2016年、神奈川県で悲惨な事件が起きた。障がい者福祉施設における大量殺人事件だ。犯人は当直職員が少ない深夜を狙って施設に侵入。抵抗できない入所者を次々と殺傷していった。ほかにも高齢者施設の職員が入居者を殺害しようとして、逮捕される事件が発生している。
こうした社会的弱者をターゲットにした犯人の動機は理解し難く、その理屈は身勝手極まりない。しかし、発生のリスクを完全になくすのも難しい問題だ。障がい者施設や高齢者施設だけでなく保育園など、人を預かる施設すべてにとって人ごとではない。安心・安全の確保が喫緊の重要課題だ。
しかも、このような施設は深刻な人手不足という大きな悩みを抱える。例えば介護施設の状況は介護労働安定センターの「平成27年度介護労働実態調査」で明らかだ。61.3%の介護施設が「従業員の不足感」を訴え、7割が「採用が困難」をその理由に挙げる。2015年には介護報酬が引き下げられ、経営的にも厳しさを増している。
保育園でも人手不足は深刻だ。待機児童は40万人ともいわれるが、その原因は保育士不足にある。厚生労働省では「待機児童解消加速化プラン」を打ち出し、待機児童の解消のため、平成29年度末までに約40万人分の受け皿の確保をめざす。だが、それを支える保育士の数が足りない。全国の保育士の有効求人倍率は、2倍を超えているのが現状だ。
人手に頼らず安心・安全は手に入るか…
こうした労働状況の中で、入居者や入園者の安全を確保するためとはいえ、職員にさらなる業務負担をかけるのは難しい。そのための打開策の1つが、人手に頼らず効率的に“見守る仕組み”の導入だ。具体的な例としては、セキュリティーカメラによる監視システムが挙げられる。
これまでも介護施設や保育園では、玄関や通用口などにカメラを設置し、人の出入りをチェックするケースは少なくなかった。最近の特徴は、食堂、遊戯スペース、談話室、廊下といった施設内部への設置も増えていることだ。介護施設の場合には、お風呂場にも設置する場合もあるという。
その目的は内部の見える化だ。カメラで常時チェックしていれば、生活スペースで何かトラブルがあったときに素早く対応できる。例えば、介護施設では風呂場での事故発生が非常に心配される。その場合でも迅速な対応が可能になる。
内部の見える化には副次的な効果も
常時、生活スペースを撮影しておけば、入居者・入園者同士のトラブルの防止にも役立つ。さらに利用者と職員の間で問題が起こったときも、明確な証拠となり解決に寄与する。最近、タクシーではドライブレコーダーの取り付けが増加している。それと同様だ。介護施設や保育園の運営者にとっては、責任の所在を明らかにすることができ、自らを守るツールにもなりえるわけだ。
最近は、カメラで撮影したライブ映像を保護者向けに、スマートフォンやパソコンでいつでも見られるようにしている保育園も現れている。わが子の姿をリアルタイムに見ることができれば、保護者の安心感は高まるだろう。
このように、施設内にセキュリティーカメラを導入するメリットは多岐にわたる。入居者・入園者の安全を守り、トラブルの防止・解決、保護者の満足度向上など、関係者にさまざまなメリットをもたらす。
最近のシステムは、通信環境さえ整えれば、離れた場所でも撮影映像をチェックできるので、複数施設の管理を1人で行うことも可能だ。多くの施設を運営する事業者にとって省力化が実現する。プライバシーの問題を適切に管理する必要はあるが、導入を検討する意義は大きいだろう。
厚生労働省や地方自治体が、介護施設や保育園の安心・安全のために、防犯カメラの設置に補助金を出すケースもある。介護施設や保育園を置く地域で使える制度がないか確認してみるといいだろう。