育児・介護休業法が2024年5月に改正された(公布日:5月31日)。改正の趣旨は、「男女ともに仕事と育児・介護を両立できるようにするため」「子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充」、そして「育児休業の取得状況の拡大、介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等の措置を講ずる」といったものだ。
改正内容は、2025年4月1日から各種の取り組みが段階的に施行され、事業主にとって対応は待ったなしといえる。ここでは、ITの観点からその対策と各種の準備に向けたポイントを紹介していきたい。
事業主が講じる措置に含まれる「テレワーク」
改正のポイントは、以下の3点である。
(1)事業主に対する、子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置等の義務化
3歳以上の小学校就学前の子を養育する労働者に関し、事業主が職場のニーズを把握した上で、柔軟な働き方を実現するための措置を講じ、労働者が選択して利用できるようにすることを義務付ける(また、事業主が選択した措置について、労働者に対する個別の周知・意向確認を義務付ける)。
事業主が講じる措置には、始業時刻等の変更や、テレワーク等(10日/月)の実施、保育施設の設置運営等、新たな休暇の付与(10日/年)、短時間勤務等といった取り組みの中から2つ以上を選択して措置する必要がある。そして、労働者は事業主が講じたこれらの措置から1つを選択して利用することができる。個別周知・意向確認の方法は、今後省令により、面談や書面交付等とされる予定だ。
その他、所定外労働の制限(残業免除)の対象となる労働者の範囲を、小学校就学前の子(現行は3歳になるまでの子)を養育する労働者に拡大することや、3歳に満たない子を養育する労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずることが、事業主に努力義務化されることも予定されている。
(2)育児休業の取得状況の公表義務拡大
育児休業の取得状況を公表義務とする対象を、常時雇用する労働者数が300人超(現行は1000人超)の事業主に拡大される(施行日は2025年4月1日)。
(3)介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化
家族を介護する労働者に関し、事業主が講ずる措置(努力義務)の内容に、テレワークを追加する(改正内容を一部抜粋)。
法改正は柔軟な働き方を実現する絶好の機会…
ここまで簡単に紹介してきた改正育児・介護休業法については、厚生労働省の「【特設ページ】令和6年度改正育児・介護休業法」で順次紹介されていくので、参考にしてほしい。さて以下では、より具体的に柔軟な働き方の実現に向けたポイントを考えていきたい。
柔軟な働き方を実現するための手段の1つとしてテレワークがある。これまでもワークライフバランスの手段としてテレワーク(在宅勤務)の有用性が言われてきたが、コロナ禍で在宅勤務を余儀なくされた多くの企業、従業員にとってテレワークの効果を実感できたはずだ。
改正法には「テレワーク」を措置の選択肢の1つ、あるいは努力義務として追加しているだけで、テレワーク用のパソコンやネットワークを用意するとはもちろん書いてない。ただ、これからテレワーク環境を用意する企業、あるいは既存環境を見直す予定の企業は、改正法の趣旨である「柔軟な働き方」を実現する絶好の機会となるはずだ。
その柔軟な働き方に関係するのがファイル共有だ。出社勤務の時には社内LANを介して社内に設置しているオンプレミスのファイルサーバーにアクセスして業務を行っても大きな問題はない。だが、テレワークで社内に設置したファイルサーバーにアクセスするとなるとインターネットVPNなどのネットワーク環境の整備が必要になる。そこで、社内に設置しているファイルサーバーから、クラウドサービスとして提供されるクラウドストレージに切り替える方法がある。インターネット環境があればどこからでもクラウドストレージにアクセスでき、従業員の利便性向上はもちろん、IT担当者のシステム運用負荷の軽減も可能だ。
クラウドストレージはメールでの送受信が困難な大容量データのやり取りも可能だ。社内共有フォルダー、個人用フォルダーに加え、プロジェクトなどで外部との共有が可能なフォルダーが用意され、社外の取引先や協力会社などとのデータ共有が行える。もちろん、テレワークだけでなく、リモートワークや社内勤務での利用が可能だ。
業務開始時にスマホでビジネスチャットの内容を確認
改正育児・介護休業法の措置のうち、テレワーク等と新たな休暇は原則として時間単位での取得が可能とされる。例えば、午前の休暇時間中に電話をかけて業務連絡するのは遠慮すべきだが、午後から仕事をする場合、チャットで連絡を入れておく。午後の業務開始時にスマホでチャットの内容を確認するなど、休暇を取った人も業務の動きに遅れることなく仕事を始められる。この点、仕事でチャットを使うのであれば、セキュリティや管理機能を充実させたビジネスチャットがお勧めだ。1対1、グループトーク、既読確認、ファイル添付、タスク作成、リポート報告などの機能を備え、スピーディーな情報共有とコミュニケーションの活性化が可能だ。
専任のIT担当者がおらず、他部署とIT担当を兼任している企業や、パソコンやネットワークに詳しいIT担当者がそもそもいないという企業もあるだろう。パソコンやインターネット、社内ネットワークが問題なく稼働していればいいが、万一、トラブルを起こせば業務に支障を来すことになりかねない。
病気の際の「かかりつけ医」のように、オフィスのネットワークやパソコンなどITの困り事に対応する「ITのドクター」のサービスもある。オフィスのネットワーク構成などICT環境を調査するサービスや、パソコンの使い方やトラブル対応などのヘルプデスクサポート、ITトラブルの一元的な対応といったサービスを提供。企業が業務に集中できる環境づくりを支援する。
改正育児・介護休業法で定める各種の措置は、事業主の「義務」だから行うというのではなく、従業員が安心して育児・介護を行い、柔軟な働き方ができる環境づくりにより、企業価値の向上にもつながるはずだ。2025年4月1日から施行される措置もあり、早急の対応が求められる。
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