前回は、インボイス制度スタートから半年以上経過したものの、懸念事項があるとお話ししました。今回は、免税事業者だった方が適格請求書発行事業者になった場合の負担軽減措置である「2割特例」について、分かりやすく解説します。
まず2割特例の趣旨を説明します。この背景にあるのが、売り手が免税事業者で買い手が本則課税を適用している場合、2026年9月30日までは80%の仕入税額控除が認められる経過措置です。
例えば売り手がサービス業を営む免税事業者であり、買い手が本則課税を適用している事業者で税込み1100円の対価を支払っている場合を考えてみましょう。買い手の仕入税額控除は、2023年9月30日以前は100円でしたが、10月1日以降は80円になりました。
売り手が免税事業者のまま、この「20円を負担(値引き)」させる場合と、売り手が適格請求書発行事業者となり、簡易課税制度を選択して「50円を納税」させる場合を考えると、売り手の負担は免税事業者であり続けた方が軽くなります。いわゆる益税解消に向けて、適格請求書発行事業者になってもらうための優遇措置として、2割特例という激変緩和措置が講じられたのです。
2割特例の計算方法は、簡易課税制度における第二種事業(みなし仕入率80%=付加価値が2割)と同様ですが、簡易課税制度との違いがあります。簡易課税制度は、適用を受けたい課税期間の開始の日の前日までに届出書を提出する必要があり、適用を受けた場合は2年間の継続適用が義務付けられています。
一方、2割特例の適用を受ける場合は事前に届出書を提出する必要がなく、申告書に「○」を付すだけです。2年間の継続適用の縛りもありません。明らかに2割特例の適用を受けた方が有利であれば、本則計算や簡易課税による納付税額の計算を行う必要もありません。適用事業者は「インボイス制度を機に、免税事業者から適格請求書発行事業者となった事業者」ですので、基準期間の課税売上高が1000万円以下の適格請求書発行事業者が対象となります。
消費税の納税額を軽減…
2割特例の適用を受けると、納税額は売り上げにかかる税額の2割となります。適格請求書発行事業者の登録をしたら、「売り上げの10%も納税し、利益がなくなる」と誤解していた事業者の方がおりましたが、負担は税込売上高の10%ではなく、1.8%です。簡易課税制度で卸売業に適用される第一種事業以外の業種の方や大きな設備投資を予定しており還付を受けたい事業者以外であれば、一部、適用されない事業者を除き2割特例を適用した方が有利だと思います。
2割特例の対象期間は「2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する各課税期間」とされています。個人事業者であれば、2026年までの各年の計4回分の申告が対象となり、3月決算法人が2023年10月1日に登録した場合は、2024年3月決算分から2027年3月決算分までの4回の申告が対象となります。
3年間の特例期間の経過後に、うっかり簡易課税制度選択届出書を提出し忘れた者に配慮した措置もとられています。具体的には、2割特例の適用を受けた適格請求書発行事業者が、その適用を受けた課税期間の翌課税期間中に簡易課税の選択届出書を提出した場合は、その提出した日の属する課税期間から簡易課税の適用が受けられるというものです。
例えば、2022年分の課税売上高が1000万円超になると2024年分は課税事業者となるので、3年間の特例期間内でも2割特例の適用ができなくなる課税期間が生じますが、2024年分について簡易課税を適用したい場合は、2024年中に簡易課税の選択届出書を提出すれば適用できるとされています。
今回は、2割特例について説明しました。適用可能な事業者には、納税負担が少なくてとても有利な特例です。確定申告書の作成も非常に簡素化されており、国税庁のホームぺージで作成可能です。ぜひ参考にしていただければと思います。
執筆=名取和彦
税理士 名取和彦税理士事務所所長 (一社)租税調査研究会主任研究員
東京国税局課税第二部統括国税調査官(間接諸税担当)付総括主査、東京国税不服審判所 国税副審判官、税務大学校総合教育部教授、東京国税局総務部税務相談室主任税務相談官、同局成田税務署副署長、仙台国税局築館税務署長、東京国税局大森税務署長等を経て、2021年7月退職。同年8月税理士登録。
監修・編集=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、TAXジャーナリスト、会計事務所ウオッチャーとして活動。元税金専門紙・税理士業界紙の編集長。
*一般社団法人租税調査研究会(https://zeimusoudan.biz/about)
法人税、源泉所得税、所得税、消費税、印紙税、資産税、酒税・揮発油税、関税、国際税務、公益法人、査察、事務訴訟などの各税務分野の国税出身税理士を招集し、会計事務所向けに相談・教育等を手掛ける団体。現在、在籍する研究員・主任研究員は56名。会員会計事務所は約100会計事務所。