新しい人材が欲しいのはどこの企業・団体も同じだろう。少子高齢化が進み、若手社会人に相当する人口が減っていく中で、事業継続を確実なものにするためには人材が不可欠。人手不足を嘆いている余裕はない。そうなると、就職活動の早期化で希望する人材の採用を確保することが1つのカギを握る。
経団連が定めていた就活ルールが2021年に廃止された。これによって採用活動解禁の時期に変化が生じ、この中で就活ルールは経団連から政府に引き継がれていった。2025年卒業の学生に対しては、広報活動開始が「卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降」、採用選考活動開始が「卒業・修了年度の6月1日以降、内定日は「同年度の10月1日以降」というルールが適用されることになる。ただ、人材を求める企業の選考早期化は進み、最近では就職1年前となる前年度の3月時点で大学生の3割が内定を得ているともいわれる。
企業や団体が若手の人材を求める売り手市場が続く現在、就活の早期化は加速していくだろう。その上、早期からインターンシップを実施したり選考を始めたりすれば、希望するような学生が採用できるかは未知数だ。採用を確保するためには、企業などが、学生に選ばれるような魅力的な存在であることが求められる。
学生に選ばれるような魅力的な企業とは、どのような企業だろうか。「知名度」「やりがい」「将来性」など、思い浮かぶ言葉はいくつもある。しかし、現在の学生の思いは少し異なるようだ。ある調査によれば、企業に魅力を感じる点としては、「社内の雰囲気」「成長できる環境」「給与、待遇」といった言葉が並ぶ。企業としてのビジネスの側面よりも、働き手としての自分と会社の関係により重きを置いている印象を受ける。そうした思いのある学生に対して、仕事の魅力や価値をとうとうと語っても、振り向いてもらうことは難しいかもしれない。
まず、社内の雰囲気について考えてみよう。最近、仕事環境について「心理的安全性」が求められることが多くなっている。これは、自分の意見や気持ちを表現しても拒絶されたり、罰したりされないと感じる状態のこと。意見や気持ちを言葉にしたことで、頭ごなしに怒られたり否定されたりしないことで、働きやすく生産性の高い職場を実現できるという考え方だ。例えば、上下関係を問わずに日常からコミュニケーションの質が高く、お互いに承認や感謝の気持ちを伝え合える職場ならば、心理的安全性は高まる。
成長できる環境を提供できることも、学生にアピールできるポイントだ。スキルの獲得やキャリア形成をどのように提供できるか、副業や兼業、社外活動などへの理解を示せるかなど、視点は幅広くある。そうした環境の提供をトップが明言していても、現場では目の前の仕事に追われて成長など望めないという事態は避けなければならない。
給与や待遇については、高いに越したことはない。昨今の物価高騰や海外との格差などから賃上げの圧力も企業にかかってきている。効率的で生産性の高い仕事を突き詰めることで、収益を高めて賃金上昇を実現できる企業であり続ける必要がありそうだ。
魅力ある求人募集を実現するために企業が取り組むべきポイントは
魅力的な環境は、必ずしも若い世代にだけ響くポイントではない。やりがいを求める世代にも同様に響くし、転職を阻止して企業の将来性を高めるためのツールにもなり得る。まずは、魅力的な企業であろうとすることを、企業が内外に向けて発信し続けることが必要だろう。トップのメッセージから日々のコミュニケーションの端々にわたるまで、心理的安全性を持ちながら成長できる環境を提供することをアピールしていくことが求められる。
社内の働きやすい雰囲気や成長への支援は、人事制度や研修制度を見直すことで改革を促すことができる。制度面の取り組みに加えて、ICT環境を整備することで魅力的な企業への変化を促すことも期待できる。
また社内の風通しを良くするには、コミュニケーションの品質を高めることが不可欠だ。コロナ禍より前のようにオフィスに出社することが前提だった働き方から、在宅勤務などを含めた多様な働き方へと変化する中で、「隣の人、近くの上司に相談する」といった当たり前のコミュニケーションすら取りにくくなっている。そうした中で、電話とメールしかコミュニケーション手段がないと、意思の疎通や相談などがスムーズにできない。チャットツールやオンライン会議などを活用して場所を問わずにコミュニケーションを取れるようにすることや、社員がアバターとなって参加する仮想オフィスなどの活用も検討したい。
各種のコミュニケーション基盤を整えた上で、業務効率の良い職場のICT環境整備も重要な視点だ。社内外のどこからでも同じ資料をすぐに参照し、決裁などもペーパーレスで行えるようになれば、それだけでも業務ははかどる。クラウドストレージなどを利用することで、安心して場所を問わずに業務を遂行できるようになるため、ICT環境の整備は、働きやすい雰囲気や成長できる環境を生み出し、魅力的な企業として学生に選ばれるような好循環をもたらすだろう。