昨年12月はじめ、「世界デジタル政府ランキング、1位は2017年以来のシンガポール、日本は11位」という報道が話題を集めた。2位は英国、3年連続1位のデンマークは3位に下落し、日本は前回と同様の11位だったという。
残念ながら、日本は今回も圏内に戻ることができず、前年と同じ11位にとどまっている。急速な発展と普及が国際社会全体の重要な課題となる生成AIについて世界平和を議論していく「広島AIプロセス」を先立って推し進める立場からも、ゆゆしき結果と感じる。
「世界デジタル政府ランキング」は、早稲田大学総合研究機構 電子政府・自治体研究所が行っており、デジタル先進国66カ国・地域を対象に、国民の生活に不可欠なデジタル政府の進捗度を主要10指標で多角的に評価し、デジタル社会推進へ貢献するもの、という。研究所は国連、世界銀行、アジア太平洋経済協力(APEC)、経済協力開発機構(OECD)、EU、国連大学をはじめ世界の官民関係機関と協力している。
ちなみに「主要10指標」とは「デジタル・インフラ整備」「行財政最適化」「アプリケーション」「ポータルサイト」「CIO(最高情報責任者)」「戦略・振興」「市民参加」「オープン政府データ・DX」「セキュリティ」「先端技術」だ。評価モデルは初代所長が開発、ランキング手法が確立されたという。研究所はデジタル政府の潮流を理解できる十分なビッグデータを有し、調査に10項目に及ぶ指標を活用している点(隔年で行われる国連の同様の調査の指標は4項目)や、19回の分析実績、研究所の持つ総合性や中立性、高度な学術的分析力など世界中から高く評価されているとのことだ。また、近年はDXやAI活用もランキング分析の評価指標に追加し、分析力を向上させている他、デジタル社会の世界的連携と発展に向けてデジタル政府活動の分析や国連本部とSDGsテーマなどへの課題解決フォーラムの共催も行っている。
では、以下で世界的に評価が高い「デジタル政府ランキング」の内容を見ていこう。
日本におけるデジタル技術利活用の重要性をひもとく
今回の調査結果は、日本語の報告書「第19回世界デジタル政府ランキング2024年」を参照するとよい。英語版は300ページに及ぶ膨大なものとなっているが、デジタル政府を分析する際に作成した上位25カ国の国別評価レポートや各国の諸課題を多面的に分析するものとなっている。これらの報告書は早稲田大学の電子政府自治体研究所の「世界デジタル政府ランキング」からダウンロードできる。
「第19回世界デジタル政府ランキング2024年」4ページの表1「第19回早稲田大学世界デジタル政府 総合ランキング2024」には、2024年度のランキング総合順位が示されているが、10ページの表2「19年間(2005-2024)のランキング推移」を見ると、日本は7位→4位→4位→5位→5位→6位→6位→8位→6位→5位→6位→5位→4位→7位→7位→9位→10位→11位→11位という経過をたどっている。デジタル環境の変化は目覚ましく、デジタル政府の進捗状況も数年で大きく変化しているが、特にこの4~5年間の日本が、ついて行けていない様子が垣間見える。これは何とかしなくては、これ以上の転落は避け、トップ10半ばあたりにはいつも位置したいものと思う。
報告書には「3.日本の課題と提案」として、「日本の課題と構造的弱点」「日本への提言」が書かれている。まずは日本の課題を見ていこう。
日本の課題と構造的弱点
① 司令塔機関としてのデジタル庁の権限の実効性に課題が残ります。重複投資の温床となる官庁間の縦割りの弊害、遅れる行政DXやスピード感の不足は継続案件です。
② 本来、効率性追求、人手不足を解消するはずのAIを必要とする小規模自治体での財政、デジタル格差は、行政運営の機能や継続性に影響を及ぼしています。一時しのぎの支援策ではなく、国はサステナブルな自治体運営をどうすべきか、特に地方の課題解決が急務です。
③ マイナンバーカードの最大の課題は、安定的稼働とユーザビリティの確保。したがって、利活用率の維持促進のためヒューマンエラー解消など行政の信頼は必須です。
④ 急増するサイバーセキュリティ・トラブル対策及び関連するリテラシー向上のための国民各層への教育訓練は不可欠です。
