国税庁の組織図は、国税庁を頂点に、全国12カ所の国税局(沖縄は国税事務所)の下に524の税務署があります。国税局の中には課税部があり、そこに今回紹介する資料調査課(シリョウチョウサカ)、略して「料調(リョーチョー)」と呼ばれている、任意調査の最強部署があります(下記の赤枠の部分)。
国税の調査部門では「査察」が有名ですが、査察は国税犯則取締法に基づく強制調査で、臨検、捜索、差押えなどの権限があり、悪質な脱税を摘発するという目的があります。リョーチョーは強制調査ではなく任意調査なので、そこが査察とは大きく違います。
東京国税局の組織図(HPより一部抜粋)
国税局課税部は、税務署が管轄する個人・法人に対して、税務署だけでは十分な深度ある調査が実施できない事案について、リョーチョーが単独または税務署職員と合同で調査を実施します。
税務調査は基本的に、調査先に連絡して、調査日や調査対象税目などを告げなくてはいけませんが、リョーチョー調査の大部分は無予告で調査を行い、個人事業主あるいは法人の代表者に対して突然臨場し、多少強引かもしれませんが、了解を得て実地調査を行います。
筆者が経験した某国税局課税第二部資料調査第一課は、リョーチョー職員だけで調査を実施。資料調査第二課は、リョーチョーと署の職員が合同で調査を実施していました(地域班などに分かれ5班体制)。
また、西日本の某国税局では、資料調査第一課と第二課が一体となって単独調査を実施するなど、合同調査を各班で実施していました。つまり、国税局によって、必ずしも取り組み方が同じというわけではないのです。
グループリーダーの実査官には厳しい内規…
リョーチョー部門には、実査官という役職者がいます。民間企業ですとグループリーダー的な位置付けだと思いますが、実査官に登用されると、実査官マニュアルがあり、厳しい内規が記載されています。例えば、スーツやワイシャツの色など。また、かばんは大きく、A4サイズが縦に2列入るかばんを各自が用意するなどしています。
実査官の最も大切な仕事が「調査事案選定」です。自分たちがどこに調査に入るか、選別していくのです。調査事案選定は、部外情報・各種資料・売上規模・広域運営・過去の不正所得などを分析し、各署に主査・実査官が臨署し選定します。
各署から選定した事案を検討し、その中でも真にリョーチョーにふさわしい事案を選び、決算期や代表者の動向などより早期着手する“1・2号事案”を異動前に選定します。
調査着手前は、選定通りの想定なのか、準備調査に時間をかけて行い、着手前の打ち合わせを通じて意思統一を図り、事案の趣旨・位置付け・ポイントなどを担当班から説明し、着手日当日の待ち合わせ場所、時間を確認します。着手日当日は、着手時間の40分前に指定場所に集合し、時間通りに着手します。午前9時に着手する場合が多いです。
着手後は、代表者または役員に調査を行う旨を伝え、了承をとります。ここでスムーズに着手できるか否かは、担当主査、担当実査官の腕次第といっても過言ではありません。
了解後に役員などから各現場への電話連絡を依頼し、協力要請を行い、関与税理士にも架電。着手後30分程で、総括主査といわれる上司に架電します。総括主査は、国税局に待機しています。
リョーチョー調査は単独事案なら2~4カ月
着手した場所の現物確認調査(金庫・机・キャビネットなど)を実施し、必要書類を引き上げ、会議室などで検討します。
事案終結は、合同事案で1~2週間程度、単独事案は2~4カ月程度の時間がかかります。税務署の調査なら2~3日なので、かなりしっかりと調査に入ります。
調査もまとめ段階に差し掛かると、是否認事項を取りまとめ、代表者および関与税理士に一覧表を提示し、修正申告書の慫慂(しょうよう)・加算税・延滞税を説明することになります。同時一斉にポイントとなる人物・場所に着手し、早期に不正所得の全貌を把握する。これが、リョーチョーたる調査になります。
執筆=川口桂司
国税職員時代は資料調査課が長く、退職後は税理士から“ミスター料調”との評判。国税局課税二部資料調査実査官、主査、統括主査、課長補佐。課税一部統括国税実査官、国税局課税二部資料調査一課長、調査部次長、税務署長を複数個所歴任。2022年7月退職。税理士登録。現在、川口桂司税理士事務所所長。一般社団法人租税調査研究会主任研究員。
監修=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会常務理事。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、税務・会計のニュースサイト「KaikeiZine」論説委員兼編集委員。税金の専門紙および税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとしても活動。