飲食店や個人事業主にとって、いまや欠かせないものになっている自社ホームページ。集客や認知度を上げる方法として重要な役割を担っています。しかし、ただお店の情報を載せるだけでは効果を発揮できません。そこで今回は、ホームページを作るときのポイントや方法について、現役WEBコンサルタントの中山陽平さんに具体例を交えながら教えてもらいました。ホームページ作成の参考にしてください。
そもそも自社のホームページ作成は必要でしょうか?
インターネット利用者が増加し続けているため、ホームページがないと商売上のデメリットはますます増えるでしょう。とくに、飲食店やホテルなどのビジネスにおいては、ホームページがないとお客さまの選択肢に含めてもらえないこともあります。
またホームページがあれば、検索エンジンからの導線確保につながります。業種によってはSNSだけでいいのでは?と言われることもありますが、どうしてもSNS系だけでは検索エンジンからの集客が弱いこともデメリットのひとつです。そのため、自社ホームページ作成はとても重要です。
ホームページを作るときの流れについてお伺いします。
ホームページも実店舗と変わりません。最初から内装を考えるのではなく、どういう店作りをしたら、競合に勝ち、お客さまに選ばれるかを最初に考えます。それが固まったら、それに合った「コンセプト」を作ります。そしてそのコンセプトをお客さまに伝えるために必要な「コンテンツ」「機能」を作り、スムーズに伝えるための「デザイン」を施します。そして最終的にホームページとして見ることができるように「コーディング」を行ったり、制作ツールを使ったりするなどして全世界で閲覧できるようにします。これが基本的な流れです。ホームページを作成するには、「考える→作る→知らせる」という3つのポイントが重要です。
第一に「考える」です。とにかく「どういう店作りをしたら、競合に勝ち、お客さまに選ばれるか」をトコトン考えることです。感覚的には全体の8割はここに使っても良いでしょう。ホームページに限ったことではないですが、考える枠組みとしてはマーケティングの基本である3C分析が便利です。3C分析とは顧客・競合・自社という3つを軸として「競合のお店にどうやれば勝てるのか?」「お客さまに選んでもらうにはどうしたら?」など、市場での勝ち方を考える枠組みです。ゼロから「どうやったら勝てるかな?」と考えるのは大変。こういった枠組み=フレームワークを使いましょう。3C分析はとてもメジャーなので、参考書籍やネット上の情報も豊富ですので、是非調べてみて下さい。
また、1人で考えるより大勢で考えることをおすすめします。1人で考えると、どうしても見ている物や価値観が偏っていたり、ついつい都合良く考えたりしてしまいがちだからです。お客さまと接している人を中心にみんなで考えて意見を持ち寄ってみましょう。
ホームページだからといって特別なことは何もありません。情報を載せる場所や接客する場所が、店舗かネットかの違いだけです。「これって、どうやったらネットでできるかな?」という手段の部分は専門家のアドバイスが必要かもしれませんが、何をすべきか?は皆さまで考えられるはずです。
第二に「作る」です。「考える」ことを経て、作りたい物が決まったら、実際にホームページを作ってみましょう。前述した通り、今やプログラミングの知識などはもちろん不要、Wordで文章を書く感覚でホームページは作ることが可能です。特にクラウド型のホームページ作成ツールがおすすめです。昔はパソコンにHP作成ソフトをインストールして作るのが普通でしたが、今はネットに管理画面があってログインすればどのパソコンやスマホでも更新ができる、クラウド型が便利でおすすめです。今のクラウド型HP制作ツールは、初心者むけにも作られていて、かんたんに、専門知識も不要で作成できます。皆さまが一番悩む「デザイン」も、デザインのテンプレートがたくさん用意されてすぐ使えるので安心です。「Wix」や「Jimdo」などが有名で利用者も多くおすすめです。ある程度慣れてきたら、カスタマイズ性が高い「WordPress」もよいです。ただ、その分少し知識が必要です。
ホームページ作成というと、HTMLなど専門知識がないと作る事ができないという印象を持っている方がおられるかもしれません。しかしそれは昔のこと。今は簡単に作れるツールがたくさんあります。本格的なデザインをすぐに使える仕組みもあります。なので、いわゆる「ホームページ制作」作業は残りの20%くらいのイメージで十分です。そしてもう1つ大事なのは、ホームページは作った所がスタートラインだということ。お店と同じように継続的な改善作業や露出のテコ入れが必要です。言い換えると、ホームページを訪れてもらう工夫が重要です。作ったら後は自動集客機のごとく人を連れてきてくれるわけではない、ということをおさえておきましょう。
