8月14日、国民的アイドルグループのSMAPが2016年12月31日をもって解散することが発表されました。ニュースはテレビやラジオ、インターネットなどで即座に伝えられ、日本のみならず世界中に衝撃が走りました。
1988年に誕生したSMAPは、歌手としてのグループ活動のほか、メンバーそれぞれがバラエティー番組やドラマなどで活躍し、アイドルという枠を超えた国民的存在となっていました。今年1月に解散、独立騒動があり、メンバーそろっての謝罪も行われましたが、結局、それぞれの道を歩むという決断に至ったようです。
芸能界に限らず、グループやペアが解散・解消するというのはよくある話です。それが新たな飛躍につながることも珍しくありません。ビジネスの世界でも、企業が成長する中で、創業メンバーがいつしか退社していき、設立当初とは経営陣がまったく変わっているというケースがあります。
人の考え方はさまざまです。当初は同じ志を抱いていても、時間がたてば変わることもあります。これは今も昔も変わりません。中国古典でも、意志統一の難しさは指摘されています。例えば、中国戦国時代の法家である韓非が残した『韓非子』にはこんなエピソードが描かれています。
衛人に夫妻禱る者あり。
而して祝して曰く、われをして故なく百束の布を得しめよ。
その夫曰く、なんぞ少なきや。
対えて曰く、これより益さば、子まさにもって妾を買わんとせん。
(『韓非子』)
(訳)衛(えい)の夫婦が神様にお祈りした。
妻は「どうか平穏無事でありますよう、そして百束の布をお恵みください」と祈った。
夫が「どうしてそんなに少ないのか」と問うと、「これより多いと、あなたが愛人を囲ってしまうから」と妻が答えた。
お金があり過ぎると、あなたが浮気をしてしまうーー。男の浮気癖を皮肉ったジョークのような話です。しかし、『韓非子』は、法による支配こそが一番重要とする真面目な本です。ですからこの逸話は、夫婦という親密なペアでさえも、立場によってめざすものは異なるのだから気を付けるべきという示唆に受け取るべきではないでしょうか。
ペア、グループなど人は集まることによって、より力をつけ、大きなことが成し遂げられるようになります。しかし、集まる人数が増えていくに従って、意見や意志を統一するのは困難になっていきます。これが国ともなるともっと大変です。だからこそ、韓非は国を運営するために法による支配が重要としているのです。
このように考えの違いや意見の対立が当然ある中で、どのように身を処していくべきなのか。同じく中国戦国時代の、思想家、孟子は次のような言葉を残しています。
自ら反みて縮くんば、千万人と雖も吾往かん。(『孟子』)
(訳)自ら心を振り返って、それでも自分が正しいと思ったなら、たとえ相手が千人万人であっても立ち向かうことである。
他人に何を言われても自身の信じる道を行くのが大切ということです。SMAP解散はメンバーそれぞれが考えに考え抜いた結果でしょう。当然、5人にも周囲からの助言や進言はあったはずです。それを参考にしたかどうかは分かりませんが、決断は非常に重いものです。
一方、中国南宋時代にまとめられた儒教の入門書である『小学』には、こんな言葉もあります。
終身路を譲るも、百歩を枉(ま)げず。(『小学』)
(訳)生涯、他人に道を譲り続けたとしても、それは百歩に満たない。
一生、他の人に道を譲り続けても、大して動いたことにはならない。つまり、他人のことを優先して一歩引いても、長い目で見れば大した損にはならないといった意味です。自分の考えを一切曲げず、突き進むことが、成功を導くこともありますが、他人の意見を聞き入れ、時には譲ることがメリットを生むこともあります。社会人になりたてのビジネスパーソンに、会社生活での処世訓として教えられることが多い名言ですが、人生の岐路に立ったときなどに頭の片隅にでも思い浮かべてください。