変形労働時間制は、あくまでも社員に効率よく働いてもらうための制度であって、会社が人件費を抑えるための制度ではありません。これを勘違いしてしまうと、せっかくの変形労働時間制が、長時間労働の温床になってしまうことになります。
不当な長時間労働は、労働者の心身の健康を奪うばかりでなく、これが露呈したときは、会社の社会的信用まで地に落ちてしまいますから、変形労働時間制はしっかりと法律にのっとって行わなければなりません。今回は、変形労働時間制の中の1年単位の変形労働時間制と1週間単位の非定型的変形労働時間制に関する法令と書類について説明します。
1年単位の変形労働時間制
エアコンを作る工場は、夏が来る前、特に春先が忙しく、それ以外は、割合業務量に余裕があるのではないでしょうか。また、百貨店などは、お中元やお歳暮の時期が特に多忙だと思います。
このように1年を通して、繁閑の差が激しい業務に適しているのが、1年単位の変形労働時間制です。1年単位の変形労働時間制を採用することによって、特定された週において40時間を超えて、特定された日において8時間を超えて労働させることができます。1年単位の変形労働時間制については、労働基準法第32条の4に規定されています(図表1)。
1年単位の変形労働時間制の採用要件…
1年単位の変形労働時間制を採用するには、労使協定に図表2の事項を規定し、所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません(図表3)。
■図表3 1年単位の変形労働時間制に関する労使協定(ダウンロード )
対象期間が1カ月以上である場合
対象期間が1カ月以上である場合は、次の事項を定めなければなりません。
1. 最初の期間については、労働日および労働日ごとの労働時間
2. 最初の期間を除く期間については、各期間の労働日数および総労働時間
この場合、最初の期間を除く各期間の初日の少なくとも30日前に、事業場の過半数労働組合、過半数労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表する者の同意を得て、書面により各期間における労働日および労働日ごとの労働時間を定める必要があります(図表4)。
■図表4 対象期間が1カ月以上である1年単位の変形労働時間制に関する労使協定(ダウンロード )
1週間単位の非定型的変形労働時間制
旅館のように週末に業務が集中するような業務に適しているのが1週間単位の非定型的変形労働時間制です(図表5)。
これを採用することにより、1日10時間まで労働させることが可能となります。ただし、採用できるのは、常時30人未満の社員を使用する小売業、旅館、料理店、飲食店の事業のみとされています。
1週間単位の非定型的変形労働時間制の採用要件
1週間単位の非定型的変形労働時間制を採用するときは、労使協定を締結し所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません(図表6)。また、労働させる1週間の各日の労働時間を、少なくとも1週間の開始前に、社員に書面で通知する必要があります。
■図表6 1週間単位の非定型的変形労働時間制に関する協定届(ダウンロード )