日本IBMでシニア・プロジェクト・マネージャーを務めている木部智之氏は、ある日、最大級の大規模システム開発のプロジェクトチームにアサインされた。チームは数百人ものメンバーで構成されており、スケジュールは大幅に遅れていた。木部氏はその遅れを挽回する役目を背負うことになった。
木部氏はスケジュールの遅れを取り戻すために、どうすれば最高の効率で、最速で成果を上げられるかを徹底的に考え、チームを運営した。その結果、チームはスケジュールを取り戻し、プロジェクトも大きな成果を収めた。
だが、木部氏が取った方法は、マジックのような特別な手法ではない。誰にでもできるちょっとしたテクニックをコツコツと積み重ねることで、チームを成功に導いた。
その“ちょっとしたテクニック”とは何か?木部氏が自ら執筆したビジネス書『仕事が速い人は「見えないところ」で何をしているのか?』(KADAKAWA)を元に、そのテクニックの一端を紹介しよう。
コントロールが難しいコミュニケーションの時間を短縮する
木部氏は本書にて、仕事に要する時間を「思考時間」「コミュニケーション時間」「実行時間」の3つに分けている。思考時間とは、仕事をどう進めるか、何をするか考えを巡らせている時間である。コミュニケーション時間とは、誰かと意思疎通を図るために費やす時間である。そして実行時間が、実際に作業を行っている時間である。
これら3つの時間のうち、思考時間と実行時間は、基本的に自分だけで行う作業であるためコントロールしやすい。一方でコミュニケーション時間は、必ず相手を伴う行為のため、他の2つの時間と比べるとコントロールが難しい。
だが木部氏によれば、そのコントロールが難しいコミュニケーション時間でも、スピードアップする方法はあるという。
上司がつかまらないとき、部下に指示を出す際はどうすれば良い?…
例えば、上司とコミュニケーションを取るのは、困難さを感じる業務の1つである。待たされたり、他の仕事を優先されてキャンセルされたりと、多くの労力と時間を要する。
しかし、こうした相手とのコミュニケーションも少しの工夫で改善できる。例を挙げると、あらかじめメールを送り、加えてメモを貼ってメールに返信してほしい旨を残すといった方法や、上司の秘書、あるいは近くの人に席に戻り次第連絡をもらえるように依頼するなどの方法が有効だといえる。さらにいえば、席にいる時間帯、比較的余裕のありそうな時間帯をあらかじめ把握しておき、上司にコンタクトするタイミングに当たりをつけておくのも効果的である。
同じように、部下とのコミュニケーションもまた時間を要する業務である。上司として部下に指示を出す必要があり、また部下の仕事をチェックする義務を伴う。
木部氏の場合、部下が指示を求めてきたときは、必ず「君はどう思う」と問いかけ、部下自身の問題として考えさせている。部下に主体性を持たせない限り、上司のフォローが必要となるため仕事が停滞し、チームとしてのスピードは上がらない。もちろん上司として質問やアドバイスを受ける必要はあるが、あくまでも作業主体が部下自身にあることを意識して接することが重要なのだ。
部下の仕事チェックは、時間がないからといって省いてしまいがちではあるが、部下が方向を見失い、仕事を見当違いの方向に進めてしまったときは、それを挽回するための時間が増えてしまう。そのため、コツコツとチェックすることを部下と約束し、間違っていれば軌道修正できる体制にすることが望ましい。
メンバーが会議の準備を怠ったら中止も検討すべし
会議の場合は、「準備して臨む」「時間を限る」「結論を出す」ことが重要である。特に、アイデアを捻出する必要がある会議の場合、時間などいくらあっても足りない。そんなときは、あらかじめアイデアを考えてきてもらい、基本的にはそれを発表してもらう場だと位置付けて開催することで時間を短縮できる。つまり“徹底して準備する”ように促すのだ。
メンバーが準備をしていなければ、会議を取りやめるくらいの割り切り方が必要である。時間が来たら、決めるべきものは基本的に即決し、どうしても残る課題についても、誰がいつまでに何をするのかを決めて、終了する。これで、会議のスピードは大幅に向上する。
メールのやり取りでは、受信して内容を確認した人は、「承知」「了解」など、短文でも良いのですぐに返信をするよう徹底するのが効果的だという。相手の意志を確認できる上に、対応も速くなるため、一石二鳥である。
地道な工夫の積み重ねが大きな成果を生む
もしかすると、ここまで取り上げたような内容を既に実行している企業もあるかもしれない。しかし一方で、これらすべてを導入しているという企業は少ないだろう。
仕事のスピードを上げるのは、目に見えるような、何か大きな仕組みを取り入れたりすることではない。目には見えない、しかし毎日のように発生してしまっているロスをなくすことにほかならない。地道な工夫が、毎日の効率化につながり、仕事のスピードを劇的に上げていくのである。