「二人心同じうすればその利きこと金を断つ。同心の言はその臭蘭の如し」(『易経』)
経営者は孤独だといわれます。設備投資や新規事業への進出など重大な岐路において、最後は一人で責任を持って決断しなくてはならないからです。しかし、だからといってすべてを一人ですべきなのではありません。自分の欠点や弱点をカバーしてくれるパートナーの存在は、非常に大きな力になります。
攻めと守り、営業と管理、開発と生産……。これらには違った資質や知識が求められることがあります。すべてを備えているビジネスパーソンはいません。得手不得手、能力の限界を知り、それをカバーする手段を探さなければ、会社を成長、永続させることは難しいでしょう。
すばらしい技術や発想で会社を立ち上げたものの、営業力や管理力がなかったために破綻する技術者出身の起業家がいます。数多くの店舗を出店し、巨大なチェーンストアを作り上げても、成長が止まった途端にそれまでの無理がたたり、破綻に追い込まれた経営者もいます。こうしたケースでも、営業力や管理力がある協力者や守りに強い持続力のあるパートナーさえいれば、成長と永続が実現したかもしれません。
儒教の基本経典である「五経」の一つで、古代中国の占いの方法を体系化した『易経(えききょう)』にこんな名言があります。
自分で足りないものを補ってくれるパートナーを大切に…
「二人心同じうすればその利きこと金を断つ。同心の言はその臭蘭の如し」(『易経』)
(訳)二人の心を同じにして事に当たれば金属をも断つ。その二人の言葉は蘭の花のような心地よい香りがする。
極めて親密な交わりを意味する「金蘭の契り」という故事成語の出典となった一節です。
ビジネスにたとえるならば、経営者一人の力では限界があるけれども、ビジョンや志を共有したパートナーや参謀と一緒に力を合わせれば、企業はどんな困難をも乗り越え成長する。そして、その経営者たちの言動は社員たちに感動を与え、やる気を引き出し、将来にわたって会社のDNAとして語り継がれていくといったところでしょうか。
戦後、日本を代表する企業に成長した会社にも名コンビがいました。町工場を世界的な自動車メーカー、ホンダに育てあげた本田宗一郎さんには副社長の藤沢武夫さんがいたことは有名です。藤沢さんが本田さんの不得手な営業や財務分野の仕事を一手に引き受けることによって、本田さんは技術開発に集中することができました。これがホンダが躍進する一因になったのです。そして本田さんと藤沢さんの創業精神はホンダイズムとして現在も同社に息づいています。
経営者が不得手な分野をパートナーに任せて得意分野に集中すれば、思う存分に実力を発揮できます。経営者をサポートする人材には自分と反対のタイプがいいとされるのはこのためです。自分がガンガン攻める攻撃タイプならパートナーは堅実な守りのタイプ、営業タイプなら管理タイプ、体育会系タイプなら文化系タイプということになります。
ただし、その反対のタイプと「心を同じ」にしなければ大きな成果は望めません。同じ志を持ち、強固な信頼関係があることがパートナーの必須条件です。そうした理想のパートナーにはなかなか巡り会えません。もしそんなパートナーに出会えたら、絆を深め、大切にすることが何よりも大切です。
農作物の種子などを生産販売するタキイ種苗の5代目社長の瀧井傳一さんは副社長時代に、自分とは異なるタイプの同年代のパートナー候補を米国の子会社で見つけたそうです。ですが、いきなりの抜擢はしませんでした。数年にわたってさまざまな経験を積ませるなどし、時間をかけてパートナーに育てあげたそうです。