企業経営を継続するにあたり、資金の確保は重要な課題です。事業者の資金確保面を支える国の制度の1つに、補助金があります。企業や個人事業主が補助金を得るためにはどうすればよいのでしょうか。本記事では補助金の基本的な仕組みや助成金との違い、支給までの流れ、メリットおよび注意点などを説明します。
補助金は、国や地方自治体などが管轄し、政策目的に沿った事業を行う企業に対して資金を補助するために交付されるお金のことです。補助金の財源はすべて税金であり、融資のように担保や保証人を求められることはなく、原則として返済義務もありません。
一口に補助金といっても、交付対象となるのは研究開発、新規事業向けの設備投資、IT導入、事業継承などさまざまです。この点については、公募内容をきちんと読み込み、自社の取り組み内容と合致するか確認する必要があります。
国や地方自治体が企業や個人事業主に対して交付するお金には、補助金の他に助成金もあります。助成金は原則として返済不要で、事業実施後に支払われるなど両者には共通点があります。
補助金と助成金の大きな違いは、助成金が定められた要件を満たせば受給できる可能性が高い一方、補助金は審査を通過しないと受給できない点です。補助金は採択件数や予算の総額があらかじめ決まっているためであり、多くの企業や個人事業主が申請すれば、倍率も上がります。
図:補助金と助成金の違い
| 補助金 | 助成金 |
主な管轄 | 主に経済産業省、地方自治体 | 主に厚生労働省 |
目的 | 新規事業や産業振興など | 雇用促進や労働環境の改善など |
受給条件 | 要件を満たしても審査に通過しないと受給できない | 要件を満たしていれば受給できる可能性が高い |
支払時期 | 後払い | 後払い |
中小企業や個人事業主が申請しやすい補助金
さまざまな補助金がある中で、中小企業や個人事業主が申請しやすいものとして下記の3つがあります。いずれも経済産業省が中小企業・個人事業主の生産性を高めるために創設した「生産性革命推進事業」に含まれています。
・ものづくり補助金
・IT導入補助金
・持続化補助金
ものづくり補助金
正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」で、製造業や卸売業、小売業、サービス業、農林水産業などの幅広い業種で活用できる補助金です。中小企業や個人事業主が、働き方改革やインボイス導入など各種取り組みに必要なサービス開発や生産プロセスの改善などを行うための設備投資を支援するものです。
IT導入補助金
中小企業・個人事業主などが、自社の課題やニーズに合ったITツールの導入を支援するための補助金です。ITツールとは、ソフトウェア製品やクラウドサービスなどが該当します。導入にあたってのサポート費用や設定費用も補助の対象です。なお、導入するITツールは、IT導入支援事業者によって登録されたものであることが条件になります。
持続化補助金
持続化補助金は、中小企業や個人事業主の販路開拓や業務効率化などの取り組みを支援する補助金です。持続化補助金の申請に伴う経営計画書や補助事業計画書の作成にあたっては、商工会・商工会議所のサポートを受けることができます。申請類型には通常枠、賃金引上げ枠、卒業枠、後継者支援枠、創業枠、インボイス枠があり、補助上限は通常枠が50万円、インボイス枠が100万円、その他が200万円です。
補助金交付までの流れ
補助金の募集期間は、一般的に数週間程度です。補助金は、大まかに「申請→審査→採択→事業の実施→補助金の交付」という流れになっており、申請から採択までは1カ月から半年程度になります。
申請
公募要領・申請書を確認のうえ、補助金を申請するために必要書類一式を事務局に提出します。代表的な書類は、応募申請書、事業計画書、経費明細書、事業要請書です。提出方法は補助金によって異なり、電子申請や書面による郵送があります。なお、同じ補助金でも都市によって必要条件が異なる場合もあるので注意が必要です。
審査
国から委託を受けた税理士や中小企業診断士などが審査を行います。基本的に提出した書類を審査し、場合によっては面接審査が行われる場合もあります。なお、審査の進捗状況については、基本的に問い合わせはできません。
採択
採択されると事業者へ事務局から採択通知が郵送されます。採択後は、補助金を受け取るための手続きが必要です。採択後は交付申請書を提出し、その内容が認められたら交付決定となります。
事業の実施
採択された申請内容の事業を実施します。補助金は後払いとなるため、事業にかかった経費の領収書などは保管しておきましょう。なお、事業内容を途中で変更せざるを得ない場合は、事前に所定の手続きが必要となります。
補助金の交付
事業が完了したら、実績報告書や請求書などを提出します。提出した実績報告書が認められたら補助金額が確定し、補助金が交付されます。なお、補助金の対象となる領収書や証拠書類は、補助事業の終了後も保管しておく必要があります。また、定期的な事業の状況報告などが求められることもあります。
補助金のメリット
メリット1:返済不要のため費用負担を軽減できる
補助金のもっとも大きなメリットは、返済しなくてもよいことです。設備や新製品開発などへの投資は、企業の成長に欠かせないものの、資金面の負担が大きいと踏み出せないことがあります。補助金が活用できれば、返済を考慮する必要なく資金を工面できるため、より積極的に投資できるようになります。
メリット2:事業計画を見直しできる
中小企業や個人事業主によっては、事業計画を長期間更新していない可能性が考えられます。補助金の申請には事業計画書などの書類を提出しなければなりません。事業計画書の作成時には自社の現状や課題、市場分析、今後の事業の見通しなどをきめ細かく見直し、明確にします。この作業が事業計画を見直す契機となるうえ、従業員や取引先へ自社の今後の展開を伝えるときにも役立ちます。
メリット3:信用度が上がる
補助金を交付されたということは、国や地方自治体から実施した事業が認められたということになります。そのため、取り組んだ新規事業や商品開発内容とともに、補助金が交付されたことをPRすれば、企業としての信用度がアップし、事業価値の向上も期待できます。
補助金の注意点
注意点1:つなぎ資金が必要
補助金は申請書が採択されたらすぐに交付されるわけではありません。補助金は後払いが原則なので、事業に必要な経費は先に自社で全額負担をしなければならず、事業を完了させるまでのつなぎ資金が必要になります。
注意点2:審査は確実に通過するわけではない
補助金は、国や地方自治体で予算が組まれているため総額が決められています。そのため、申請しても確実に補助金を得られるとは限りません。審査に通過するためには、他社との違いや事業などの将来性をアピールすることが必要です。
注意点3:補助金の数が多い
補助金は、細かいものを含めると数千種類もの数があります。補助金を利用したいけれど、自社の課題解決に該当する補助金がわからなかったり、申請方法に悩んだりすることも少なくありません。入念な下調べが必要なことはもちろん、補助金について熟知したコンサルタントなどの力を借りることも1つの方法です。
まとめ
補助金は研究開発、新規事業向けの設備投資、IT導入、事業継承などさまざまな領域で大きく役立ちます。その一方で、補助金の種類は多岐にわたり、かつ申請がすべて採択されるわけではないなど煩雑に思うこともあるでしょう。補助金についてきちんと理解し、必要であれば専門家の力を借りるなど、前向きに検討することをおすすめします。
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