DX化を先だって進めていくべきデジタル庁が司令塔として十分に機能しているかどうか、発言や方針に疑問を感じることも多く、不安なのは確かだ。各自治体のデジタル格差も、努力は見られるものの、なくなってはいない。マイナンバーカードのドタバタは皆が目にしてきたとおりだが、カードを自主返納する人が増えているとの報道も耳に入る。急増するサイバー犯罪に政府や自治体の安全策は万全なのか、国民に先立ってリテラシー向上をうたっていけるのか、などにも疑問が残る。「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」を掲げる日本、ではあるが…。
続いて、報告書における「日本への提言」は次のとおりだ。
日本への提言
日本のデジタル政府の最優先事項として次の2項目の提言が挙げられます。
① 日本のデジタル政府が誕生してまだ20年余しか経過していません。進捗に差こそあれ、世界もほぼ同じ歴史を辿っています。本報告は19回に及ぶ研究調査分析の集大成ですが、19年間の時系列分析から得た貴重な歴史的変遷を評価分析しています。将来のデジタル政府像(モデル)を予見するうえで必要な施策を多面的に論述しています。確実に急成長続けるAIが人類社会に挑戦する2030年代に前倒しの“シンギュラリティ”事象を歴史的教訓から早期に学ぶべきと思います。
② 今やるべきことは、世界に類を見ない日本の少子・超高齢・人口減少社会を見据え、デジタル活用による官民連携やイノベーションの推進による行財政のコスト削減や効率化、積極的且つ最適なデジタル投資です。すなわち、直面するデジタル社会と超高齢社会の融合によって、AI政府創生へスピーディな行財政改革と市民中心の行政サービスの実装が求められます。
このランキングにおいて、このところで広がった日本と他国との格差は、トップ10にまだ戻れそうな現段階でこそ対策しておくべきと思う。生成AIの普及により、そのビジネス活用が盛んな現在、効率性や生産性だけに注目せず、信頼性や透明性、盤石な安全性の確保といった、デジタル政府のガバナンスの根本を、改めて見直す転換点なのではないだろうか。
今後どうなる? 傾向と対策
デジタル時代の激しい変化の中、ランキングの評価対象国は66カ国となっているが、2010年以来、デジタル化の潮流に合わせて分析指標をたびたび見直してきたという。指標も6分野28項目から7分野30項目に拡大、さらにその後、10分野37項目にまで調査対象分野を拡大させ、より正確な評価に徹してきたという。
報告書の「4. 19年間のランキングの歴史的推移と特徴」では、2005年以来の19年間の歴史をまとめ、過去19年間のデータから分析を行っている。それによれば、初期はデジタル・インフラ施設のハード部門の優劣が大事で、インフラに強い国が上位を占めた。中期はアプリケーション普及度の高い国が一世を風靡。その後、新技術に精通した国、サイバーセキュリティに強い国に関心が集まっているという。
各種の国際ランキングでは「低落傾向にある要因を従来の断片的な分析ではなく、総合的、横断的に検討し抜本的な改革を実施する時が来ている」とある。世界各国でコロナ以降デジタル政府やDXへの注力が目立ちはじめ、デジタル庁の設立が相次ぐ中、上位国が抱える諸課題は類似する点も多いという。今後の新潮流および新課題として「高齢社会への行政の対応」「ワンストップ・サービスの普及」「GtoB及びG2G電子化システムの導入」「電子政府による行政透明化・効率化・生産性向上のガバナンス推進」など、6つの項目が挙げられている。
日本の政府は、この報告書を熟読のうえ、襟を正して「抜本的な改革」を行ってほしい。私たち企業もこのランキングに注目し、報告書に目を通しながら今後に役立てていくのがよいだろう。報告書の巻末には「10大個別指標によるトップ10ランキング」が示され、指標別の国ごとの特徴を把握できる。そこには「組織、地域、グループ別の上位ランキング」として、人口の多い国、GDPが高い国などのランキングもある。世界での位置を改めて認識し、今後に生かしていこう。また、このランキングや報告書に加え、以前触れた「情報通信白書」などで総合的な情報を参照、世界の流れを広い視野で見据え、来年再来年には日本がトップ10に返り咲くよう、後押しし、動向を見守っていこう。
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