理想のコラボレーションとは?
人の肩をよじ登って誰かの肩の上に立ち、また別の人がその人の肩をよじ登って肩の上に立つ。これを繰り返して、10階建ての建物の高さに相当する人間の塔を作るというチーム競技を、あなたと同僚たちが命じられたと想像してもらいたい。優勝チームは、この多層式の人間の塔を一番早く完成させて、一番早く解体させたチームだ。
もしスペインのカタルーニャに行ったことがあるなら、これと同じ競技を見たことがあるかもしれない。「層を積み重ねて高くなる、赤い半裸の震える塔は、背中の広い男たちが土台になって重みの下で汗をかき震えており、最後に、小さな女の子がするするとてっぺんまでよじ登り、勝利で腕を突き上げる。身がすくむような光景だが、怖いもの知らずの参加者たち(castellers/カスタリェース)は大きな誇りを抱いている。この人間の塔(castell/カステイ)作りは、カタルーニャ文化の中核をなすからだ」
人間の塔(カステイはカタルーニャ語で「城」を意味する)を作るカタルーニャの伝統は、18世紀にまで遡る。カスタリェースのモットーは、「フォルサ、アキリブリ、バロー、セニ」すなわち「力、バランス、勇気、良識」である。テクノロジーに破壊された世界において、カタルーニャのカステイの伝統とそのモットーは、デジタルに成熟している組織に求められる、コラボレーターとコラボレーションの完璧な例えと言えるかもしれない。
コラボレーションの必要性を推進するものは何か?
企業におけるコラボレーションの取り組みの推進力として挙げられた回答は、興味深い。拡大するコラボレーションの背後にある主な推進力は、仕事の性質だと私たちは思ったのだが、回答者は仕事の性質と、コラボレーションに使える新しいツールとテクノロジーの両方を挙げたのだ。言い換えるなら、人々がそれまでとは違う新しいやり方でコラボレーションするのは、仕事がコラボレーションを求めるから、並びに効率的にコラボレーションできるツールが今あるから、ということになる。
成熟段階の企業は、こうした考えを具体的に実行に移し、さらに進んだコラボレーションツールを導入する可能性が高い(主に電子メールに頼るのとは対照的だ)。デジタルに成熟している企業の70パーセント以上が、高度なコラボレーションツールを使って仕事をしている、または使って仕事をし始めていると答えたのに対し、同じ回答をしたのは、初期段階の企業では40パーセント未満しかいなかった。
デジタル時代の仕事の性質は、部門の枠を超えて、さらにアジャイルになり、さらに反復して仕事をするよう組織に求める。これに対応するには、当然、さらなるコラボレーションが必要になる。有効に利用すれば、デジタルプラットフォームはコラボレーションを可能にするだけではなく、人々がコラボレーションし関わり合う方法を変える。
さらに高度なプラットフォームによるコラボレーションの潜在的利益を考慮すると、組織がこうしたツールを内部コミュニケーションとして導入するのにどれほどのんびり構えていることか、組織の対応の遅さにはいささか驚かされる。
デジタルのコラボレーションツールは、グループの幅広いコミュニケーションをさらに効率よく効果的に行うために有用である。例えば企業の場合なら、プラットフォームは、優れた意図的なコラボレーションを支える二つの主要な機能を提供する――ネットワークの管理とコンテンツの共有である。
プラットフォームの透明性と永続性…
デジタルプラットフォームは、現実世界とメールのネットワークでは提供しない「透明性」を、ネットワークに提供できる。たとえば、フェイスブックは共通の友人を自動的に見つけ出す。リンクトインは、望み通りのコンタクトへの最短かつ最適なつながりを知らせる。自分や潜在的な接触相手がどれほどコネクションをもっているのか、ユーザーは一目でわかる可能性がある。
ほかの人たちが誰と結びついているか具体的にわかり、望ましい結びつきのために最短の道筋も描ける。広大なソーシャルネットワークの特徴を意識すれば、そのなかで自分の立場をどのように向上させたらいいか、より適切な判断が下せるし、次に、そうした立場に関連するパフォーマンス利益を得られる。
またマネジャーは、デジタルプラットフォームがもたらすこの透明性を利用して、社員間の交流が分かるので、企業全体のネットワークが概観できる。このような視点は、組織がどのように機能しているかについて、計り知れないほど貴重な見識をマネジャーに与える。
ネットワークの管理に加えて、デジタルプラットフォームはコンテンツを共有し、コンテンツで交流するためのさまざまな方法も支援する。高度なコラボレーティブプラットフォームの二つの特徴は、コンテンツの「透明性」と「永続性」である。
