自分でお店を開業すると、日々の売上に関心を寄せる一方、人件費や材料費などの経費や納税といった支出には目がいかず、いざ支払いが必要となってから慌ててしまうということが少なくありません。今回は収支計算と納税にクローズアップしつつ、忘れがちなポイントを確認していきたいと思います。
自分でお店を持つと、まず気になるのは日々の売上です。これは利益に直結するからであり、銀行や商工会、コンサルタント、同業の経営者仲間などと相談して作った事業計画書をもとに、「一日の売上がここまであったら黒字」という目標金額を決めて取り組まれている方も多いと思います。
一方で、月々の支払いや人件費といった支出は、意外と見落としがちです。これは1ヵ月単位で見なければ費用発生がわかりにくかったり、売上規模から見た割合が微々たるものだったりするからで、支出している実感に乏しいからだと思われます。
ただ、冷静に考えれば、支出も日々積み重ねていくものであり、その支出が売上を生んでいる側面もあります。ある程度、経営になれてくると感覚的に「今日は出勤しているスタッフが多いから、人件費がかさんでいるな」「寒い季節に入ったから光熱費が増えるかな」といったことがわかるようになるものですが、できれば早い段階から、支出についても意識しておきたいものです。
昨年度からの特異な点として、店舗では売上以外に大きな収入がありました。それは、コロナ禍でも経営を継続するための給付金や支援金です。売上の減少分を補填するだけでなく、従業員の休業補償を充当するもの、家賃の一部を補助するものなどもありました。これらは申請から実際の入金まで大きなタイムラグが生じることもあるため、どのタイミングで計上するかも考えておかなければなりません。
また、緊急事態宣言等でテイクアウトや店頭販売をはじめた飲食店、ECサイトなどを開設した店舗などは、売上の内訳が複雑化することを踏まえて、余裕を持って管理・把握するように努めましょう。
コロナ禍の影響については、支出面でも注意が必要です。例えば飲食店ではFLコスト※が基本であり、適正値は売上の60%といわれますが、休業や時短による原材料の廃棄や思わぬ来店客の減少といったリスクが多いことを考えると、FLコストの見方や把握する期間などにも注意が必要です。
※FLコスト… Food(食材費)とLabor(人件費)の合計コスト。R、つまりRent(家賃)を加えFLRコストと呼ばれることもある。R比率の適正値は、10%といわれている。
[caption id="attachment_43918" align="aligncenter" width="600"] 共通して発生する「消費税」「固定資産税(償却資産税)」[/caption]
店舗を経営する上で生じる税金としては、まず消費税と固定資産税(償却資産税)が挙げられます。
次に、店舗を個人事業主として経営している場合は所得税及び復興所得税と個人住民税、個人事業税が課税されます。一方、店舗を法人として経営している場合は、法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税が課税されるとともに、経営者個人に対して給与を支払っていた場合には所得税や個人住民税を支払うことになります。
消費税については大まかに言うと2年前の売上が1000万円以上の場合に納付することとなります。この場合、店舗でお客様から徴収した消費税を国へ納付することになりますが、仕入れ等で店舗側が支払った消費税分は差し引くことが可能です。
また、この差し引き分が徴収分より多くなる場合は、消費税の還付を受けることができます。固定資産税(償却資産税)については、自社所有の土地や建物だけでなく、店舗や事務所の什器、設備も課税対象となる可能性があります。これを知らないまま、未申告となっているケースも少なくありませんが、放置すると延滞金が請求され、余計な支払いが発生しますので、きちんと申告を行いましょう。
資産価値が10万円未満のものやソフトウエアなど無形の資産は対象外となったり、一定金額以下の場合は課税されないなど、課税が発生しない場合もありますが、新たな設備導入の計画があるときは注意しておきたいものです。
個人/法人で少し異なる税金も
法人税については、法人の所得税のようなもので、法人として得た所得に対して課税されます。資本金が1億円未満の法人で、所得が800万円未満であれば15%、800万円を超える場合は120万円(800万円の15%)+800万円超過分の23.2%を法人税として支払います。さらに法人税の10.3%を地方法人税として支払うことになります。
