中小企業倒産防止共済制度(通称:経営セーフティー共済)をご存じでしょうか。事業を行っていくためには、不測の事態が生じた場合への備えも必要です。経営セーフティー共済は、取引先が倒産したときに連鎖倒産を回避するための備えを支援する制度です。独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う共済制度の1つで、共済金の貸し付けを受けられます。まずはそのポイントを紹介します。
1)加入条件
倒産防止共済制度への加入は、事業を1年以上継続している中小企業者である必要があります。加入条件は、「資本金の額(出資の総額)」「常時使用する従業員数」のいずれかに該当する中小企業者となります。
“中小企業者”には会社だけでなく個人事業主も含まれます。この場合の資本金の額等や常時使用する従業員数については、業種によって具体的な範囲が定められています。例えば、業種が「製造業・建設業・運輸業など」は、資本金の額等は3億円以下、従業員数300人以下です。「卸売業」は、1億円以下、100人以下、「サービス業」は、5000万円以下、100人以下、「小売業」は、5000万円以下、50人以下となっています。
2)共済掛け金の額
掛け金は月額5000円から20万円まで、この範囲内であれば5000円単位で自由に決められ、掛け金額の途中変更も可能です。掛け金の積立総額の上限は800万円です。
3)取引先の倒産後すぐに資金の借り入れができる
取引先が倒産した場合、「回収困難となった売掛金債権等の額」と「納付された掛け金総額の10倍(上限は8000万円)」のいずれか少ない方の額を上限として、無担保・無保証人で貸し付けを受けられます。
4)任意に解約できる
経営セーフティー共済は、契約者の任意でいつでも解約できます。12カ月以上掛け金を納付していれば納付月数に応じて解約手当金を受け取れ、40カ月以上納付していれば掛け金は100%戻ります。ただし、納付月数が40カ月に満たない場合は支払った掛け金総額を下回り元本割れしますし、12カ月未満で解約すると掛け捨てとなり、解約手当金は一切ありませんので注意しましょう。
経営セーフティー共済のメリットとデメリット
…
経営セーフティー共済は不測の事態に備えるためにも有益な制度です。ただ、この共済制度にはメリットとデメリットがあります。それぞれについて解説します。
【メリット1】節税効果がある
毎月支払う掛け金は、法人であれば損金としての算入が認められ、個人事業主も必要経費として計上できます。例えば、掛け金が上限の月額20万円なら年間240万円が損金または必要経費として認められます。1年以内の前納掛け金も払い込んだ期間の損金または必要経費に算入できます。
【メリット2】「一時貸付金」を受けられる
取引先が倒産していなくても、急に資金が必要な場合には「一時貸付金」を利用できます。12カ月以上掛け金を納めていれば貸付利率は0.9%で、解約手当金の95%を上限として無担保・無保証人で借り入れ可能です。
【デメリット】解約手当金への課税
倒産防止共済の掛け金は損金や必要経費として認められますが、契約解約時に受け取る解約手当金は、雑収入として課税の対象となります。したがって、毎月支払う掛け金は経費として節税できますが、解約手当金を受け取る際には税金を納めなければなりません。実質的には税金の納付時期を繰り延べていることになり、解約のタイミングは十分に検討する必要があります。
経営セーフティー共済を利用した過度な節税にメス
最後に、令和6年度税制改正の注意点を解説します。改正の概要ですが、倒産防止共済を解約して解約手当金を受け取った後に、改めて倒産防止共済の契約を締結した場合、その解約の日以降2年を経過する日までの間に支払う掛け金の額は、損金または必要経費にできなくなりました。
改正前は、例えば掛け金上限の800万円を解約手当金として受け取ったその翌月に、新たに倒産防止共済の契約を締結して毎月20万円の掛け金を支払えば、改めて損金または必要経費にできました。このように、以前は契約・解約を繰り返して節税を図ることが可能でしたが、改正後(2024年10月1日以降)は一定期間(2年間)、新たな契約に対して節税できなくなりました。
以上のとおり、倒産防止共済は上手に活用すれば取引先の倒産など将来の不測の事態に備えつつ、毎月の掛け金支払いでは節税を行いながら比較的安全に積み立てできる制度です。また、月額掛け金の変更も可能ですから、資金繰りや利益を考慮した対応ができます。メリットやデメリットを知り、加入の是非や確約のタイミングなどを検討してください。
執筆=笹崎浩孝
税理士・一般社団法人租税調査研究会主任研究員
国税局課税一部資料調査課主査、国税局個人課税課課長補佐、国税局査察部統括査察官、国税局調査部統括国税調査官をはじめ複数の税務署長を経て、2021年7月退職。同年8月税理士登録。
編集協力=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。
株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役。元税金の専門紙および税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとしても活動。
一般社団法人租税調査研究会(ホームページ https://zeimusoudan.biz/)
専門性の高い税務知識と経験をかねそなえた国税出身の税理士が研究員・主任研究員となり、会員の会計事務所向けに税務判断および適切納税を実現するアドバイス、サポートを手がける。決して反国税という立ち位置ではなく、適正納税を実現していくために活動を展開。