いま話題のトレンドワードをご紹介する本企画。第8回のテーマは「ムリ・ムラ・ムダ」です。言葉の意味、そしてその背景や関連する出来事を解説していきます。みなさまのご理解の一助となれば幸いです。
「ムリ」
企業のキャパシティーに見合わない概念や生産量、スケジュール、無理な納期、価格、品質などで、現場に負荷を掛けたり能力以上の要求をしたために、かえって作業効率を落とすこと。負担をかけすぎて本来のパフォーマンスが発揮されない状態。
「ムラ」
仕事の品質が一定でない状態のこと。生産数や品質が一定に保たれず、その場しのぎの生産になったり、仕事配分が偏ってしまったりすることで一部の部署や従業員、機械・設備などに負担が来て疲弊してしまう状態。例えば、ピーク時に人員を合わせると暇なときに人員が余る、暇なときに人員を合わせるとピーク時に対応できないなど、自社のキャパシティーと仕事量のバランスがとれず「ムラ」ができてしまう状態など。
「ムダ」
「付加価値を高めない現象や結果」と定義され、必要以上の生産や、余計な動作や作業、および生産性を悪くする事柄全般のこと。ムダをなくすには、どんな動きがムダになっているのかをまずは探し出すのが第一歩となるとされる。
企業の抱える大きな課題の1つが業務効率化です。業務効率化は生産性を高めるだけでなく、労力や時間削減、品質向上、コスト削減、従業員のモチベーションのアップ、業務拡大や新規ビジネスへの注力などの利点があります。ムリ・ムラ・ムダを徹底的になくすことで、業務改善を果たしたのがトヨタと先ほど述べました。このいわゆる「トヨタ生産方式」の柱となるのが、「自働化」「ジャストインタイム」「7つのムダ」「カイゼン」です。これらを簡単にみていきましょう。
トヨタ生産方式はよい製品をタイムリーに顧客に届けようとする考え方で、長い年月にわたり試行錯誤を重ねて確立、日本国内や自動車産業にとどまることなく世界中に広まり、それぞれの企業で進化を続けています。
自働化
機械に異常が生じたら自動で止まるようにすることで、不良品発生を防止するほか、人が機械の見張りをする必要がなくなり、生産性の向上を図れる。トヨタの創始者・豊田佐吉は、はたを織る母を見て、もっと楽に織ることができないかと織機の研究を始め、片手で操作できる織機、さらには糸が切れると自動で止まる織機を発明する。単なる効率化だけではなく「誰かの仕事を楽にしたい」という思いが、「ニンベンのついた自働化」の原点となっている。
ジャストインタイム
一般的な生産方式は、大量生産によりコストを削減、在庫を持つことで販売機会に対応する。この運用方式は、顧客からの要望にスムーズに応えられる一方、過剰在庫を抱えやすく、生産と管理のムダが発生しやすい。一方、「ジャストインタイム」方式は、顧客の要望や需要など、必要性から導き出した生産計画を立てることで、必要な分を必要なタイミングで生産、適正な価格の製品をタイムリーに顧客に届ける。これにより在庫は最小限ですみ、生産と管理のムダが発生しにくい。
7つのムダ
7つのムダが存在すると、生産効率が低下し、コストが増加する。
・つくりすぎのムダ
必要以上に製品や部品を生産することで発生する。需要を見込んで大量に生産した商品が売れ残ってしまう場合など。このムダは管理コストやリスクの増大を招く。
・手待ちのムダ
作業者がやるべき仕事がなく遊んでいる状態で生じるムダ。前工程の遅延や原材料の配送遅延、機械の故障などで発生する。生産効率の低下や人間関係の悪化などを招く。
・運搬のムダ
製品や部品が工場内で不必要に移動されるムダ。倉庫から生産ラインへの運搬距離が長い、作業場のレイアウトが非効率など、時間と労力の増大を招く。
・加工のムダ
必要のない加工を行うことで生じるムダ。製品の見た目をよくするための装飾や不要に精密度の高い加工が、客にとって価値が低い場合など。
・在庫のムダ
原材料、部品、製品などが過剰にストックされることで発生する。安全在庫を過大に設定してしまい、多くの製品が倉庫で眠っている状態など。
・動作のムダ
製造の進捗に関係しないすべての動作。欠かせない動作であっても、製品がすみやかに完成に近づかなければムダに分類される。工具が遠い場所にあり作業者の移動距離が長い、作業を進めるために何度も工具を持ち替える、など。時間と労力の増大を招く。
・不良・手直しのムダ
製品の品質が低い、バラつきがあるなどで、修理や作り直しが発生するムダ。手間以外にも運搬コストや信用の低下などを招く。
カイゼン
経営側から指示を受けて行う改善活動ではなく、現場の社員たちが意見を出し合いながら、自分たちの力でよりよくなるように変えていく改善活動。
・ステップ1:現状把握
社員がチームをつくり、現状を把握するところから始める。社内で問題となっている課題を洗い出し、全員で明確化する。
・ステップ2:アイデア出し
現状を把握したら解決する課題を決定、アイデアを出し合う。課題に潜むムダをすべて洗い出し、何をどのように省くかを検討する。
・ステップ3:カイゼン案の実践
実践によりどれだけ改善されたのかを把握するため、実施前後の状態を数値化する。
・ステップ4:カイゼン案の実践結果に基づくカイゼン案の評価・修正
予想通りの効果が得られたかどうかを評価し、効果が出なかった場合は原因を究明してカイゼン案を修正、うまくいった場合も他にできることはないか検討し、バージョンアップを重ねる。
企業に与えるインパクトは?
