個人・法人に関わらず、事業を行う上で土地や建物、設備といった「固定資産」を保有することがあります。今回はこうした固定資産について、また固定資産税について知っておくべき2つのポイントを確認していきます。現状の事業内容や規模に関わらず、経営者の方は将来の事業拡大に備えて、理解しておきたいものです。
どんな業種でも、事業を行うためには元手となる資金が必要です。具体的には現金や銀行預金がイメージできることでしょう。会計上では、これらに加えて商品在庫、土地、建物、設備、ソフトウェア、のれんなどをまとめて「資産」といいます。
資産は品目によって、①比較的流動性が高い現預金など流動資産 ②流動性が低く現金化が難しい固定資産 ③開業費など複数年にわたって効果を出す支出をさす繰延資産の3つに大別できます。先に挙げた資産のなかでは、土地、建物、設備、ソフトウェア、のれんなどが固定資産に当たります。
固定資産をさらに深く見ていきましょう。固定資産のうち、土地や建物、設備といった形が目に見えるものを有形固定資産といいます。さらに有形固定資産には、土地のように経年劣化しない非償却資産、建物や設備のように年々劣化し価値が下がっていく償却資産に区分できます。
対して、形が目に見えないものは無形固定資産といいます。具体的にはソフトウェアやのれんなどです。こちらも償却資産が多くを占めますが、借地権などは非償却資産となります。
固定資産について、毎年1月1日時点での保有状況をもとに、価格が10万円を超えるものについては事業主が提出した償却資産税申告書をもとに市町村が課税金額を算出し、償却資産税として税金が課されます。また、土地、建物といった不動産についても1月1日時点の所有者に固定資産税が課されます。加えて、土地や建物が市街化区域にあれば、都市計画税が加算されます。スケジュールとしては毎年4~5月頃に課税金額のお知らせが郵送され、6・9・12・2月の年4回に分割して支払うことになります。
[caption id="attachment_43970" align="aligncenter" width="600"] 固定資産税の計算方法は?[/caption]
それでは、固定資産税の計算方法について、簡単に理解しておきましょう。
まずは土地・建物について見ていきましょう。市町村では、税額を計算するベースとなる「固定資産評価額」を設定しています。これは土地や建物の時価(実勢価額)の7割といわれますが、時価自体が物価や社会情勢によって変動することもあるため、3年に一度は見直しが行われています。土地や建物それぞれの固定資産評価額は、納税通知書に記載されているので、確認してみると良いでしょう。
固定資産税は、この固定資産税評価額に、標準税率をかけ合わせた金額となります。税率は現在法では1.4パーセントとされています(都市計画税は0.3パーセント)。
償却資産の評価額について
次に償却資産の評価額について見ていきましょう。償却資産については、資産自体の価値が経年劣化する性質を踏まえ、取得価格と取得後の年数、耐用年数をもとに評価額を算出します。ここで耐用年数とは言葉の通り「資産自体を利用できる年数」であり、構造・用途等により決められています。あわせて耐用年数ごとに、資産価値がどれほど残存しているかを示す「減価残存率」も定められており、これをもとに計算していくことになります。
例を挙げて見てみましょう。例えば価格50万円のパソコンを取得した場合、耐用年数は4年で、1年目の減価残存率が0.781、2年目以降の減価残存率が0.562となります。計算すると、評価額はそれぞれ1年目が39万500円(50万円×0.781)、2年目が21万9461円(39万500円×0.562)となります。
ポイント①減免・不服申し立て制度の利用ができる
[caption id="attachment_43972" align="aligncenter" width="600"] 支払いが難しいときには減免の相談をしてみよう[/caption]
固定資産税や都市計画税については、市町村が決められた計算式で課税金額を算出するため、場合によっては「支払いたくても支払えない」事態も想定できます。これは税の特性上、所得に関係なく課税されるものだからですが、そこで知っておきたいのが減免制度です。
固定資産税は各市町村が徴収するため、減免が認められるかどうかの判断も市町村に委ねられますが、全国的には「生活保護受給者や非課税世帯など著しく所得が低い場合」や「自然災害に被災した場合」など、支払いが困難な状況があれば申請が可能です。また、支払い時期を遅らせる猶予制度もあります。
課税金額に納得がいかない場合は不服申し立て制度を活用しよう
さらに、固定資産税の課税および課税金額について納得がいかない場合は、不服申し立てもできます。基本的には不動産を多数保有する法人が固定資産税の適正化を図るために行うものであり、実際には費用対効果も踏まえ、不服申し立てまでを行うケースは数も少ないですが、支払いについて困ったことがあれば、まず市町村へ相談することがベターです。
逆に固定資産税を支払わずに放置をつづけると、財産を差し押さえられることになるため、注意しましょう。
ポイント②償却資産の申告漏れに注意。悪質ならペナルティも
[caption id="attachment_43973" align="aligncenter" width="600"] おさえておきたい償却資産の対象[/caption]
土地・建物など外観からも存在が明らかなものについては、市町村からすると固定資産として認識しやすいですが、判断が難しいものがあります。それは工場で使う設備や事務所で使う応接セットなど事業所自体の判断で購入した資産です。そこで事業者は、機械設備や工具、備品、車両といった償却資産の保有状況を市町村に報告することが求められます。ここで注意したいのが申告漏れです。価格が10万円未満、償却年数が1年未満のものは対象外となりますが、意外と「こんなものまで固定資産税の対象になるのか」と驚いてしまうようなものもあるので気をつけたいものです。
たとえば、農業をしている方であれば、建物や土地だけでなく、ビニールハウスや発電施設、農機具、事業のために舗装した路面なども対象となることがあります。また事務所であれば応接セットなどオフィス家具、自転車置き場、テナント所有者であれば、テナントで施工した内装も含まれます。
これら申告も市町村に行い、土地や建物に係る固定資産税とは別に納税することになります。これについても支払いを放置すると財産差し押さえの対象になり、無申告であれば加算税という罰金も科されるため、忘れずに手続きを行っておきましょう。
おわりに
これは固定資産に限ったことではありませんが、経営者は納税の時期や金額を把握し、対応できるような資金繰りをしておくことが求められます。不明な点が出てきた時には、市町村や税理士など専門家に相談しながら、より健全な経営を心がけていきたいものです。
専門家プロフィール
島村 修平
公認会計士。税理士。2007年有限責任監査法人トーマツ入社、2012年デロイトトーマツ税理士法人転籍。その後、中小税理士法人の役員を経て2019年7月に島村修平会計事務所を大阪に設立。「会いたくなる、会計事務所」をキャッチコピーに上場企業からスタートアップまでの税務顧問を中心に活動。2018年4月より関西大学商学部非常勤講師。2020年2月度NewsPicksマンスリープロピッカー。
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