第1回は、上司の指示を待ってから行動する「残念な社員」を変えるための土台となる考え方について紹介します。著者の東川広伸氏は、中小企業など300社以上の経営相談に乗ってきた経営コンサルタントです。9000人以上の社員を育てきた経験を基に、2015年に「残念な社員が一流に変わる秘密のルーティン」を出版。人を育てるために必要なものは「基本的にノートと社長や上司と部下による対話だけ」という東川氏が仕掛けるルーティン(習慣化)とは?
「東川さん、どうすれば自分で考えて動く社員が育ちますか」。
私はこれまで経営コンサルタントとして、中堅・中小企業の社長から経営相談を直接受けてきました。ほとんどの社長に共通するのが、こうした人材育成に関する悩みです。
「社員が育たない症候群」。この症状が最近、深刻になっているように感じます。若者の数が減っているので、小さな会社は人を採用するだけでも一苦労。やっと獲得できても、なぜか上からの指示を待つばかりで自発的に仕事をしてくれない人に育っている(実は育てている)。熱心に教えたつもりでも、あっさり辞めてしまう。この「負のスパイラル」にはまってしまい、なかなか抜け出せないのです。
でも、大丈夫です。それを解決する方法があります。しかも、今すぐ始められます。それは「社長自身が社員の成長を心の底から願う」ことです。
「社長が心の底から願えば社員は育つ」というロジック…
少し考えてみれば、簡単なカラクリだと思いませんか。面と向かって口に出すかどうかはともかく、社長が心の中で「こいつはダメだなあ。仕事ができないやつだ」と社員にレッテルを貼った瞬間に、その社員は成長しなくなります。だって成長の可能性を社長に信じてもらえないわけですから。そんな社長の本音を社員は態度からすぐ感じ取ります。「俺(私)は期待されていないんだ」と敏感に見抜きます。ガッカリして辞めていくか、辞めないまでも最低限の仕事にしか取り組まなくなります。
つまり、社員が成長しない原因は社長自身にあるのです。今、自分に尋ねてみてください。「社員の成長を心から願っているだろうか」と。この問いかけに「はい」と即答できれば、時間はかかっても間違いなく残念な社員を社内から〝撲滅〞できます。
「はい」と答えられたとして、それが本当かどうか別の角度からも検証してみましょう。社員が従来できなかった仕事に挑戦したものの、最終的に失敗した場合を想像してみてください。もしイライラするようなら、社員に結果を求めているだけにすぎません。
反対にチャレンジしたことをうれしく思うなら、社員の成長を願っている証拠です。
社長として、会社の売り上げや利益を増やすことを追求し続けるのは当然です。ただし、「売り上げや利益を増やすことができる人材」「新しい顧客を開拓できる人材」「既存商品でシェアを拡大できる人材」「部下、後輩を育成できる人材」などへと社員に成長してもらいたい。すなわち、社員に対する「成長期待」を心から持ち、その「想い」(以下、想い)が伝わるコミュニケーションを取り続けていることが前提です。
それがなければ、社員に成果ばかりを期待しているように映り、売り上げや利益の目標は社員にとって単なるノルマとしか捉えられません。社長が成果ばかりを期待していると社員が感じれば、やらされ感につながり、できない理由を考えたり、できることを、できるときに、できる範囲でしかやらなかったりするようになります。
社長の意識改革で社員が変わった
実際にあったケースで説明しましょう。「商品の陳列が雑だ。整えて!」「接客が丁寧じゃない。もっと深々と頭を下げろ!」。ある小売店チェーンで業績を伸ばそうと、社員に事細かに指示していた社長がいました。その後、社員は商品をきちんと陳列し、深々とお客に頭を下げるようになります。しかし、しばらくすると元に戻っていました。
「人が育たないんです」。この社長から相談を受けたとき、私はすぐに例の質問をしました。「あなたは社員の成長を心の底から願っていますか」と。この問いに社長は、ハッとしたようでした。自分の至らなさに気付いたんですね。それ以来、社員への接し方が明らかに変わりました。社員が新しい仕事に成功すると、自分のことのように喜ぶようになったのです。最初は社長の豹変(ひょうへん)ぶりに驚いていた社員も、次第に本当に喜んでいると分かり、社長の期待に応えようとワクワクして働くようになりました。
自分で動く社員が育たないと嘆く前に、その原因は社長自身にあるかもしれないと疑うことから始めてください。
<CHECK POINT>
●「社員の成長を心の底から願っている」と迷いなく言える
●社員が新しい仕事にチャレンジして失敗しても、挑戦したこと自体をうれしく思う
●仕事ができない社員に対して、残念な社員というレッテルを絶対に貼らない