トヨタの生産方式を採用する企業も多く存在しますが、業種や形態など環境によって、必ずしもすべての企業に適用できるわけではないのはもちろんです。ここで大切なことは、ムダをなくすシステムづくりと、創意工夫で「人」によりよい環境を追求する姿勢です。ここからは、一般的な「ムリ・ムラ・ムダ」の改善方法をみていきましょう。先述の「4つの柱」も参考にするとよいでしょう。
①ムリ・ムラ・ムダのピックアップ
ムリ・ムラ・ムダをなくすには、何がその要因かを把握することが第一歩。効率が悪いと感じる点や、不便と思う点、ミスが起きやすい点、仕事量や品質のムラが生まれがちな点など、皆で話し合うことでムリ・ムラ・ムダを見つけ出す。
②原因分析:ムリ・ムラ・ムダを整理、原因や要因を分析
ピックアップした項目を、業務の内容や手順別に箇条書きや図で整理する。その際、皆がすべての業務に詳しいとは限らないため、第三者の目から見ても業務や非効率な部分がわかる程度に平易にまとめると検討しやすい。まとめたリストや図を参照しつつ、発生原因や要因を分析していく。ムリ・ムラ・ムダ項目には互いに関連したり、同じような要因で発生したりする場合も。リストや図に相関関係を書き込んでいくのも有効。
③改善策の検討:分析に基づいて改善策を検討
原因を洗い出した項目について、改善策を検討する。同時に重要・早急と思えるものから優先順位を付けていく。改善プランは、改善の4原則「ECRS(=排除できないか?→結合できないか?→交換できないか?→簡素化できないか?という発想)」を頭において考え、「5W2H(=誰が、いつ、どこで、何を、なぜ、どのように、どれぐらい)」というように具体的に設定する。
④実施と評価:各種の改善策を実施、効果を定量的および定性的な観点から評価
立案した目標やプランを実行する。ここでは「プランに従って着実に遂行する」だけでなく「試行」という意味合いも頭に置く。ポイントは、具体的な活動内容を数値として記録すること。目標に対しての進捗度や結果、かかった時間、工程などを記録し、さらなる業務改善に生かしていく。実行した結果により、ムリ・ムラ・ムダが減らせたか、問題を解決できたか確認する。うまくいかなかった場合やさらなるムダやトラブルが生じた場合は、原因を分析把握し、さらに改善を重ねる。この流れをムリ・ムラ・ムダがすべてなくなるまで繰り返す。
これから予測される課題は?
流れるようにスムーズに必要とされるものが顧客に届いて満足され、会社は利益が上がり、社員が効率よく力を合わせ笑顔で働けて、一人ひとりのアイデアを生かして発展していくことは、誰しも気持ちよく感じます。
ただ、現実の業務の中では、必要な情報が行き渡らないことで多くのムリ・ムラ・ムダが発生します。これらは、業務手順を明確化したマニュアルやビデオを作成、作成したマニュアルやビデオ、皆で使う資料を共有する、チャットツールで効率よくタイムリーにコミュニケーションをとれるシステムを常備する、などで改善でき、効率よく情報共有できる他、共通意識を持つ、モチベーションを上げる、などの効果も望めます。
また、社内研修やセミナーの実施などで社員間のノウハウ底上げを図ることや、予定・工数管理ツールで仕事配分の偏りや案件の進捗などを把握するなど、情報共有ツールにより大きくムリ・ムラ・ムダが改善できる場合があります。予定・工数管理ツールでは、AIを取り入れたツールも有効ですし、業務をRPA、CRM、SFAツールなどで自動化・省力化する、委託できる業務はアウトソーシングに委託するなども有効な手段です。最近では、企画・設計の段階から実施までを委託できる「BPOサービス」も注目されています。その他にも、「ムリ・ムラ・ムダ」に重きを置いた業務効率化ソリューションも存在するので、ベンダーに相談してみるのも手です。
企業の業務効率化は、企業の業績アップや生産性向上だけではなく、社員の残業や休日出勤、ストレスを減らすことができ、人間関係やモチベーションもアップ、さらなる改善や発展につながるアイデアを生み出す余裕にもつながります。小さなムリ・ムラ・ムダも見逃すことなくピックアップして解決することで、よりよい環境の構築ができるでしょう。
※掲載している情報は、記事執筆時点のものです