近頃のビジネス情報やニュースを読もうとして、「生成AI」という言葉を見かけないことはまずない。「生成AI」という言葉でなくとも、「ChatGPT」「Copilot」「Gemini」などのテキスト生成AI、「Midjourney」「Stable Diffusion」などの画像生成AIの名前があったりする。その他にも、音楽や動画などさまざまなコンテンツを生成するAIもあり、さまざまな名称が目に入る。
これら生成AIは、生活や仕事でも身近に使われるようになってきた。あるニュースサイトでは「AIで要約」ボタンでニュースの要約ができる。筆者はWeb検索代わりに生成AI「Gemini」や「ChatGPT」を利用することも多くなった。例えば、「失敗しないハンバーグの作り方は?」などは、Web検索ならいくつもの結果を参照して自分で答えを導き出す必要があるが、生成AIに投げれば総合的な答えが“一発”で得られるからだ。
ビジネスシーンでも生成AIが使われることが多くなっている。サポートへのチャット連絡で最初に概要などを伝える相手は「AIオペレーター」という場合が多く、AIで解決できないときに、人間の担当者が出てくるシステムも多い。そういえば、最近行った総合病院では「AI電話で予約(初診・再診)・変更・キャンセルの受付が始まります」というポスターが貼ってあった。
身近になりつつある生成AI。現在は、これらを活用したビジネスモデルも増えている。今回は、代表的ないくつかを紹介するので、自社の業務への導入の参考にしてもらいたい。
総務省から出された2024年版「情報通信白書」(69ページ)によれば、生成AIの活用方針が定まっているかとの質問では、日本で「活用する方針を定めている」(「積極的に活用する方針である」、「活用する領域を限定して利用する方針である」の合計)と回答した割合は42.7%となり、8割以上が「活用する方針を定めている」と回答した米国、ドイツ、中国と比較すると半数程度に低い、という結果になった。
業務ごとの活用状況では、「メールや議事録、資料作成等の補助」に生成AIを使用していると回答した割合は、日本で46.8%と約半数にのぼったものの、90%以上と答えた他国と比較すると割合は低い。この数字から、海外ではほぼ全企業で積極的な利活用が始まっていると想定されるが、日本では社内向けの業務から慎重に導入が進められている印象だ。
「生成AI活用による効果と影響」では、日本では「業務効率化や人員不足の解消につながると思う」(「そう思う」と「どちらかというとそう思う」の合計)と約75%が回答しているが、「社内情報の漏えいなどのセキュリティリスクが拡大すると思う」「著作権等の権利を侵害する可能性があると思う」と回答した企業が約7割にのぼり、生成AIのリスクを懸念している様子がうかがえる。
社内のマニュアルや規約の参照、社内システムに関する問い合わせ対応などの「社内向けヘルプデスク機能」については、生成AIを活用している(トライアル中も含む)日本の企業は65.4%。ただしこれも90%台の3国に比べると、それほど高くはない。また、カスタマーサポートなどの「顧客対応の自動化」に生成AIを活用している割合は日本の企業は53.1%(トライアル中も含む)と、他の3国に比べ、ほぼ半分となる。「事業や商品の企画におけるアイデア出しシミュレーション」「広報コンテンツの作成」「自社製品やサービスとして組み込み」などの結果も同様の低い数字となった。
このように、比較対象の3国と比べ、日本の企業は生成AIの活用にかなり慎重な姿勢がみられるが、情報通信白書にもあるように、生成AIの活用は「業務効率化や人員不足の解消につながる」「ビジネスの拡大や新たな顧客の獲得につながる」「新たなアイデア/新たなイノベーションがうまれる」というメリットが想定される。今後のためにも、自社で採用できるビジネスモデルを探っていこう。
生成AIを活用したビジネスモデルの例
「ビジネスモデル」とは、企業の価値を高めたり事業で利益を生み出したりするための「しくみ」をさすことが多い。この前提で、生成AIを使ったビジネスモデルの代表的な例をいくつか紹介していこう。
・社内データ活用サービス
