本連載の前回(「経営者は「売上原価」を正しく理解する」)では、「営業利益」の計算方法などについて解説し、税務調査のチェック項目について紹介しました。
適正な「営業利益」を把握するためには、「営業利益=売上高-売上原価-販売管理費」という計算方法を用いますから、正確な売上原価の計算が必要です。売上原価の計算方法は「売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高」になります。この計算において、最も重要なのが期末商品棚卸高の把握です。そこで今回は、この期末商品棚卸高に関する評価方法や税務調査におけるポイントについて解説します。
棚卸しの重要性と評価方法のポイント
期末商品棚卸高は、会社では決算期末、個人事業では12月31日における在庫の総額となります。この際の「棚卸し」は非常に手間のかかる作業ですが、複数の目的を持つ重要な作業です。主な目的として次の3つが挙げられます。
(1)純利益がいくらなのかを計算するデータとして確認する
(2)帳簿上の在庫と実際の在庫に差がないかを確認する
(3)適切な数の在庫がキープできているかを確認する
棚卸しは業種によっては決算期のみでなく、毎月行う場合もあります。棚卸商品は、法人税や所得税の計算上は“在庫”として翌期に繰り越して、翌期以降の売り上げになります。
しかし消費税の仕入税額控除は、棚卸商品はあくまで商品を仕入れた時点であり、当期の売り上げに係る消費税から控除します。そのため、仕入れた時点で既に消費税の認識がなされていますが、「期末商品棚卸高」および翌期の「期首商品棚卸高」の勘定科目は消費税の対象外(不課税)となるので注意が必要です。
実際に棚卸しを行って在庫を確認した後、それを評価して「棚卸高」を計算しなければなりません。棚卸商品の評価方法は「原価法」と「低価法」があります。このうち原価法には、①個別法 ②先入先出法 ③総平均法 ④移動平均法 ⑤売価還元法 ⑥最終仕入原価法があります。これらの評価方法から自身で管理しやすい方法を選択できます。
税務署に「棚卸資産の評価方法の届出」を提出しない場合には、必ず原価法の「最終仕入原価法」で評価します。これを法定評価方法といいますので、覚えておきましょう。
棚卸しの対象と税務調査におけるポイント…
棚卸しの対象は、商品や製品だけではありません。原材料・未使用の消耗品・貯蔵品なども対象となります。ただし、事務用消耗品・包装材料・見本品その他経常的に消費し、毎年おおむね一定量を取得するものであれば、購入時に費用処理しても問題ないとの規定があります。それを考慮して事業の実態に応じて棚卸しを行わなければなりません。
最後に税務調査におけるポイントを解説します。本来、期末棚卸高が多くなればなるほどその決算期の営業利益は増加します。ですから、期末商品棚卸高の計算を誤って低く計算したり、期末棚卸高を計上しなかったりした場合、営業利益は本来の額よりも少なくなってしまいます。
税務署は課税額に影響を及ぼす営業利益が適正に算出されているかをシビアにチェックします。適正な棚卸額が申告されているのかを確認し、税務調査の際には期末棚卸額は適正かを入念に調査するのです。
税務調査において調査担当者がチェックしているポイントは以下のとおりです。
(1)期末棚卸しに計上しなければならない各経費項目の金額は確実に計上されているか
(2)棚卸しの評価方法は適切か、評価額の計算を誤って低く計算していないか
(3)棚卸しの計算をしなければならない商品などの対象科目について適正に計上されているか
経営者は期末棚卸しの重要性を十分理解し、上記のチェックポイントを念頭に置いて適正な棚卸しを実施し、期末棚卸高の計算についても十分注意して確定申告する必要があります。なお、棚卸しを実施した際の棚卸表は、確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存が義務付けられていますから、決算書類などと同様に確実に保管しておきましょう。
執筆=笹崎浩孝
税理士・一般社団法人租税調査研究会主任研究員
国税局課税一部資料調査課主査、国税局個人課税課課長補佐、国税局査察部統括査察官、国税局調査部統括国税調査官をはじめ、複数の税務署長を経て、2021年7月退職。同年8月税理士登録。
編集協力=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。
税務・会計・税理士をテーマに雑誌の作成やニュースサイトなど運営を手がける株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役。元税金の専門紙および税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとしても活動。
一般社団法人租税調査研究会(ホームページ https://zeimusoudan.biz/)
専門性の高い税務知識と経験をかねそなえた国税出身の税理士が研究員・主任研究員となり、会員の会計事務所向けに税務判断および適切納税を実現するアドバイス、サポートを手がける。決して反国税という立ち位置ではなく、適正納税を実現していくために活動を展開。