電子メールは通常、特定の人物またはグループ宛に特定の目的で送られる。送信者は、受信者がどんな種類の情報に興味をもっているか知っているものとされる。ほかのコラボレーティブプラットフォームでは、組織内の関係ない人たちがリアルタイムで(透明性)あるいはあとで(永続性)、投稿内容を閲覧できる。
よって、潜在的な受信者は、特定のテーマや情報をプラットフォームで検索できるし、本来その人たちを対象にした情報ではなくても、必要な情報を見つけ出すことができる。“透明性”のおかげで、通常の相互作用で共有された情報から、他者も恩恵を受けることができる。ツイッター、フェイスブック、リンクトイン、スラックなどのプラットフォームのいわゆるニュースフィードは、プラットフォームの特定のグループの中で、またはテーマについて起きるすべてのインタラクションを、人々がチェックできるようにする。
こうしたフィードにざっと目を通して、他の人たちがどんなことを話題にしているのか、興味をもっているのか知るだけで、社員は専門知識の理解を深め、同僚の知識を獲得し、後日その知識が必要になったときにアクセスできる。
また“永続性”のおかげで、後日他者が情報を利用できる。メンバーがチームを離れることがあっても、彼らの会話、決断、意見、フィードバックの記録は、新しく入ってくるメンバーのために保存される。そうすればそれまでの作業を再現しなくても、新メンバーはこの情報を利用して、それまでの作業に基づき首尾よく仕事を進められる。
目的あるコラボレーションに向けて
とはいえ、コラボレーションのためだけのコラボレーションは、特に重要ではないし、意図的でないコラボレーションは、役立たないパターンに陥りかねない。デジタルプラットフォームが意図的に追求されない場合、同じようなタイプの非生産的コラボレーションを導きかねないことが、いくつかの調査からうかがえる。たとえば、人間は概して自分とよく似た人(この特徴は「同類性」と呼ばれる)や、共通の社会的関係を持つ人(このネットワークの特徴は「均衡」と呼ばれる)と交流したいと思うものだ。
同じ考えをもつ人々と結びつくことは楽しい――が、これは現在の偏見を強化し、有効な意思決定をおとしめることも多い。同じような視点や関係を持つ人と結びつきを持っても、そのような結びつきは一般に、かつて出合ったことのない新たな知見や別の視点をもたらさない。それどころか、「反響室(エコーチェンバー)」を作り出し、各個人がその中で自らの視点や決定に過度に自信を抱くようになる。
新しいコラボレーションツールは、一段と生産的なコラボレーションを可能にするが、それが意図的に使用され、「意見の多様性」や「個別の意思決定」、「分散型のコミュニケーション」を育成する限りにおいてそれが実現する。あなたのコラボレーションツールが多様性をもつためには、あなたの組織に多様性が必要になるということを、ここで強調しておくべきだろう。
パフォーマンスの恩恵は二次的
さらに、コラボレーションによる恩恵は、企業が組織内の文化と組織内の関係を強化するためにプラットフォームを使った後に限り生じる、二次的な効果であることを発見した研究者もいる。
彼らの調査によれば、企業が求めているようなパフォーマンスやコラボレーションによるその他の恩恵を受ける前に、企業はまずプラットフォームによって、信頼性、プライド、愛着、楽しみを社員の間に育むようにする必要があるという。企業のリーダーの人間味をあふれさせるために、社員の実績が認められるようにするために、社員と主なステークホルダーの結びつきを深めるために、そして企業の全員が職場で適度にフランクな態度をとれるようにするために、デジタルプラットフォームを使うこともできる。
社会関係資本(ソーシャルキャピタル)を開発する前にパフォーマンスの恩恵を引き出そうとする企業は、高価なプラットフォームを有効に使うことができず、散々な結果に終わることが多い。最初に社員の間にコミュニティ感覚を高めるためにプラットフォームを使った企業は、その強みの結果として、パフォーマンスの恩恵を実感することが多い。
言い換えれば、コラボレーションプラットフォームは、やはりただのツールなのである。自動的に脆弱な関係を修復したり、有害な文化を是正したりするわけではない。それどころか、良かれ悪かれ、組織文化を増幅するかもしれないのだ――良い文化はさらに良い文化へ、悪しき文化はさらに悪しき文化へと。こうしたツールから最大の価値を得るためには、組織と人間関係の力学を理解し、ツールから望むコミュニティや関係、仕事を育て、作り上げるための意図的なアプローチをとる必要がある。