国税庁は現在、重点的な取り組みとして「富裕層」「海外取引」「消費税」「無申告」を上げています。ここでは「消費税」にスポットを当てて、調査の実態に迫ってみます。消費税調査に力を入れているとよく分かるのが調査実績(図1)です。
コロナ禍前の2018年度の実地調査件数は9万5000件、非違(誤り)が見つかった件数は5万6000件でした。コロナ禍後の2022年度の実地調査件数6万1000件、非違件数3万5000件、2023年度の実地調査件数5万7000件、非違件数3万4000件と比較すれば多いのですが、追徴税額を見ると、2018年度に800億円だったものが2022年度は1357億円、2023年度は1095億円と増加しています。
さらに調査1件当たりの追徴税額を見ると、2018年度は83万8000件だったものが、2022年度は223万1000円、2023年度も191万5000円といずれも2倍以上に増えています。これは効率良く消費税調査を実施していると分かる数字です。
国税庁では、外国取引における消費税の「不正還付」に関しても厳しく調査しています(図2)。2018年度と比較して2022年度、2023年度は調査件数が減っていますが、追徴税額および1件当たりの追徴税額は3~4倍近く増加しています。不正還付に関しては、非違件数はコロナ禍前とほぼ同じ実績を残しており、的を絞った調査で効果を上げていると分かります。
国税庁は業務のデジタル化を進め、AI導入で事務の効率化を図っていますが、消費税調査はデジタル化と相性が良いといえます。消費税については商品を購入した金額、取引・販売先などの数字を申告によって把握しています。処理の誤りや無申告、仕入れによる不正還付はコンピューターやAIを使って分析するため、人間より早く誤りなどを探し出せるのです。
国税当局が消費税に目を光らせているのは、「消費税は預かり金」との考えから、消費者から預かったお金をきちんと税務署に納めてもらうためです。不正還付調査が厳しいのは、消費税をだまし取ろうとする事業者を決して逃がさないと考えているからといえます。
消費税の還付申告については、金額にもよりますが、一般的には署の還付処理担当者が納税者に対して文書照会などを行っています。初回の還付申告や高額還付申告についてはほぼすべての納税者に対して文書照会を行い、必要に応じて消費税の還付額に対する調査に移行します。
輸出取引が多い場合、照会文書の回答で特に問題がなければ還付処理が行われますが、臨場しなければ解明できない場合は実地調査を行います。還付金は、国税通則法56条1項において『還付金又は国税に係る過誤納金(以下「還付金等」)があるときは、遅滞なく、金銭で還付しなければならない』と規定していますが、調査となると消費税の還付金が調査終了時点まで還付されない場合が少なくありません。
調査が行われていない場合や還付金額が高額な事業者については、個別リストと還付申告書などを基に「審査・照会」に移行します。還付内容に問題がなければ決済を行った後、還付となります。「審査」は納税者に対して「取引等の照会」を個別に行い、その後、納税者から提出された回答書などを基に行われます。「照会」は、照会文書の回答に添付された消費税額の科目別明細、契約書、請求書および輸出申告書などの内容を審査します。問題がなければ決済を行った後、還付となります。
実は“新規還付”や“高額還付申告”の場合は、表面上の検算に問題がなくても速やかに還付処理に回るケースはほとんどありません。
還付保留に関しては、「消費税還付保留チェック表」などに基づき厳しくチェックするとされていますが、内容は明らかにされていません。ちなみに、消費税還付の調査は昔と異なり、税務署の枠を超えた「広域調査」が進んでいます。国税局課税部の消費税担当の統括国税実査官(統括実査官)が消費税の不正還付などの情報収集や調査に係る審理・選定などを手掛け、消費税不正還付調査の司令塔的な役割を担っています。すでに関東信越(関信)、東京、名古屋、大阪、福岡の各国税局に配置され、消費税不正還付の摘発で大きな実績を上げています。
この消費税担当の統括実査官をサポートするのが、国税局の「消費税専門官」です。業務内容は統括実査官とほぼ同じで、直接実地調査などは行いません。直接の調査は税務署の消費税担当が受け持ち、統括実査官と消費税専門官が二人三脚となって現場調査をサポートします。
税務署の「消費税専門官」は消費税調査の専門部隊メンバーで、税務署の管轄を超えて広域調査を実施します。つまり、消費税の不正還付申告の調査体制は、「統括実査官―局・消費税専門官―署・消費税専門官」というラインになります。
消費税率が10%に引き上げられ、現状では国税収入の中で最も金額が大きくなっています。国税当局では、今後もさらに力を入れて厳正な調査を実施していくと推察されます。
執筆=一般社団法人租税調査研究会
法人税、源泉所得税、所得税、消費税、印紙税、資産税、酒税・揮発油税、関税、国際税務、公益法人、査察、事務訴訟などの各税務分野の国税出身税理士を招集し、会計事務所向けに相談・教育等を手掛ける団体。現在、在籍する研究員・主任研究員は55名。会員会計事務所は約100会計事務所。主な著書に『一冊ですべてわかる!暗号資産の税務処理と調査対応のポイント』(第一法規)、『国税OB税理士による 税務調査のすべて』(大蔵財務協会)、『加算税の最新実務と税務調査対応Q&A判決・裁決・事例で解説』(大蔵財務協会)、『税目別ケースで読み解く!国際課税の税務調査対応マニュアル』(ぎょうせい)など多数。
監修・編集=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、TAXジャーナリスト、会計事務所ウオッチャーとして活動。元税金専門紙・税理士業界紙の編集長。