よく食べて、見た目は健康だが、風邪をひきやすい、疲れやすいなどの不調がある人は栄養失調かもしれません。食べていても、栄養に偏りがあると生じる栄養失調は、「新型栄養失調」と呼ばれ、近年注目を集めています。新型栄養失調とは、どのようなものなのでしょうか。
栄養失調というと、多くの人は痩せ過ぎをイメージします。新型栄養失調は、見た目に現れにくいという特徴があります。食事をしっかり取っているつもりでも、それは量だけで、栄養バランスには注意が払われていないという原因が多いそうです。
日々忙しくて食事に時間とお金をかけたくない場合は、安くて手早く食べられて、しかも食欲がそそられる丼物や麺類、おにぎり、コンビニ弁当といった食事に手を出しがちです。そのような食事が続くと、栄養のバランスが偏ってしまい、ビタミンやミネラル、食物繊維が不足しがちになると考えられています。
働き盛りの30~40代という年齢は、社会的なストレスを受けやすい立場にいることが多いでしょう。ストレスを受けた脳は、タンパク質やビタミン、ミネラルを多く必要とします。前述のような食事で、ビタミン、ミネラルが足りない状態となり、結果ストレスに弱くなるといわれています。
また、肥満を解消するための極端な食事制限によるダイエットや、血中のコレステロールを気にして動物性タンパク質を極端に避けるなども、栄養バランスを崩す原因になります。このように新型栄養失調の原因の多くは、栄養の偏りとされています。
健康で問題ないと思っている人でも、以下のような食事を続けている人は新型栄養失調の予備軍かもしれません。
まず、外食が中心で丼物や麺類ばかり食べている人。このタイプは糖質を取り過ぎている半面、ビタミン・ミネラル・食物繊維が不足しがちです。外食中心になるのであれば、食材にバリエーションがあり、野菜や海藻類が含まれるメニューを意識しましょう。
次にインスタント食品やコンビニ弁当で済ませることが多い人。このタイプは、カルシウムとビタミンが不足しがちです。牛乳やチーズ、野菜ジュース、野菜サラダなどで補うのを心がけましょう。
食生活ではなく、ダイエットやコレステロールなどを気にして、肉類や卵類を避けている人は、タンパク質、鉄分、亜鉛、ビタミンなどが不足しやすいそうです。取り過ぎない程度の肉や卵を食事に加えるか、代わりにツナ缶や魚肉ソーセージといった魚を加工した食品、納豆などの大豆を加工した食品を取り入れましょう。
粗食が「良い」という中高年の勘違い
中高年になると、肥満や病気を心配して、肉や卵などを控えた粗食へと変える人もいます。しかし東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員の熊谷修氏は、これは間違いだと指摘しています。
熊谷氏は著書「正しい肉食 五〇歳をすぎたら肉を食べなさい!」で、「30歳を過ぎると、体重における骨と筋肉の割合が10年ごとに、3~8%ずつ落ちていきます。<中略>つまり筋肉などの主な成分であるたんぱく質は、加齢と共に体から減っていくのです」と述べています。
日常生活で総エネルギーの約70%を消費する、基礎代謝で最もエネルギーを消費する筋肉が、年々と減少していることになります。筋肉が減ると基礎代謝も下がります。若い頃と同じ量を食べると消費し切れず、脂肪として蓄えられ肥満となるそうです。
だからこそ中高年は、筋肉を維持するためにも動物性タンパク質の肉を食べて、基礎代謝を下げないようにと、熊谷氏は著書で説明しています。
ちなみに熊谷氏は、「新型栄養失調」という言葉を提唱した人物でもあります。
新型栄養失調を防ぐには
熊谷氏は著書で、偏りの少ない10食品群を食べることを提唱しています。10食品とは、肉類、魚介類、卵類、牛乳、大豆・大豆製品、緑黄色野菜、芋類、海藻類、果実類、油脂類(腎臓の機能が低下している人は、タンパク質の摂取を減らす治療法を行う場合があるので注意が必要だとしています)。
これらの食品を常に満遍なく食べるのは、なかなか難しいものです。もし忙しさのあまり、コンビニやファストフード中心の食生活になっているときは、朝食や午後の間食の際に、牛乳やヨーグルト、豆乳、野菜ジュースで不足しがちな栄養を補う方法がよいとされています。昼食が外食になる場合は、麺類や丼物だけの単品メニューだけではなく、複数のおかずを食べられる定食ものを選ぶという食生活を心がけましょう。
中高年の新型栄養失調は、栄養の偏った食生活が原因でした。それを防ぐためには、量よりも栄養のバランスに注意することが大切です。自分の食生活を振り返り、新型栄養失調に陥らない食事を心がけてみましょう。
参考文献
・熊谷修『正しい肉食 五〇歳をすぎたら肉を食べなさい!』集英社