デジタル技術を活用して企業を変革するDX。先行する企業の中にはすでに成果を上げる例も見受けられる。一方、DXを推進する専任の情報システム部門もなく、そもそもどのように取り組んでいいのか分からないという中堅・中小企業も少なくないだろう。DXというと敷居が高そうだが、日々の業務をデジタルで効率化することもDXの第一歩になる。
管理部門(人事、総務、経理)の主な着眼点
業務効率化といっても、どこから始めればいいのか分からないという会社もあるだろう。比較的手を付けやすいのが定型的な業務が多い人事、総務、経理などの管理部門だ。かつてはパッケージシステムをオンプレミスで導入・運用するケースもあったが、近年は月額課金のサブスクリプション型で手軽にスモールスタートできる多種多様なクラウドサービスが提供され、導入しやすい環境が整っている。
昔も今も、企業の重要な経営資源となるのがヒト、モノ、カネだ。まず、人にかかわる人事部門の業務から見てみよう。人事部門では、経営方針・経営戦略に基づく人材計画の立案、定期・中途の採用活動、入社・退社手続き、教育・研修、異動、評価、能力開発、勤怠管理、社会保険などの労務管理といった多様な業務を担う。
人材不足が深刻化する今日、優秀な人材の採用・定着や、目標達成に向けてそれぞれの能力、パフォーマンスを最大限に引き出す取り組みも重要な役割となる。社員の能力やモチベーションを引き出し、主体的に行動できるようにする手段の1つとなるのがパフォーマンス管理だ。上司と部下が目標達成に向けて定期的に面談を行う1on1などを通じ、上司は部下が抱える問題・悩みなどの解消をサポートする。面談の支援や人事評価などが行えるパフォーマンス管理システムも提供され、社員の成長を促すとともに人事評価などにかかわる公平性の確保と業務の効率化も可能だ。
また、給与計算や勤怠管理、社会保険、年末調整といった労務管理も人事部門の大切な仕事になる。人事データと連携して給与計算や給与明細の自動作成が可能なサービスや、社会保険や雇用保険などの手続きをWebで行い、入力作業を効率化するクラウドサービスもある。Web申請で集められた人事データを活用して人材採用や配置計画などに役立てるといった使い方も可能だ。
総務部門の主導でクラウドストレージを活用するという選択肢も…
円滑な企業活動に欠かせないのが総務部門だ。オフィス機器・設備、備品などの調達や、防犯・防災設備、水道・電気、電話設備などの管理の他、専任の情報システム部門がない場合、総務部門がIT担当を兼務する企業も少なくない。
総務は自らの業務の効率化というよりも、「縁の下の力持ち」的な存在として社内の各部門がスムーズに仕事が行えるように支援することも重要な仕事になる。例えば文書管理。各部門内だけでなく、全社で共有すべき通達や連絡事項などもある。文書は社内のファイルサーバーに保存する企業も多いが、社内だけでなく、社外からセキュアに文書を閲覧したり、取引先とメールでは困難な大容量ファイルをやり取りしたりするニーズもある。
文書ファイルの保管や社内外のやり取りに適したクラウドストレージサービスもある。IT担当を兼務する総務部がリードしてクラウドストレージの導入を進めるなど、全社の業務効率化に貢献できる。
営業部門では、CRMなどの活用が効果を発揮
営業活動や顧客対応を効率化する方法として、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)などがある。SFAは営業担当者に属人化しがちな顧客・取引先の情報や商談内容、商談の進捗状況などをシステム的に把握し、営業部門の業務を効率化する。
CRMは顧客情報や購買・販売履歴などの情報をシステム上に集約。例えば、顧客の購買履歴を参照し、類似する新たな商品を提案するなど継続的なアプローチにより、売り上げ拡大や顧客満足の向上が期待できる。CRMもさまざまなクラウドサービスが提供され、顧客情報管理にかかわる業務の効率化や、商品開発など他部門との顧客情報の共有が可能だ。
インボイスや電帳法で複雑になる会計業務
インボイス制度や改正電子帳簿保存法が始まり、会計の業務も複雑化している。例えば総務が備品を購入した場合、販売会社から請求書を受け取り、経理に代金の支払いを依頼する。経理部門は請求書の内容を確認後、支払い手続きと会計処理の作業が必要だ。インボイス制度ではさらに発行事業者の登録番号や税率ごとに区分した消費税額、適用税率などの確認などの作業が加わる。複雑なデータ入力作業を効率化するOCR(光学文字認識)とAIを組み合わせ、読み取り精度を高めたクラウドサービスもある。
また、経理部門は社員の出張旅費など手間のかかる精算業務がある。電子帳簿保存法では一定の要件を満たせばスキャニングによる保存が可能になり、社員はスマホなどで撮影した領収書を経理へメールなどで送り、仕分けや集計など経理の業務を効率化できる。集計したデータを元に決算書類を作成できるクラウド型の会計システムなども提供されている。
経費の精算や会計処理のために出社せざるを得ない時代もあったが、多種多様なクラウドサービスが提供され、テレワークなどの多様な働き方とともに管理部門の業務効率化を可能にしている。