社内のドキュメントを登録するだけで、自社独自の生成AI環境を構築できるサービス。社内規定について知りたい、顧客に提案する商材を探したいなど幅広いシーンで活躍する。社内情報の共有で、ヘルプや社内Wikiなども作成でき、業務の属人化防止にもつながる。情報共有により、ワークシェアリング、育児介護と仕事の両立、フレックスタイムなどで、働きやすい環境の実現、優秀な人材の確保、などにもつながっていく。基本的にメッセージアプリなどと同様の使い方で質問事項(プロンプト)を入力すると、生成AIが登録した情報から該当部分を探して回答を生成して教えてくれる。ただしAIは、間違った答えを生成する特性もあるので、サービスには、「ハルシネーション」(事実に基づかない情報の生成)を防ぐしくみも重要だ。参照リンクなど根拠となる情報を示す機能も信頼性の高い回答の生成を実現するための重要な1つと思う。
・生成AIを活用した高度な商品検索、複数商品の提案機能
従来のECサイトやECアプリでは、特定のキーワードでの検索、ジャンルやランキングなどから探すのみで、しかも1つ1つ探さなければならない。アメリカの総合スーパーのアプリは「初めて庭でバーベキューをしたいんだけど、道具は何をそろえたらいい?」「バーベキューに必要な材料は?」など、リアル店舗の買い物で店員さんにきくように、ストーリーを入れることにより複数の商品を提案する機能を備えたという。実際にアプリを見ていないので、これは私見だが、願わくば「〇〇をしたい」「〇〇を作りたい」などですべての材料が提案され、しかも複数の候補(予算、クオリティーの違いなどでの)から選べて、しかもすぐカートに入れられ会計ができて、翌日には送られてくる、などの迅速さがあるとよい。さらにはあらかじめ予算を提示するとその範囲内ですべてを選んでくれる、などができたらなかなか助かる。
・生成AIによる効果的な紹介文の提案
あるフリマアプリでは、これから出品する商品または出品済みの商品に対し、生成AIが効果的な説明文を提案する機能の提供が始まっている。出品する商品は、商品名とカテゴリーを設定するだけで、「AIからの提案」などのボタンをタップすると、紹介文が生成される。出品済み商品は、それまで提供している情報を参照しつつ、さらに売れやすい文章をAIが生成、ボタン1つで説明に追記できる。ただし「AIが提案する文章には誤りがある可能性があるので、必ず内容を確認・修正する必要がある」とただし書きがある。
使ってみたところ、事実にない勝手な文章を生成する場合も多いが、事実に基づき修正を加えれば、ゼロから作成するよりはずっと時短になる。フリマにかかわらず、クラウドファンディング、マッチングサービスなど、アピール目的の文章をユーザーが入力する必要のあるサービスは数多く存在する。そうしたサービスに生成AIが効果的に使えれば、タイパ面でもなかなか良いのでは、と思う。
・店舗での販売・カウンセリング時における生成AIを使ったアドバイス
化粧品販売など、対面販売やカウンセリング販売を行う店舗において、顧客の好みや願望を実現すべく、店舗に備えたパソコンやタブレットなどに生成AIを活用した専用のアドバイスアプリを入れ、氏名、年齢などの必要事項や好み、予算、「娘の結婚式に出るための化粧を教えて」「肌を明るく見せたい」「細面に見せたい」などのストーリーを入力、さらには肌質、水分など測定したデータなどをAIが総合してアドバイスするシステムにより、顧客それぞれの個性やシチュエーションに合った商品や美容法を提案できる。こうした「AIアドバイザー」システムは、カウンセリングを行う販売、カスタマイズサービス、注文販売など、多くの業務で利用できる。「業務の属人化防止」「広い人材の活用」などにも効果的だろう。生成AIを利用したサービスを導入することで、顧客にとって自分専用にパーソナライズされたサービスをさらに充実させることができ、満足度もリピート率もアップする可能性がある。
・対話型音声AIによる電話応答サービス
