大阪府ではこれまで、かつて大阪市に本店を置いていた三和銀行、住友銀行の流れをくむ三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行が圧倒的な存在感を示してきました。しかし、近年になって地域の中堅・小規模金融機関の活躍も目立つようになってきています。
帝国データバンクが実施している「大阪府下メーンバンク調査」によると、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行の2行の大阪府内シェアは、年を追うごとに少しずつ減少してきています。これに反比例するようにシェアをじりじりと拡大しているのが、大阪市北区に本社を置く池田泉州銀行です。
池田泉州銀行は2017年1月、金融庁が16年9月に公表した「金融仲介機能のベンチマーク」に基づき、自行の取り組みを開示しました。その内容に表れている“顧客企業を最後まで支える”という姿勢が評価されて、シェア拡大に結びついているのかもしれません。
顧客企業を最後まで支える姿勢が鮮明に
「金融仲介機能のベンチマーク」とは、金融機関がベンチマーク(経営指標)を設定して自己評価していくもので、ここから各金融機関の経営スタンスを分析することができます。
池田泉州銀行では、中小企業の経営支援に力点を置いてベンチマークを設定しています。まず、顧客企業を創業期・成長期・安定期・低迷期・再生期の5つのライフステージに分類して、それぞれの局面に応じた融資や支援を行うことを表明しています。2016年3月末時点で2万1391社の顧客企業を抱えていますが、既にその3割弱にあたる6296社に経営改善提案を行っています。
中でも低迷期や再生期に位置付けられる顧客については、「実現可能性の高い抜本的な経営再建計画(実抜計画)」の策定支援を行っていくことを強調しています。実抜計画とは、おおむね3年以内に経営を正常化させることを目標にした計画であり、金融機関側も債権カットなどのリスクを負います。
「金融機関は晴れの日に傘を貸して雨の日に取り上げる」という言葉もありますが、池田泉州銀行はむしろ雨の日にこそ傘を貸すのだという姿勢を鮮明にしたといえます。
経営者保証を付けない融資も増加基調…
企業経営者が金融機関と付き合う際、悩みの1つとなるものに「経営者保証」があります。会社として融資を受けるのにもかかわらず、経営者個人に保証を求めることが珍しくないのです。これにより会社が万が一のときには自宅などの個人資産も差し押さえられてしまうのです。
この経営者保証は、次世代に経営のバトンを渡す際にも壁となって立ちはだかります。
財務省の法人企業統計の数値から単純に算出すると、金融機関からの借入金額は、資本金1億円未満の企業で平均2300万円となります。金融機関は後継者にも保証人になることを求めてきますので、経営のバトンを受け取ると同時に、2000万円以上の保証も引き受けることになるのです。
これは、後継者にとっては非常に大きなプレッシャーになります。後継者が経営者保証を引き継ぎたくないばかりに、廃業に至った企業もあるほどです。
池田泉州銀行では、この“悪習”ともいえる経営者保証をなくしていくために「経営者保証に関するガイドライン」を活用した融資を推し進めています。「経営者保証に関するガイドライン」とは、中小企業庁と金融庁の後押しで日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会が事務局となり策定・公表されたもので、経営者保証を提供せず融資を受ける際や保証債務の整理の際の、中小企業・経営者・金融機関共通の自主的なルールです。
「経営者保証に関するガイドライン」では、経営者個人と会社の会計がきちんと区分されているなどの条件を満たす企業については、経営者保証を付けずに融資をしていこうと定めています。池田泉州銀行では2016年4月から9月にかけて7218件の融資を行いましたが、その約24%にあたる1722件は、経営者保証を付けずに融資を実行しています。「経営者保証に関するガイドライン」を活用した融資の比率は全国平均で14%ですから、池田泉州銀行がこの問題に対してしっかり取り組んでいることが分かります。
逃げ足の速い銀行よりも最後まで支える銀行を
ビジネスライクに徹して銀行経営をするのであれば、融資段階で経営者保証を付けておいて、経営が悪化すれば即座に融資を引き上げた方が合理的です。手間暇かけて経営支援を行い、返済ができる状態に回復させるよりも、自宅などの経営者の個人資産を差し押さえて競売にかける方が手っ取り早く債権を回収できます。
このような動きをする銀行を、俗に“逃げ足の速い銀行”といいます。バブル崩壊、リーマンショック時に逃げ足の速い銀行から貸しはがしを受けた経験のある企業経営者も少なくないでしょう。
池田泉州銀行が推し進める経営者保証を付けない融資は、銀行が自らの逃げ足に重りを付ける行為でもあります。逃げずに最後まで顧客企業と向き合うという覚悟の現れといえます。
昨年に金融庁が実施した企業向けアンケート調査の結果によると、メーンバンクの決定理由として多かったのは、「自社の事業をよく理解している」、「厳しいときも安定して融資してくれる」という回答でした。池田泉州銀行が大阪府内でシェアを広げているのは、このような企業経営者のニーズを丁寧にすくい上げた結果なのかもしれません。