AI(人工知能)技術の発達によって、私たちの生活は大きく変わりつつあります。身近なところでは、AIを活用した家電製品や住宅も現れ始めています。また仕事のさまざまな分野でも、従来なら人間が熟考して判断していた事案を、AIに判断させることで迅速化を図り、コストを削減する動きが進んでいます。
このサービスは、融資の希望者が、AIスコア・レンディングの申込画面に表示されている質問に回答していくことで、融資の限度額や利率が決定していく仕組みです。限度額や利率を計算する一般的なプログラムと違う点は、質問内容が年収などのデータに加えて、職業、趣味、買い物の仕方といった情報など多岐にわたるところです。
AIがこれら回答を、ビッグデータと照合・分析して、申込者の返済能力を計算していくのです。このため、同じ年収だとしても趣味や嗜好によって、融資限度額が異なるケースがあります。今までは現状の年収などそれほど多くはないデータから導き出していたものを、AIが人物像や将来性も加味して判断してくれるのです。
AI融資は、金融機関にとっては審査の自動化と迅速化をもたらし、借り入れをする側にとっては融資の可能性拡大というように双方のニーズを満たす融資商品になる可能性を秘めています。
ビッグデータを活用したAI融資は個人向けだけではなく、中小企業向け融資への導入も進んでいます。2017年8月には、リクルートの金融子会社であるリクルートファイナンスパートナーズが、宿泊予約サイト大手のじゃらんと提携したホテルや旅館などの宿泊事業者向けのオンライン融資「Partnersローン」の提供を開始しました。
Partnersローンは、じゃらんを通じて得た宿泊施設の予約情報や稼働状況をAIで分析して、宿泊業者の融資限度額を審査していくものです。これまで宿泊事業者の繁忙期と閑散期の差が大きいことなどにより、融資の判断が難しい面がありました。しかし、決算書には現れないリアルタイムの宿泊ビジネスの情報を評価・分析することで、融資が容易になるのではないかと期待されています。
会計ソフトを提供する弥生も、親会社であるオリックスとともに小規模事業者向けのAI融資を開始していく姿勢を明らかにしています。そのサービスを展開するため2017年12月に、オリックスと共同出資でアルトアを設立しました。
アルトアは、弥生ソフトの会計ビッグデータ、オリックスが持つ与信ノウハウ、そしてデータマイニング技術を活用したアナリティクス事業を展開するd.a.tのAI技術を活用した、全く新しい与信モデルを開発するとしています。具体的には、小規模事業者が弥生の会計ソフトに入力する日々の仕訳情報を、AIが分析・評価することにより、短期間で融資サービスを行うそうです。
これまで金融機関が融資審査で用いてきた「決算書」という情報は、1年間という決まった期間で会社資金の動きの「結果」を表すものです。一方、前述した2社の企業向けAI融資審査では、決算書だけではなく、「結果」につながっていくリアルタイムの取引データといった資金の動きも分析対象にしていくことが新たなポイントとなっています。
AI融資の時代に評価される中小企業とは?
今後、AI融資の利用に備えるならば、リアルタイムの取引データや資金の動きを正確に開示する必要があります。例えば、領収書は年度末にまとめて処理する、記帳は年に1回しか行わないといった企業の場合は、リアルタイムの情報が不足するため、AIによる迅速な融資を受けることが難しくなるでしょう。
AI融資が一般化していくと、単に売上規模が大きい、利益率が高い企業ではなく、日々の取引情報をきちんと整理・開示する企業が、金融機関から評価されるようになるのかもしれません。これまでは金融機関の融資担当者の主観要素が強かった成長企業の目利き、いわゆる事業性評価融資のスタイルも変わっていく可能性があります。
経済産業省では、決算データから成長企業を予測していく計算モデル開発に向けた調査を進めています。2016年度の調査結果が経済産業省のWEBサイトに公表(2017年3月公開)されていますが、決算書の数字が悪い企業の中にも将来の成長企業が含まれていることと、その成長企業を独自の計算モデルによって導き出すことが可能であることが明らかになっています。
今後、このような計算モデルがAI融資に組み込まれることによって、融資担当者の目利きがAIに代替されていくかもしれません。
今後到来するであろうAI融資の時代で、金融機関から評価される中小企業になるためには、経営者の人となりやプレゼン能力を磨くだけではなく、リアルタイムの取引データとその積み重ねである決算データを、スピーディかつ正確に開示できるように経理部門を強化していく必要がありそうです。