事業税も所得税、法人税と同様に、所得にあわせての課税となります。個人事業税については、業種ごとに税率が定められており、各種控除分を差し引いた所得をかけあわせて算出します。法人については課税所得によって税率が3段階に区分されているため、400万円を超える場合は算出時に注意しましょう。
住民税について、赤字の場合でも均等割分が課税されます。この均等割の金額も、資本金が1000万円を超えるとさらに大きくなるため、こちらも注意しておきたいものです。
納税に備えて、2ヵ月前には支払金の準備を
これら税金を納める期日と金額は、申告時または納税が決定した後で通知されます。店舗をオープンさせた初年度は、納税のスケジュールも把握しにくいため、慌ててしまうことがあるかも知れませんから、事前に税務署や市町村、税理士に相談しておくと良いでしょう。
また、納税に備えて概ね2ヵ月くらい前には、納税のためのお金を用意しておくと安心です。
店舗の節税効果につながる3つのアクション
[caption id="attachment_43919" align="aligncenter" width="600"] 少しずつだが、積み上げれば大きな節税効果を生むことも[/caption]
お店の収支を考える時、経費部分を抑えるのも重要ですが、できることなら税金の支払いも節税をして、得た利益を次の事業展開や運転資金に生かしたいところです。
節税方法については、「何かをやったから大幅に金額が下がる」というものはありませんが、次のアクションを積み上げることで、大きな節税効果につながることもあります。ぜひチェックし、取り組んでみたいものです。
アクション①:青色申告と専従者給与
まず個人事業主であれば、青色申告を利用するべきです。経営者にとっては常識かも知れませんが、複式簿記で電子申告又は電子帳簿保存を行う場合は、所得に対して65万円までの特別控除が受けられます。そもそも店舗経営には帳簿をつけながら日々の売上や経営状況を把握しておくことが求められることを考えると、むしろ青色申告を選択しない理由はないでしょう。
また、青色申告であれば、一定の条件のもと、専従者給与として親族に支払い、それらを経費として計上することができるなど、様々な特典が用意されています。いきなり税理士に依頼するのはコスト面で厳しいという方でしたら、税務署で記帳に関する相談を受け付けていますので、管轄の税務署に問い合わせるのも一つの方法です。
アクション②:決算期にあわせた施策
次に、決算期にあわせたアクションを考えましょう。まずは店販をする場合の在庫の見直しです。在庫は資産となるため、不要になれば処分した方が節税効果も得られます。あわせて償却資産の見直し、経費節減につながる機器・設備の導入なども、決算期にチェックしておくべきでしょう。さらに社員がいる場合は、決算賞与を支給し、節税効果も得るということもできそうです。
アクション③:共済制度もメリットが
全額経費として計上できる共済制度への加入も、節税にとって効果的です。具体的には、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)や小規模企業共済(退職金共済)があります。これらは利益の拡大にあわせて掛金を増やすこともできるため、万一時の補償と節税効果を同時に得られるメリットがあります。
おわりに
冒頭の通り、多くの経営者は日々の売上を追いながら、現状分析や今後の展望を考えていることと思います。これに加えて、週次、月次と見る単位を変え、見る数字を変えながら、多角的に経営を捉えることも重要です。
また、順調に売上を伸ばし、一定以上の規模へと成長した時には、相談できる税理士を見つけることも大切です。近年では、記帳、申告、経営相談など目的にあわせて、最適な税理士を見つけるためのマッチングサイトもあります。ぜひ自分に合った専門家と相談をしながら、より良い店舗経営に取り組まれてみてはどうでしょうか。
専門家プロフィール
室田 昌克
税理士。大阪市都島区に所在するBiz Bloom経営会計事務所の代表として、顧客の税務や資金調達などのサポートに従事。事務所開設前は、パナソニックをはじめ大手企業数社の財務部門にて、資金調達、M&A、事業計画策定などの業務に携わる。ホームページは、https://bizbloom-tax.com
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