顧問先2200社を抱える会計事務所を率いる公認会計士、古田土満氏が語る小さな企業の経営のコツ。前回は、リスク管理の重要性を解説しました。今回も、引き続き「まさか」のときへ備える方法について紹介します。そのポイントはやはり内部留保を増やすこと。そのためには税金を払うことが必要になります。
増加する「まさか」の事態、備えは必須
人生には、3つの坂があります。上り坂、下り坂、そして「まさか」です。私は64歳を過ぎましたので人生の下り坂ですが、事業意欲(志)と事業は開業以来34年間上り坂です。その一方で、「まさか」がこのごろ増えてきました。想定外の出来事といってもよいと思います。
最近だけを見ても、東日本大震災による損害、原発事故による被害、AIJ投資顧問の破綻による年金基金への損失補填、デリバティブ取引による巨額の損失などがあります。
これらは全てうちのお客さまが「まさか」と思い、現実に損失を負担しています。世間を広く見渡せば、こうした「まさか」をきっかけに倒産した会社は多数あります。
「まさか」に対処するためには、備えることです。リスク管理とは、何を準備するかではなく誰を知っているかです。人生や企業にはさまざまなリスクがあります。全てに備えることは不可能です。そこで知人・友人を多くして、さまざまなリスクを解決するプロと友達になることです。
昔から、3人の友人を持てといわれています。医者と弁護士と税理士です。しかし、友人の少ない人でも方法があります。友人の多い人と1人だけ友人になることです。その人に紹介してもらえば、リスク管理ができる可能性がぐっと高まります。
税金を支払い、残った利益をコツコツためる…
話が少しそれました。企業が「まさか」に備えるためには、前述したように、お金を十分に持つことです。お金を十分に持っていれば、あらゆる災害、損害、大不況にも耐えることができます。前にも述べましたが、会社は赤字で倒産するのではなく、お金がなくて倒産するからです。
お金を十分に持つには、2つの方法があります。1つは、銀行から借金をして資金を持つことです。しかしこの方法では、巨額の借入金の返済に苦しむことになります。
もう1つの方法は、王道ですが、税金を払って残った利益を内部留保して自己資本比率を高め、預金をたくさん持つことです。自己資本比率(純資産÷総資産)が60%を超えている企業はほぼ無借金経営ですが、そのような会社はほとんどないのが現状でもあります。
もしこのような会社になれれば、自己資金で「まさか」のときの支払いができます。倒産の心配がなく、借金の返済もないので無理をして、売り上げの拡大や経費の削減をしなくてもよくなります。ですから、社員や得意先・仕入れ先に不安を与えません。せめて自己資本比率が30%は欲しいものです。
借入金は総資産の30%以下、預金は総資産の30%以上の実質無借金であってほしいと思っています。総資産10億円の会社で3億円の預金があれば、「まさか」の事態によって1億〜2億円の損失が発生しても、自己資金で対応できます。一度損失を出した後は、欠損金の繰越控除で税金が40%を補填してくれるので、新たな借金をしなくても立ち直れます。
「月商の何カ月」は当てにならない数字
よく手持ちの資金はどのくらい必要かという目安に月商の何カ月という考え方をする人がいますが、これは抽象的過ぎます。資金は貸借対照表の科目、月商は損益計算書の科目なので単純には比較できません。会社は業種によって粗利益率が異なるので、月商にも大差が生じます。一概に何カ月が必要とはいえません。
貸借対照表で総資産の少ない会社は、不動産・在庫・売上債権に対するリスクが低いので準備する資金が少なくて済むわけです。逆に、月商は少なくても、不動産・在庫・売上債権の多い会社は、総資産が大きいので「まさか」が起きたときには預金が少ないと即、倒産となります。
必要資金はあくまでも、貸借対照表の内容と、個々の企業ごとに考えるべきです。財務体質をよくするための目安が自己資本比率ですが、これを高めていくには、前にも述べたように利益を出して、税金を払わなければなりません。
税金を喜んで払う心境にはなかなかなれませんが、節税したいという壁を乗り越えて納税しないと内部留保は増えず、安心して会社を守れません。目標は、損益分岐点を90%(経営安全率10 %)と仮定すると、粗利益額の5%(4%は税金)を内部留保に回すことです。粗利益5億円の会社なら2500万円です。10年たてば2億5000万円の純資産が増えます。
※本記事は、2017年に書籍として発刊されたものです