賞与を従業員のモチベーションアップにつなげたいと考える経営者も多いでしょうが、従業員は賞与を当然のように受け取りがちです。頑張って支給した賞与にモチベーションアップの効果がいまいち感じられないようでは、経営者にとってはつらいところです。夏の賞与の支給を終えたばかりかもしれませんが、今から、次の賞与を効果的に活用する方法を考えてみましょう。
内訳を見ると、従業員50人以上の中小企業のボーナス支給率は89.3%に達するものの、20人未満の中小企業は53.7%と、規模が小さくなるほど低くなっています。平均支給額は26万2570円と、経団連が発表した「2018年夏季賞与・一時金 大手企業業種別妥結状況」にある平均妥結額96万7386円と差が大きく開いています。
これらの実態から、中小企業にとって賞与の支給は相当な負担であることが分かります。しかし慢性的な人手不足が問題視される中、優秀な人材確保のためには賞与の支給を簡単に止めるわけにはいきません。賞与を生活資金や住宅ローンの支払いのために使っている従業員も少なくないので、大胆な改革に踏み切るのは難しいことも事実です。
ただ、経営者としてはせっかく賞与を支給するなら、従業員に「うれしい」「もっと仕事に精を出そう」というモチベーションアップにつなげてほしいものです。
賞与に関して雇用契約書で、夏・冬2回などの支給時期や、給与の○カ月分と水準を定めている企業もあります。そのような契約項目がなくても、何年間も同じような水準で支給していれば、実質的な給与の一部のように捉えられ、賞与支払いの時期や額面などを変更することは容易ではないかもしれません。
ただ、中小企業はそれほど従業員が多くないという利点を生かして、きちんと話し合えば柔軟に改革を進められる可能性もあります。
例えば、資金繰りなどの面でより無理のない時期に、支給時期を徐々に移行することなどが考えられます。具体的には、従業員が大きなプロジェクトを無事に終え、その案件の売掛金が入金された直後などです。自分たちが頑張った結果として賞与が支給されたことが明確になるので、モチベーションアップにつながることが期待できます。また、入金後ならば資金繰りにもあまり無理がかからないでしょう。賞与支給月が赤字に転落してしまう事態にも陥りにくくなります。
あらかじめ納付時期の定まっている法人税、消費税、労働保険料などの納付時期を考慮して賞与の支給時期を決めるという手もあります。支給後に発生する賞与分の源泉所得税や社会保険料については、各種税金の納付時期と重ならないので、資金残高を平準化できるメリットがあるでしょう。
また、これまで定例時期に支給していた賞与の負担を軽減しつつ、「決算賞与」を取り入れて支給回数を増やす方法も考えられます。決算賞与は利益を還元する目的で決算時に臨時支給するものですが、要件を満たせば決算賞与の支給前、つまり未払いでも損金算入ができるため、節税効果があります。ただし法人税法では、未払い計上の要件として使用人賞与の損金算入時期について定めており、その要件のすべてを満たす必要があるため、事前の要件確認・準備が必要です。
決算賞与でなくとも、別のタイミングで社員への感謝の意味を込めた金一封や大入り袋などの形で一律支給する方法もあります。大手家電メーカーのシャープが、国内の構造改革に一定のめどがついたタイミング(2017年12月)で、グループ会社を含めた約1万9000人に一律30000円(現金20000円とクーポン券10000円)の金一封を支給した話は記憶に新しいと思います。
従業員側からすれば、サプライズ要素が強く特別感が増し、喜びは大きいはずです。従来の賞与は銀行口座に振り込み、金一封・大入り袋は手渡しにすれば、特別感も大きくなるでしょう。
ただし、支給額や支給対象は税金面などを念頭に置いて慎重に検討する必要があります。給与として処理されるケースもあるので、源泉徴収や社会保険料を含めて総合的に考えないと、従業員の手取りが減少する可能性もあるからです。ただしこうした手間をかけても、社員のモチベーションアップを考えれば、金一封・大入り袋という方法は考える価値があるでしょう。
賞与を支払わないという決断も時には必要
中小企業を取り巻く経営環境は不安定要素が多く、いつでも賞与を支給できるとは限りません。前述の大阪シティ信用金庫の調査では、4割を超える中小企業が賞与を支給していないという事実もあります。
業績が振るわない時期には、賞与を支給できない可能性について事前の説明を怠らず、従業員に理解を求めるようにしなければなりません。そして、本当に苦しいときには企業の存続を最重要視して、賞与を支給しないという苦しい決断をするのも経営者の役割です。
賞与の支給時期には、経営者は少なからず頭を悩ませると思います。金額、効果、従業員の反応、業績への影響など、多くのことが頭を巡ることでしょう。だからこそ、従業員の生活を考えつつ、支給時期・支給方法・金額などを柔軟に考えてはいかがでしょうか。賞与を受け取ることによって喜びや特別感を受けるようにして、モチベーションアップにつなげる……これが普段の給与とは違った賞与の意味ですから、経営者は頭を絞る価値がありそうです。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2018年7月18日)のものです