企業にはさまざまなステージがある。成長ステージとしてよく言われるのが、「創業期」「成長期」「安定・拡大期」「衰退・再成長期」といった4段階だ。スタートアップだけでなく老舗企業であっても、継続するビジネスの中でこれらのステージのどこかに位置する。安定・拡大期には気づかないで当たり前に行っていたことが、衰退・再成長期になるとビジネスの阻害要因になったり、その課題解決が次のステップへのヒントになったりすることもある。ステージによって、さまざまな要因が絡み合ってビジネスは成長したり衰退したりするわけだ。
企業の開業・移転には多くの課題、これを業務改革の好機と捉える新発想
そうした要因の1つにITやデジタルの活用がある。若い人たちによるスタートアップならば、現代の先端のITやデジタルを使いこなすことが当たり前で、クラウドサービスやインターネット、スマートフォンやパソコンを駆使して場所を問わずにビジネスを推進しているだろう。しかし、安定してビジネスを続けてきた歴史を持つ企業では、過去のパソコンやインターネットの利用で歩みが止まっているかもしれない。最近のシステムだと思っていたら、10年、20年が経過していることもあるだろう。そんな中で、開業や移転といった転機が訪れることもある。
ビジネスの見直しで拠点を移転することもあれば、事業環境の変化に伴って新しく開業するケースもある。そうした物理的な変化には、物品整理やネット環境の構築、システムの選定など、多くの作業が伴う。これを苦労と考えるか、業務の見直しとDX化のチャンスと捉えるかは、経営者次第だ。
DXにはネットワークや電話の最適化、セキュリティ対策など多様な切り口がある…
物理環境の変化に伴う業務改革、DX化の取り組みには、さまざまな切り口がある。「これまで使ってきた」ことだけを理由に、旧態依然としたネットワークや電話環境、セキュリティ対策を継続してしまっては、変革のチャンスを逃がすことになる。
例えばネットワークだ。現在では、動画利用やオンライン会議の日常化に伴い、知らず知らずのうちにネットワークに負荷をかけていることがあるので、開業や移転のタイミングで高速なネットワークサービスへの移行を考えたい。また、ビジネスコミュニケーションの基本と考えられてきた電話も検討の余地がある。「小規模の事業所で、移転後も従来通りビジネスフォンを入れておけば安心」というのは、時代の変化に取り残される可能性が高い考えだ。最新のビジネスフォンでは、働き方の変化に伴う多様な機能が備わっている。
例えば、オフィスの固定電話だけでなく、スマートフォンも内線、外線の発着信に利用できる機能を使えば、「電話がかかってくるからオフィスに電話番が必要」といった働き方から、外出を含めたよりアクティブな業務へとシフトが可能になる。社外でスマートフォンからの発信も会社の電話番号を表示でき、個人の電話番号のプライバシーが保護される上に、業務上の通話料は会社負担にできる。
その他にも、開業や移転を機に、社内にあったHDDやファイルサーバーなどを、クラウドストレージに移行することも検討したい。社内のハードウエアを物理的に管理するのは限界があるが、クラウドストレージならば利用者の管理を正しく行えば高いセキュリティを保てる。さらに、災害時などの事業継続性を考えたときも、オフィス内のHDDやサーバーが被災するリスクに比べ、クラウドのデータセンターで守られたデータは安全性が高い。
データ共有方法の改善、文書管理のペーパーレス化なども
クラウドストレージは、データの保管という意味合いだけでなく、データ共有のプラットフォームとしても有効に活用できる。大容量のデータの共有には、USBメモリーを使う職場がいまだに少なくない。パスワード付きZIPファイルに圧縮してメールに添付し、パスワードを別メールで送るといういわゆる「PPAP」も、セキュリティリスクから利用が非推奨とされるが、現在も利用するケースがある。
しかし、クラウドストレージにデータを保管して、そのデータを社内や取引先などと共有する手法を使えば、USBメモリーの紛失やPPAPによる流出といったセキュリティの課題から開放されるだろう。アクセス制御がきめ細やかにでき、閲覧状況などのログ管理が可能であるため、格段に高いセキュリティレベルが確保できるためだ。
請求書や注文書など、多くの書類が「紙」でやり取りされている職場でも、開業や移転をきっかけにペーパーレス化に取り組みたい。「注文書がFAXで送られてくるから、ペーパーレスは無理」と決めつけてはいけない。FAXを受信する複合機を最近の製品に入れ替えることで、受信したFAXを自動的にPDFなどのファイルにしてデータ活用できるようになる。さらにAIを活用したOCRサービスなどと組み合わせれば、紙で届いたFAXが画像データからテキストデータに変換されて、多くのシステムで利用可能になる。
開業や移転という物入りで手間がかかるタイミングは、どうしてもビジネスのスタートや継続に重きを置きがちだ。それでも、その機会をチャンスと捉えてDX化の一歩を進めることで、新たな「成長期」「安定期」に向けたビジネス構築を可能にしていってほしい。
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