第三に「知らせる」です。どんなに良いホームページができても、見てもらわないと意味がありません。リアル店舗と違い、自然に見つけてもらうことは非常に難しいのがネットの特性です。偶然お店の前を通る…なんてことはないからです。このとき大事なことは「ネットなんだからネットから集客するしかない」と無意識に思い込まないこと。少し詳しい方はSEO(検索エンジン最適化)という言葉をご存じかもしれません。確かにネットの検索エンジン経由でお客さまが来てくれる可能性はありますが、特に飲食店は類似店が多く、競争が激しいです。ネット経由だけに期待して待ちの営業をしていても、往々にしてホームページにはほとんどアクセスはありません。なので、特に飲食の場合は「リアルで来たお客さまをホームページに連れて行く」ことを大切にしてください。目標は来店者全員がホームページにアクセスしてくれることにしましょう。
お客さまは、あなたの店を「良いお店」と感じたら、あなたの店を覚えておきたいもの、また他にどんなものがあるかな?とより知りたくなります。そこでホームページがあれば、いくらでも情報を提供できますし、予約できるようにすれば予約サイトへの依存率も下がります。LINEやInstagramも組み合わせるといいですね。ホームページのような情報量は載せられませんが何より手軽でプッシュ配信もできます。
ホームページに情報を載せても意味があるの?と思われる方もいるかもしれません。しかし「ある」のです。たとえば、通販商品にチラシを同梱して、その商品にかける思いやこだわりなどを知っておいてもらったら、食べたときの味は変わると思いませんか?事前にお客さまに自分たちの商品やサービスについて、情報を入れてもらえるかどうかで、価値の伝わり方やその後の反応にとても影響を及ぼします。
このように、第二、第三といった流れには「考える」の項目が必須です。マーケティング分析とも呼んでいます。
マーケティング分析の具体的な成功事例についてお伺いします。…
これは私のコンサルした事例の1つです。ノウハウの関係で、少しフェイクを入れています。ある駅近の繁華街にある割烹料理店。時代の流れとともにライバル店が戦略的に商売を行うようになり、ネットにも力を入れてきていました。そんな時に、オーナーの方から「とりあえずホームページがないので作りたい」と私の所に連絡が来たのが最初のご相談でした。
しかし、ただ作ったところで意味がありません。考えることが大事だというのは、この記事の最初の方で述べましたよね。なので、まずはお客さまの分析を一緒に行いました。具体的には「なぜリピーターが来てくれているか」「なぜ新規で来てくれたか」についてオーナーも店員さんも考えたことがないと言うので、そこから探っていきましょう、というアイディアを私の方から出しました。そこで具体的に行ったことが以下です。お客さまと競合についての調査です。
①常連さんに話を聞く
昔から来てくださっている常連さんに、その理由を聞きました。お客さまによっては、理由がはっきりしないことも多いですが、なんとか食らいついて、深くインタビューしました。実はこの「はっきりしない」事って多いんです。皆さまも「なんでこれを選んだかというと、上手く言えないな、なんでなんだろうな」ということってありませんか?人間ってなんでも論理づけて決めているわけではないんですよね。少なくともすぐには気づかなかったりするものです。
そこで根気よく聞いてみると「そういえば、この料理がきっかけだった」「この時期にこれがあるのはここしかなくて」などいろいろな情報が出てきたのです。こういったことを、最低でも5人、できれば15人くらいに聞きたいところです。
完全な新規出店の場合はこの辺りは難しいため、試食会などを開催してアンケートを採りましょう。テストの時期と割り切ります。その後お客さまが着いた段階で、再度トライしましょう。
②バイトなどの従業員にこの職場を選んだ理由を聞く
内部での意見も重要です。従業員や調理師にインタビューし、なぜここで働いてくれているのかを聞きました。なぜなら、お客さまとは違った目線で、店の印象を知ることができるからです。例えば「厨房がきれい」「お迎えの挨拶の声がうるさくない」などを初めとして、想像していなかった声がたくさん得られました。
③人気店に実際に行ってサービスの研究をする
そして、お客さまから一緒に「他によく行く店」「この近辺で似ている店」などの情報も得られると良いです。いわゆるそれがまず越えるべき競合店の可能性が高いからです。お店を特定できたら、覆面調査もやった方がよいでしょう。サービスを体験しないとわからないこともあるからです。その上で、よいと思った部分はどんどん取り入れていきましょう。ちなみにこのケースでは、これらの情報を元に、店の強みと弱みをおさえ、「おいしい蒸し鶏と麦焼酎のお店」という具体的なコンセプトを見出しました。そしてメニュー構成をそこにフォーカスし、セットメニューの追加や内装と入り口看板の改装などを経て、安定した回転率を確保しています。これは、ホームページと言うよりは店舗戦略の話です。しかし、結局の所ホームページもこのような戦略に沿って作らないと意味がありません。この調査の結果をもとに、ホームページも同じような印象を与えられるように、コンテンツやデザインをブラッシュアップしていくと良いでしょう。
コンセプトが決まったあとに気をつける点はありますか?
