認識しています。なぜなら、銀行で取り扱う金融商品や融資はどこの銀行でも同じように手に入り、融資を受けることができるため、商品やサービス単体では競合相手との差別化が難しいからです。そのため、銀行の営業現場では比較的早い段階から、ソリューション営業の重要性が認識されていました。
しかし近年、顧客に適したソリューションを提示せず、ありがちな営業ワードを使ったぞんざいな営業手法も目立つようになってきています。不透明な相場環境や、複雑で難解な金融商品の増加により、銀行員自身も自信を持って金融商品を勧めることが難しくなっているようです。今回は、銀行員のありがちな営業ワードに隠された背景と、ソリューションを提供してくれる銀行員を見極めるためのポイントをご紹介します。
最近の銀行では、さまざまな金融商品を取り扱っています。預金だけではなく、投資信託や保険まで扱うため、銀行員自身も、取扱商品の全てを把握するのは難しくなっています。新商品がラインアップに加わったことを知らなかったり、長らく自分が販売していなかった商品については内容を忘れてしまっていたり、ということもあります。
どんなに勉強熱心な銀行員であっても、経済環境がめまぐるしく変化する中で、どんな商品をお客様に勧めれば良いのか分からなかったり、自信が持てなくなったりしてしまうこともあります。そこで、「当行で最も人気のある商品です」といったセールストークを使って“売れ筋”の商品を安易に勧めてしまうのです。
もちろん、本来のソリューション営業であれば、顧客がどのような考えで資産運用を行おうとしているのかをしっかりとヒアリングする必要があります。為替や株、金利、さまざまなリスクのうちどのようなリスクを取ることが可能なのか、どれくらいのリターンを求めているのか。顧客のニーズを満たす商品を勧めるのが、銀行員の本来の姿です。
確かに「人気のある商品」を勧められると、顧客としても安心感があるのも事実です。ですが、それはもしかすると、銀行や銀行員のニーズを押し付けられているだけかもしれません。
「みなさんこの商品を買われていますよ」
前述のワードと似たセールストークに「みなさんこの商品を買われていますよ」というのがあります。人と違った行動を取ることは、とても勇気が要ります。ましてや自分の知識や経験が不足していると感じているなら、「みなさんこの商品を買われていますよ」と、経験豊富そうな営業担当者から伝えられたときに、ついつい「じゃあ、それでいいかな」と考えてしまいがちです。
しかし、実際に投資で勝者となるのは、少数派であることが多いのを忘れてはいけません。「みなさんこの商品を買われていますよ」というのは、うがった見方をすると、深く考えさせないで、安易な決断を促そうという意図があるかもしれません。
営業担当者がこうしたワードを用いるときは、本当に顧客にアドバイスしているのではなく、サインをしてもらうことだけしか考えていない可能性もあります。一旦立ち止まって、考え直してみましょう。
銀行員の営業ワードに惑わされないために
こうした営業ワードに惑わされないようにするために、最も有効な手段は、自分自身で金融商品の良しあしを判断できるだけの金融リテラシーを身に付けることです。しかし、リテラシーは簡単に身に付くものではありません。
銀行員の言っていることが信頼できるかどうかを判断するには、本当にこちらのニーズをきちんと把握しているのか、それをもとに真剣に提案を行ってくれているのか、という2点をチェックしましょう。
それだけで営業ワードに踊らされる確率は下げられます。そのためには、銀行員に丸投げするのではなく、自分のニーズを伝えるだけの準備は最低限必要です。「運用が可能な期間はどれだけか」「受け入れることができるリスクと、できないリスク」「何を目的に資産運用をするのか」といったことをあらかじめ整理しおきましょう。
もし「為替のリスクを取りたくない」と伝えたにもかかわらず、「たくさん分配金を受け取れる当行の一番人気の商品があります。外国の債券で運用する投資信託はいかがでしょうか。みなさんこの商品を買われていますよ」などと提案する銀行員であれば、それはニーズの押し付けにほかなりません。こちらの疑問や質問、そしてニーズにしっかりと耳を傾けた上で、ソリューションを提供してくれる銀行員を見極めることが何より重要といえるでしょう。