ケースで学ぶ職場のトラブル防止法(第10回)賃金をめぐるトラブル事例

トラブル対応

公開日:2019.03.11

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 労働基準法は「この法律で労働者とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と、「労働者」について定義しています。

 また、「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」と、「賃金」を定義しています。つまり、労働することによって賃金を受け取る者が労働者であるということになります。もちろん、労働者の生活は、会社から支払われる賃金の上に成り立っていますから、「賃金」については、最も労使トラブルになりやすい事項の1つといえます。

 事例1 [賃金を支払わない]
A社の社員Bは、突然会社に来なくなってしまいました。Bには前々から精神的に弱いところがあり、上司に叱責されたことがきっかけでした。A社は、会社に来なくなったペナルティーとして、最後の賃金の締め日から出社しなくなった日までの10日分の賃金を支払わないとBに通告しました。

 経営状態が悪くなったために、賃金を支払えない場合があります。しかし、だからといって、賃金を支払わなくてよいわけではありません。仮に、社員が賃金を支払わないことに同意していたとしても、会社は賃金の支払い義務を逃れることはできません。

 社員が一方的に会社に来なくなったという場合でも、既往の労働分の賃金については、きっちり支払わなければなりません。支払わなければ、労働基準法第24条、「賃金の支払いの5原則」の中の全額払いの原則に違反することになります(図表1参照)。

 事例2 [契約したときの約束よりも賃金が低い]
C社は、社員Dを採用する際に、月給40万円という約束で雇用契約を交わしました。ところが、入社して初めて支給された給与の給与明細を見たところ、1カ月当たりの給与が20万円にも達していませんでした。Dは、1カ月当たり40万円の約束だったはずだとC社を訴えました。

 この場合、雇用契約書に付随する労働条件通知書がどのようになっていたかが問題となります。労働基準法第15条は、賃金の決定、計算、支払い方法、賃金の締め切り、支払いの時期について書面を交付することにより明示することを義務付けています。

 仮に口約束での契約であれば、労働者と使用者のどちらの言い分が正しいか、証拠となるものはありません。こうなると、労働基準法で定められているにもかかわらず、労働条件を書面で明示していなかった会社が不利になることは間違いありません。

 社員を雇用する際には、法律で定められた労働条件の事項については、誤解が生じないよう書面にて明示し、両者確認・押印の上、保存しておきましょう。

 事例3 [基本賃金に40時間分の残業手当が入っている]
社員Eは、「基本手当30万円」という求人を見て、F社の就職試験を受けました。ところが、採用が決まり、労働条件を通知されるときになって、この基本手当30万円には40時間分の残業手当が含まれていることを告げられました。労働条件を通知される段階まで、そんな話は全く聞いていません。Eは、F社の求人の内容にだまされた気がしてなりませんでした。

 時々「うちの給料には残業手当が含まれている」という会社を見受けます。俗にいう「固定残業代」というものです。しかし、これは非常にトラブルになりやすい給与の支払い方法といえます。

 固定残業代制度を有効に実施しようというのであれば、「通常の労働時間とその賃金」と「残業の労働時間とその賃金」とを明確に区分しておかなければなりません。また、求人の段階で「基本手当30万円」として、この額に40時間分の残業手当が含まれる旨を明示していなかったことも問題です。求人の際には、応募者に誤解を与えない表現にするように心掛けましょう。

 事例4 [勝手に基本給を下げられた]
社員Gは、取引先と納品に関することでトラブルを起こし、H社から処分を受けることとなりました。取りあえず減給処分ということで、その月の給与の3割がカットされることになったのですが、処分について会社から何の説明もなく、3割カットの根拠も分からず、Gは、イライラばかりが募っています。ちなみにH社は、社員数が5人のため、就業規則は作成していません。

 まず、整理しなければならないのは、この3割カットが、会社の制裁として行われたものなのか、それとも単なる賃金の引き下げなのか、どちらなのかということです。

制裁として行われた場合…

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