コンセプトが決まったら、ホームページを作成します。しかし最初から上手くいくケースは少ないと考えてください。絶対に、想定通り行かない部分が出てきます。これを拾って「なぜだろう?」を繰り返せるかがとても重要です。定期的にお客さまの声を回収することも引き続き行いましょう。そしてホームページの内容などもブラッシュアップしていきましょう。この「どんどんよくしていく」ことが大切だと忘れないこと、それが最大の注意点です。改善サイクルを回して実験を繰り返していくのはネットの得意分野です。広告を出し、1枚目の画像やメニューを変えたパターンを比較するなどして、お客さまの求める物を特定できれば、それをリアル店舗のメニュー表や特別メニュー、キャンペーンなどに並行展開しても成果が出ることが多いです。通常の食事ですとなかなか比較テストなど行えませんが、宴会やコース料理などであれば単価も高いため可能でしょう。(今は時期的に難しい部分がありますが)
また、忙しさにかまけて放置しがちなホームページですが、放置されたホームページは害悪でしかありません。現場にはないメニューがあったり、古いキャンペーンがそのまま掲載されていてクレームになったり。また、最終更新が古いと「潰れたのか?」と思われてマイナス印象を与えてしまいます。キチンと活気を出していきましょう。
また、検証をコストをかけず行うためには、自分たちで変更や再現ができることが必要です。毎回制作会社に頼んでいたら、時間もお金もかかってしかたありません。せっかくの儲けも帳消しになってしまうかもしれません。
ホームページを作成した後はどうしたらいいでしょうか?
先ほどもお伝えしたように、ホームページは作って終わりというわけではありません。ホームページを公開した後は、アクセス解析を行いましょう。アクセス解析は無料のアクセス解析サービス「Google Analytics」が一般的です。少々とっつきづらいですが、事実上のスタンダードなため、本もネット上の情報も豊富です。がんばって覚えることをおすすめします。
また、ヒートマップという種類のツールもおすすめです。これを使うと「画面内のどこが見られているか」「どこまでスクロールした」「どこをタップした」などがわかるので、お客さまの興味や関心を可視化することができるからです。様々なところから有料・無料問わずヒートマップサービスが出されています。アクセス解析だけではわからないヒントが得られます。それを見ながらホームページを常に修正、改善を繰り返し、新鮮な情報を届けるようにしましょう。
最後にメッセージをお願いします。
まず大前提として、成功するホームページ作成の鍵を握るのは、コンセプトやターゲットをしっかりと決めることです。「誰に、どんな情報を、どう見せるのか」を決めていなければ、何を伝えたいホームページなのかわからなくなります。
そして、ホームページ公開後は定期的にアクセス数の解析などを行い、改善サイクルを回すことが必須だということ。ホームページは公開して終わりではありません。常に内容の改善や情報のアップデートを心がけましょう。
自分でホームページ作成というと、どうしても難しく感じるかもしれません。しかしホームページは、今やとても簡単に制作できる時代です。そして、お客さまに選んでもらうため、自分たちの魅力の100%をお客さまに伝えるためという意味で、重要かつ便利な媒体なのです。
少しでもホームページの運用に慣れることができれば、楽しく運用でき継続につながります。私の経験でも、はじめはインターネットが苦手でしたが、少しずつ慣れて克服した経営者さま、ご担当者さまは多くいらっしゃいます。是非、積極的にトライしてみましょう。
専門家プロフィール
中山 陽平
株式会社ラウンドナップ代表取締役・WEBコンサルタント。『この世からウェブを活用できない企業をゼロにする』をミッションに,中小企業・小規模事業者を中心に活用支援を行う。WEBセミナーPodcastは300回以上配信中。
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※この記事は2021年9月時点の情報です