チャットや音声による受付やサポート業務は生成AIの得意分野でもある。先述のごとく、日本の企業での導入率は諸外国に比べると、低い数字となる。今回紹介するのは、対話型音声AIによる電話応答サービスだ。日本では予約や問い合わせは、今でも音声電話で行うことが多い。このサービスは、企業にとって身近なツールである「電話」に着目し、AIを活用した電話自動応答サービスを提供することで、業務効率化と生産性向上を支援する目的で提供されている。
導入しやすい低価格な料金体系をとり、企業規模や地域にかかわらず、あらゆる企業がAIの利活用を推進できるよう設計、幅広い業界で人材不足の解消、顧客満足度向上、そしてビジネスの成長に貢献している。このサービスの導入で、電話応答を有人対応で行った場合にかかる250万時間超が削減されたという。先述の総合病院のAI電話による受付は、このサービスを利用している。最近の流れでは「テキストや音声で人間と対話ができる」というのが、生成AIの「売り」でもある。受付業務やサポート業務を生成AI利用のサービスで行えば、かなりの業務効率化、コスト削減につながるだろう。
今後どうなる? 傾向と対策
ほぼ毎回のように述べていることではあるが、生成AIを利用する際の注意点をおさらいしておこう。生成AIはそのブームのきっかけであるChatGPTの誕生からまだ2年余りで発展途上なこと、技術は日進月歩で日々変化を遂げている、ということをよく頭に入れよう。常に最新の情報や状況を把握し、対応するのが賢い。
生成AIを利用することによる主なリスクは大きく分けて3つあるが、生成AIサービスを提供する場合や一般的に社会での悪用や危険のリスクなど、他にも多くのリスクが存在するのは言うまでもない。
1.入力した情報が漏えいする「情報漏えい」リスク
生成AIを利用する際、入力する内容に個人や企業の情報など他に知られたくない情報が含まれることがあり、これらの情報をAIの学習や他者の利用に使われるなどで、情報が漏れる可能性がある。それに加え、顧客の利便性のためにログを残すサービスもあり、外部からの攻撃でログの内容が漏れる可能性もある。このリスクは、入力データを「学習をしない」「特定のデータを二次利用しない」「ログを保存しない」など対策済みのシステムを用いることで避けられる。業務においては専用のシステムを用い、一般的な生成AIは使用しない、利用する場合も社内情報は入力しない、などのルールを作ることも重要だ。
2.間違った情報を利用することによるリスク
生成AIがしばしば間違った情報を生成するのは、誰しも知る事実だ。学習期間による知識不足などで、すべての情報に対応できないこともある。このリスクに関しては、出力内容が正しいかどうか自身で確認する以外にないが、すべての結果を検証するのは難しい。業務においては、必ず情報元を確認するなど、正しく使うためのリテラシー教育も必要だろう。
3.生成AIの生成物の利用により、他者の権利を侵害・公序良俗に反するリスク
たとえ「1.」「2.」において十分な理解と行動を行ったうえでも、生成AIサービスで出力された文書や画像などが、既存のものと似通う、類似するなどで他者の権利を侵害する可能性、倫理的に偏った情報の出力などで、他人のプライバシーや尊厳を傷つける可能性も忘れてはならない。これらのリスクに関しては、生成AIの生成物が他者に被害を与える可能性を常に意識し、類似するものがないか、倫理的に問題がないか、常に調査を行い、利用は慎重に利用する必要がある。
生成AIを含むAIの利活用に当たっては、4月に公開された「AI事業者ガイドライン」に従う必要がある。これは経済産業省と総務省が、生成AIの普及を始めとする近年の技術の急激な変化に対応すべく、有識者等と議論を重ね、関連する既存のガイドラインを統合・アップデートし、取りまとめたもの。
生成AIの導入は、今回のビジネスモデルなどを参考に、情報システム担当者や最寄りのベンダーなどと相談しつつ進めていこう。生成AIの業務への導入事例やソリューションもうなぎ登りに増えつつあり、自社に合ったものを探して検討・導入するとよい。前述のごとく生成AIの動向は常に大きな変化を遂げている。常に最新の情報と状況をとらえ、前向きに取り入れていこう。
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