「フリーランス」と「個人事業主」という言葉を同じような意味だと思っている人も少なくありません。実はそれぞれ定義が異なるので注意が必要です。
フリーランスは、会社や組織に所属せずに仕事するという「働き方」を表す呼称です。一方で個人事業主は「税法上の区分」を指します。管轄の税務署に開業届を提出すると個人事業主になります。フリーランスとは「働き方」の定義であり、個人事業主は国の制度に準拠した呼び方です。
従ってフリーランスも税務署に開業届を出せば個人事業主です。「個人事業主」になれば、1人で事業を行っていても家族や従業員などと複数人で事業を行っていても、それが法人でなければ個人事業主です。ここがフリーランスと違います。
個人事業主に登録しても、スキルを活用して1人で仕事をしていればフリーランスと言えます。国が公表している「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(2024年10月18日改定)では、フリーランスを「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」としています。
一方、2024年11月施行の「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」では、「業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用していない個人、または、代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しない法人」とフリーランスを定義しています。フリーランスの定義は、働き方の状況に応じて変わるのです。
税務署に開業届を提出して個人事業主になった後に、収入が増えて従業員を抱えるようになると法人化(法人成り)する人も少なくありません。最近は、消費税の「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」が始まり、インボイス発行事業者になるのを契機に、法人化する人も多いようです。個人事業主が年の途中でその事業を法人化する場合、注意すべきいくつかの事項について解説します。
法人成りした際の申告上の注意点…
個人事業主の場合、たとえ年(1~12月)の途中で事業を廃止しても、所得税はその時点ではなく翌年3月15日、消費税は3月31日までに申告します。
また、法人成りをして個人事業を廃業した事業主は、個人事業を行っていた際に一定の所得税を納税していれば、「予定納税」が必要です。法人成りして個人事業を廃業したにもかかわらず予定納税の要件を満たしてしまうと、税務署から納付の案内が届くので注意しましょう。
納税の仕方は、7月と11月に前年の3分の1ずつ前払いし、翌年の確定申告で精算します。そのまま予定納税しても還付で戻ってくるため、多く納税しても「納め損」にはなりません。
消費税についても、中間消費税額を試算して、その額が前年の消費税額の半分以下であれば、消費税の中間申告書を提出すると中間納付額を減額できます。8月31日までに1月~6月の中間申告書を提出しましょう。
通常の年なら、所得税の確定申告をすれば改めて事業税の申告書を提出する必要はありません。しかし個人事業を廃止した年度に限り、廃止後1カ月以内に所得税の申告とは別に、事業税の申告をしなければなりません。ただし、事業所得の金額が290万円を月で割った金額より少なければ、申告や納税は不要です。
事業廃止年分の確定申告では、事業所得を計算する上で注意すべき点がいくつかあります。そのうちの一つが必要経費です。事業廃止後に発生する「当該事業に係る費用又は損失」として、下記のような経費などが対象になります。
・事業を廃業するために発生した切手代などの経費
・廃業に伴う手続きなどを専門家に依頼した場合の費用
・商品在庫の値引き販売や処分に伴う損失
こうした事業に係る費用や損失であれば、廃業後の経費として処理できます。事業を継続していれば必要経費として計上した費用は、廃業後でも必要経費として計上可能です。必要経費として計上できるかどうかは、国税庁ホームページ「確定申告書等作成コーナーよくある質問」の「やさしい必要経費の知識」を参考に検討してください。
検討の結果、所得税法63条により事業廃止後に生じた必要経費を事業廃止年分で計上する場合、法律上は債務確定後に更正の請求手続きをとります。この場合の手続きの期限は、「債務が生じた日の翌日から2カ月以内」という短い期間なので、分かる範囲で事業廃止年分での必要経費として計上します。
執筆=一般社団法人租税調査研究会(ホームページ https://zeimusoudan.biz/)
専門性の高い税務知識と経験をかねそなえた国税出身の税理士が研究員・主任研究員となり、会員の会計事務所向けに税務判断および適切納税を実現するアドバイス、サポートを手がける。決して反国税という立ち位置ではなく、適正納税を実現していくために活動を展開。
編集=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長
税務・会計・税理士をテーマに雑誌の作成やニュースサイトなど運営を手がける株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役。元税金の専門紙および税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとしても活動。