毎回4~5社のスタートアップ企業がビジネスモデルや事業内容のプレゼンを行い、大手企業は新規事業開発などでの連携の可能性を探るというもの。2年前、このイベントを中心となって立ち上げたトーマツ ベンチャーサポート事業統括本部長の斎藤祐馬氏に取り組みの概要や狙いについて聞いた。
斎藤:“不動産”や“災害”など、毎週テーマを変えています。トーマツベンチャーサポートでは全国47都道府県で、2000社のベンチャー企業を支援しています。その中から、テーマに当てはまる数十社をピックアップし、成長ポテンシャルが高かったり事業提携が生まれたりしそうな会社を選んで登壇してもらうという流れです。
斎藤:最初は本当にスタッフだけで、トーマツ及び野村証券を中心とした運営メンバー10人、登壇者2人ぐらいで始めたんです。そこから少しずつお声がけを続けたところ、クチコミ効果もあり、参加者が定期的に100人を超えるようなイベントになりました。大企業が何かベンチャー企業と組んで新規事業を始めたいというときに、ちょうどいい入り口の役割を果たしているんじゃないかと思います。
――あの場で何が生まれることを最も期待していますか。
斎藤:“ベンチャー企業の成長の場”というのが根本的なコンセプトです。まず1つは事業提携を生むこと。そこがベンチャーにとって成長の一番のきっかけになる。一方で、大企業には人がたくさんいる。数社の新規事業の担当に会うだけでも精いっぱい。会えたとしても一緒にやれる人、やってくれる人はほんの一部しかいない。
一部のベンチャー関係者の中では「カベ理論」と呼ばれていますが、大企業にはカベになる人と、一緒にそのカベを超える方法を考えてくれる人の2種類がいる。後者を見つけるのは本当に難しい。ベンチャーのスタートアップは何よりスピード勝負、できるだけ時間を無駄に費やしたくない。
新規事業をきちんと動かそうという意思のある数多くの大企業の人たちと、ある程度信用がおける場で出会えれば、事業提携のスピードが一気に上がり、ベンチャーの成長速度は絶対に上がると思った。そこが一番大きいですね。
もう1つは、ベンチャーのサービスを世に出す場所としての役割があります。少なくとも100人以上の大企業の新規事業担当に知ってもらえます。さらに、メディアの方も来ているので、記事やニュース、または情報番組のネタなどとして取り上げられる可能性もある。
――イベントとしての収支はどうなっているのですか。
斎藤:イベント自体はあくまで先行投資なんです。ベンチャーがどんどん成長していけば、将来的には監査法人トーマツの監査業務などの顧客としても見込めます。一方で、大企業にはベンチャー企業との協業による新規事業立ち上げのコンサルティングなども行っているので、その一環という側面もある。トーマツグループとしてのサービスを提供する、1つの入り口になっている。そういう意味で投資する価値のあるプラットフォームになってきています。
――開始当初は周囲からなかなか理解が得られなかったのではないでしょうか。
斎藤:最初はオフィシャルなものではなく、草の根で、私と野村證券の若手と、あと若手ベンチャーキャピタルの方と3人で始めました。大きな投資は不要ですから、1年目は手弁当で会場を借りて、とにかく人を集めることを続けてきました。それが、2年目からはモーニングピッチ統括プロデューサーを務めるトーマツ ベンチャーサポート事業開発部長の西山直隆が運営を大きく改善し、いま3年目を迎えて非常に大きくなってきたのです。
――ところで、なぜ朝7時スタートにしたのですか。
斎藤:とにかくベンチャーの人たちは朝に弱い人が多い。一方で、一緒に始めた野村證券などは朝6時半でもオフィスにずらーっと人がいたりする。大企業の魅力の1つに、朝早く出社して早く始業するところがあると思ったんです。そこでベンチャーの人たちの朝を強くしようと。
もう1つの理由は大企業の人たちが来やすい時間ということです。彼らは、朝9時には会議の予定が入っていたりする。そもそも有志で参加してもらう場でしたから、本業以外の時間でなきゃいけない。それに朝7時だと言い訳できないですよね。やる気さえあれば絶対に来られる。そういう熱量がある人が来てくれないとベンチャーとは組めないんです。その意味でも早朝であることにすごく意味があった。
――早朝にもかかわらず参加者の皆さんちゃんと聞いています。いろいろなセミナーがありますが、だいたい寝ている人がいるものなんですが(笑)。
斎藤:寝る人は起こしますし、何度も寝る人は追い出しているんです。我々はとにかくベンチャーと本気で組む気がある人しか来てほしくないのです。そこは明確です。
――そもそもの話ですが、斎藤さんはもともと公認会計士で、監査業務をやりながらこの活動を始められたんですよね。
斎藤:そうです。大きなきっかけは、自分が中学校2年のときに父親が脱サラして旅行関係の事業を始めたことです。サラリーマンの頃とは違い、独立してからは父の仕事のことが自ずと気になるようになりました。景気がいいときは父親も機嫌が良くて、家庭内の雰囲気もいい感じだったりする。しかし、あるときキャンセルが続いて、一気に経済的に厳しくなったこともありました。
その姿にリアリティーをもって、すごく大変だなと思う一方で、面白そうに仕事をしているなとも感じていた。やはりそういう生き方って面白いなと。ベンチャーって起業してから儲かる段階にたどり着くまですごく大変ですから、それを支援することをちゃんとやらないとだめなんじゃないかという思いが漠然とありました。
日経トップリーダー 構成/藤野太一