2018年12月21日、政府は「平成31年度税制改正の大綱」(税制大綱政府案)を閣議決定しました。大綱には、中堅・中小・小規模事業者の支援として、法人税の軽減税率について特例の適用期限を2年延長することが明示されました。
法人税は納付によってキャッシュフローに影響を与えるため、経営者にとって税率が気になるところです。経営判断に重要な情報の1つであるキャッシュフローの予測は、経営者が企業の利益とともに法人税も把握していないと精度が上がらない場合があります。しかしながら、法人税の算出は税理士任せになっている経営者もいるのが現実のようです。そこで本記事は、経営者が自社の法人税を把握できるように、算出方法や課税の仕組みを解説します。
法人税の課税標準の算出方法
会計と税務は、経営者が経営判断を行うに当たって必要不可欠といえます。ただし、それぞれ目的が違い、計算方法も異なります。
会計の目的は出資者や金融機関など利害関係者への情報開示と、経営意思決定に役立てる業績という情報を経営者が把握することです。その会計で利益として算出されるのが、当期利益です。対して税務の目的は、適正な法人税を算出することです。税務上の利益として算出されるのが所得金額で、法人税の課税標準となります。
会計上の利益は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って、収益(売上)から費用(経費)を差し引いて計算されます。一方、税務上の利益である所得金額は、益金の額から損金の額を控除して計算されます。
収益と益金・費用と損金に処理されるものの大部分は一致しますが、異なるものもあります。異なる理由は、法人税法において課税の公平性の担保や経済政策への配慮などから、会計上は収益・費用となっても、税務上は益金・損金とならないもの(所得金額の計算では、益金不算入・損金不算入扱いとなるもの)が定められているからです。逆に、会計上は収益・費用とならなくても、税務上は益金・損金となるもの(所得金額の計算上、益金算入・損金算入扱いとなるもの)もあります。
例えば、「今期は利益が多く出たから、役員賞与の支給をすれば、節税にできる」と考える経営者もいるでしょう。しかし、役員は経営者として自らの賞与を決定できることから恣意性を排除するため(税務の目的である適正な課税の実現のため)事前に税務署に届け出をしていない役員賞与は、税務上で損金扱いとはなりません。
このような税務的な観点から、会計上の利益と税務上の利益である所得金額の間に差が生まれてくるのです。そのため経営者が会計だけ把握していると、キャッシュフローの予測を見誤る可能性があります。
法人税の課税標準である所得金額を求める次の算式が、税務を理解しキャッシュフローの予測をより正確に行うための1つの手掛かりとなります。
(会計上の利益)+(益金算入額・損金不算入額)-(益金不算入額・損金算入額)=(所得金額)
具体的には、法人税申告書の別表4「所得の金額の計算に関する明細書」がこの役割を担っていますので、一度確認することをお勧めします。自社の益金算入・損金不算入項目(別表4の加算項目で法人税が多くなる)、益金不算入・損金算入項目(別表4の減算項目で法人税が少なくなる)にどのようなものがあるかを知ることは、経営者にとって重要なことです。
法人税の算出方法…
法人税は、課税標準である所得金額に税率を乗じて算出されます。よって、所得金額がマイナスである場合には、法人税を納付する必要はありません。
その税率は資本金等によって変動します。資本金が1億円以上である企業(普通法人の所得に対する税率は23.2%(一般税率)です。しかし資本金などが1億円以下の企業(中小法人)では、所得の800万円以下の部分に対しては、税率が19%(軽減税率)に下がります。
そして、現在は、中小法人の税率19%は特例措置により15%に下げられているのです。それが税制大綱政府案で、特例措置の適用期限を2年間延長することが明示されました。2019年の国会で、大綱の特例措置が可決されれば、適用期限は2021年3月31日まで延長されます。
ただし、資本金等が1億円以下の企業(中小法人)であっても、資本金等が5億円以上の企業の100%出資子会社である場合などは、軽減税率が適用されません。資本金などが1億円以下であるかどうかの判定は、期末時点で行います。
<計算例>
資本金などが1億円以下の企業の所得金額が1000万円だった場合の法人税率は、800万円以下の部分には15%の軽減税率が課され、800万円超の200万円の部分には一般税率の23.2%が課されるので、下記のような計算式になります。
800万円以下の部分は軽減税率
800万円×15%=1,200,000円
800万円超の部分は一般税率
(1000万円 - 800万円)× 23.2%=464,000円
以上より、法人税額は合計1,664,000円です。
法人税に伴い課税される周辺の税の知識
法人税に伴い課される税金として、地方法人税、法人事業税、地方法人特別税、法人住民税(都道府県民税・市町村民税)があります。これらを総称して「法人税等」といいます。法人税等のうち、法人事業税と地方法人特別税は損金となります。
法人税等は、その納付先が国であるもの(国税)と地方自治体であるもの(地方税)に分かれます。国税は、法人税・地方法人税・地方法人特別税です。地方税は、法人事業税・法人住民税となります。
法人税は前述の計算式で算出され、直接国に納付します。国税となる他の法人税は、地方法人税は法人税額に4.4%を乗じて算出され、地方法人特別税は法人事業税額に43.2%を乗じて算出されます。地方法人税・地方法人特別税は国に納付された後、地方自治体に分配されます。
地方税となる法人税等のうち、法人事業税は都道府県に納付し、法人住民税は都道府県と市区町村に納付します。これらの地方税の税率は、法人税以外の国税のように一律ではありません。基本となる標準税率(基本税率)はありますが、各自治体の政策上、制限税率(上限税率)の範囲内で自由に税率を決定できるものとなっています。税率は、各地方自治体のホームページに記載されており、確認できます。
法人事業税は、所得金額に法人事業税率を乗じて算出されます。この事業税率は、資本金等の額・所得金額により異なります。例えば資本金等の額が1億円以下で、軽減税率が適用される法人の場合の標準税率は、次のようになっています。
・400万円以下の所得に対して3.4%
・400万円超800万円以下の所得に対して5.1%
・800万円超の所得に対して6.7%
なお、資本金等が1億円超の法人の場合は、この他に外形標準課税(会社の事業的規模や資本金の規模といった外形的部分に対する課税)が課されます。
法人住民税には、法人税割と均等割があります。法人税割は、法人税額に住民税率を乗じて算出します。均等割は、法人の所得の有無にかかわらず、一律に課されます。都道府県民税は、資本金等の額に応じて税率が定められています。市町村民税は、資本金等の額に加え従業員数も考慮され、これらに応じて税率が定められています。これらの税率は年額とされており、その自治体に事務所等を有していた期間に応じて均等割を納付することになります。
なお、事業年度が1年の法人で、その年度の法人税額が20万円を超える場合には、翌事業年度には、法人税等の前払いである中間納付の義務が発生しますので、キャッシュフローの予測には、これを組み込むことを忘れないでください。
法人税等の算出は、税理士などの専門家に任せる経営者がほとんどです。課税の仕組みや算出方法について、直接に説明を受けることはまずないでしょう。しかし、会計上の利益と税務上の所得金額の違いを把握しておくこと、法人税の課税の仕組みを理解しておくことは大切です。それによって、より精度の高いキャッシュフローの予測や事業計画が策定できるでしょう。
※掲載している情報は、2018年12月27日のものです