会社は求職者を選考し、有能な人材を雇用します。会社が社員を雇用するということは、労働契約を締結することであり、契約とは、当事者間の「申し込み」と「承諾」という2つの意思表示の合致によって成立するものです。
これを分かりやすく言うと、「この条件で働いてください」という使用者の申し込みに対して、「この条件で働きます」という労働者の承諾で成立するのが、労働契約です。つまり、ここで重要になってくるのが、「この条件=労働条件」です。労働基準法第15条第1項は労働契約の締結の際に労働条件を明示することを義務付けています(図表1)。
なお、使用者が労働者に労働条件を明示しなかった場合であっても、その労働契約自体は有効と判断されますが、使用者は30万円以下の罰金に処せられます。
労働条件の明示事項
労働条件の明示には、労働契約の際に必ず明示しなければならない「絶対的明示事項」と、定めがある場合には明示しなければならない「相対的明示事項」があります(図表2)。
労働条件の明示については、労働契約の締結の際に労働者に対して口頭、または書面で明示するものとされていますが、絶対的明示事項(昇給に関する事項を除く)は、書面の交付により明示しなければなりません。
有期労働契約の締結
期間の定めのある労働契約を締結する際には、会社は、労働基準法に規定された上記明示事項に加えて、契約の「更新の有無」を明示しなければなりません(図表3)。会社が、有期労働契約を「更新する場合がある」と明示したときは、この有期契約を締結した社員に対して、契約を更新する場合、またはしない場合の判断の基準を明示しなければなりません(図表4、図表5)。
■図表5 労働条件通知書(ダウンロード)
労働条件通知書とその書き方のポイント…
図表5にある労働条件通知のそれぞれの項目について、記入方法を説明します。
1.契約期間
契約期間については、労働基準法第14条第1項に、原則3年(専門的な知識等であって高度なものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識を有する労働者または60歳以上の労働者については5年)と、その上限が規定されています(図表6参照)。この規定を超える期間の労働契約は認められません。
2.就業の場所、従事すべき業務の内容
「就業の場所」と「従事すべき業務の内容」については、将来的に転勤や異動の可能性がある場合であっても、雇い入れ直後のものを記載すれば問題ありません。ただし、将来的に就業する可能性のある場所や、従事する可能性のある業務について、網羅的に明示することも差し支えありません。
3.始業、終業の時刻、休憩時間、就業時転換、所定労働時間を超える労働の有無
「労働時間」については、労働基準法第32条に、「休憩」については、労働基準法第34条に、それぞれ図表7、図表8のような規定があります。始業、終業の時刻、休憩時間については、法定労働時間の範囲内で規定し、明示する必要があります。
「始業、終業の時刻、休憩時間、就業時転換、所定労働時間を超える労働の有無」の欄には、労働契約を締結する労働者に関する具体的な条件を明示してください。もちろん、1年単位の変形労働時間制や1カ月単位の変形労働時間制やフレックスタイム制などの変形労働時間制を採用する場合は、その事項についても詳細に記載してください。みなし労働時間制を採用する場合も同様です。
4.休日
「休日」に関しては、労働基準法第35条に、「毎週1回以上、または4週間に4日以上与えなければならない」という規定があります(図表9)。もちろん、この規定を順守した上で明示する必要があります。
5.休暇
「休暇」の代表的なものといえば、年次有給休暇です。年次有給休暇についても、労働基準法に規定がありますから(図表10)、労働基準法の規定を最低ラインと考え規定、明示しなければなりません。その他、会社ごとに定める特別休暇(夏季休暇や年末・年始休暇)がある場合は、ここに明示します。
6.賃金
賃金については、具体的な、月給、日給、時間給、出来高給の額を記載します。割増賃金については、労働基準法第37条に、法定時間外労働は2割5分以上、休日労働は3割5分以上、深夜労働は2割5分以上支払わなければならないと規定されています。
7.退職に関する事項
「退職に関する事項」については、退職の事由および手続き、解雇の事由などについて具体的に記載します。会社を退職する理由には、「定年」と「自己都合退職」が考えられ、会社が解雇する場合には「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」が考えられますが、これらをすべて記載すると膨大な量の情報となってしまうので、就業規則の条項名を示すのが一般的です。
8.その他
「その他」に記載する可能性があるものとして、労働保険や社会保険の加入状況を挙げることができます。この他に労働条件の相対的明示事項に該当するものがある場合は、この欄を使用します。